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イーザ家の屋敷内、デイジーの部屋にて。ベッドに上体を起こしているデイジーのそばに六人の人物が集まっていた。
ファルマ、デイジーの両親、メイドのメディ、そして掛かり付けの女性医師と女性看護師の六人である。
開口一番にデイジーの父親のイーザが話し始めた。
「ファルマが病院内で会ったというオリヴィエ=リヴァーについてだが、どうやら保釈されてリヴァー家の屋敷に謹慎していたところ、両親が不在の隙を突いて脱出したらしい。ファルマの話と、彼女と共に数人の使用人も姿を消していることから、彼女の脱出に彼らが協力しているのは間違いないようだ」
メディと医者と看護師が不安な顔を浮かべる。イーザ夫人が次の言葉を引き継いだ。
「オリヴィエ=リヴァーの所在については、目下、リヴァー家が手配した捜索隊と警察、そして我が家の使用人達が探しています」
「……私みたいな普通のメイドじゃなくて、戦闘とか諜報とかも出来る方達ですね……」
「ええ。彼らはいずれもプロですので、オリヴィエ=リヴァーの所在を突き止めるのも時間の問題でしょう。……ただし、彼らの中にその道のプロがいなければ、の話ですが」
イーザが口を挟む。
「リヴァー氏の話によると、いなくなった使用人の中には、我が家にいる者のような武闘派や頭脳派も含まれているらしい。いやはや、本当にしたたかな女性だよ。いくら身内の使用人だからといって、何人もの人間をメロメロにしてしまうんだからな」
「あなた、いまどきメロメロなんて久しぶりに聞きましたよ」
「なら首ったけだ」
「もっと久しぶりに聞きましたよ」
夫人が溜め息を吐いて、イーザが肩をすくめる。話を聞いていたファルマが口を開いた。
「私の追跡魔法でも跡を辿れませんでした。打ち消せる者がいるようです。そして実際に間近で話をして分かりましたが、オリヴィエさんは己の武器を把握して、十全に使いこなしているようです。あるいは魅了の香水やチャームの魔法なども使っているのかもしれません」
「ファルマはよくメロメロにされなかったな? 対抗魔法でも使ったのか?」
「私はデイジーさんを愛していますから」
「…………」
イーザがきょとんと目を丸くした。夫人が言う。
「あなた、何を鳩が豆鉄砲を浴びた顔をしているのですか。ファルマさんが娘に好意を寄せていたのはあなたもご存知だったでしょう。だから薬草のことを教えたわけですし」
「それはそうだが……まさか私達がいる前でこうもはっきり明言するとは……」
「私達の前ではもう言っていましたよ」
「へ……?」
さらにきょとんとする夫を無視して、夫人はファルマに尋ねた。
「しかしファルマさん、貴方には何か考えがあるのですか? オリヴィエ=リヴァーをどうにかする策が?」
「…………、彼女にも武闘派と頭脳派のプロがいるというのなら、捜索は難航する可能性が高いでしょう。彼女達を見つけ出して捕まえる前に、デイジーさん、引いてはこのお屋敷が襲われてしまうかもしれません」
「…………」
夫人を含めて、デイジー以外の視線がファルマの次の言葉を待つ。
しかし次に口を開いたのは彼ではなく、彼のそばのベッドにいたデイジーだった。
「お母様、お父様、それについてはファルマさんとお話をしました」
「「デイジー……?」」
「それを口にする前に、まずお二人に伝えなければいけないことがあります」
デイジーがまっすぐ両親を見る。
「私はファルマさんを愛しています。この世界の誰よりも」
『…………!』
両親だけでなくメディや医者や看護師も目を見開いた。ファルマが愛を明言するのは慣れていたが、まさかデイジーまで公言するとは思っていなかったのだ。
あまりの驚きに口をぱくぱくさせて二人のほうに人差し指を向けながらイーザが妻に顔を向けるが、妻は努めて冷静さを保ちながら口を開く。
「デイジー……あなた、やっと……」
「もうキスも済ませました」
『⁉⁉⁉⁉』
イーザがふらっとなった。イーザ様⁉とメディや医者や看護師が駆け寄って身体を支える。
そんな旦那とは対照的に、夫人が真剣な顔で言った。
「……貴族にとって口付けは重要な意味を持ちます。分かっていますね?」
語尾は疑問形だったが、口調は断定的だった。キスをしたのならば、次にやることは決まっているという確認のように。
デイジーとファルマが真剣な顔でうなずいた。デイジーが言う。
「はい。分かっています」
分担するようにファルマが言う。
「オリヴィエさんはデイジーさんの命を狙っています。病気が治り、愛する者と結ばれて、幸せになるのを妨げる為に。彼女は必ずや再びデイジーさんの前に現れて、今度こそその命を摘み取ろうとするでしょう」
そしてデイジーが宣言した。
「だから、私達の結婚式を挙げます。新聞や雑誌にも大々的に宣伝してもらって、潜伏しているオリヴィエさんにも伝わるようにして。オリヴィエさんはそこに必ず現れるはずです」
イーザが尋ねた。
「だが、本当にやってくるのか?」
「来なかったら、普通に結婚するだけです」
「…………」
いろいろと言いたいことはあったが、確信しているデイジーとファルマを見て、言葉を飲み込んでしまう。夫人達もそのようだった。
デイジーが言った。
「ですが、彼女は必ず来ます。私とファルマさんには分かります」
運命と決着の刻が迫る。
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