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オリヴィエ=リヴァーは自宅屋敷の自室にいた。つい先日、多額の保釈金が支払われて、条件付きで自宅に帰ることができていた。
以前までは室内に専属のメイドが控えていたが、いまは彼女らは室外の廊下で待機して、食事の準備などの用があるときだけ室内に入るようにオリヴィエの父親に言いつけられていた。
オリヴィエの部屋のドアには外から鍵が掛けられていた。内側からは開けられないように加工されていた。
「何でワタクシがこんな目に……?」
婚約発表パーティー内だけでの失態であれば、まだどうとでもなったかもしれない。有力な貴族であるリヴァー家としての威光を光らせて、ときには金にものを言わせて、自身の失態を誤魔化せたかもしれない。
しかしオリヴィエはそのパーティーで、言ってはいけないことを言ってしまった。デイジー=イーザの誘拐を指示したのは自分だと、口を滑らせてしまった。
聞いていた者達は大勢いた。無論、デイジー本人と、彼女の専属メイドや薬師も耳にしていた。
またオリヴィエはその自白を一度だけではなく、パーティー会場で暴れている最中も何度も喚いていた。リヴァー家の使用人や、騒動を収めに来た警察関係者も聞いていた。
いくらなんでも聞いている者が多すぎた。リヴァー家としての権威と財力をもってしても、どうにもならなかった。
よってオリヴィエは一度逮捕され……現在に至る。
「……あのジュースを飲んでからだわ……あのジュースを飲んでから、なんだか気分がふわふわして、とにかくワタクシが知っていることをしゃべって自慢したくなってしまったのよ……あのジュースは……」
警察の取り調べ室において、自白剤の効果が切れて正気を取り戻したオリヴィエは、当初は自分は違うと喚き散らしていた。
そして喚くのにも疲れて喉がかれたころになると、今度は黙秘を貫いた。自分に不利なことをわざわざ言うのは馬鹿らしいと思ったのだ。
とはいえ、喚き散らしていた彼女を担当した刑事は、げっそりと疲れた顔をしていたが。彼女は気付いていなかったし、気付いたとしてもどうでもよかっただろう。
誘拐事件について、彼女は反省していなかった。自分がやったことは正しいと確信し、全部生意気なイーザ家の女が悪いと心から思っていた。
厳密には、まったく反省していないわけではなく、後悔もしていた。しかしそれは犯罪を起こしたことに対してではなく、もっと上手くやれば捕まらずに済んだという意味での反省と後悔だった。
「……あのジュースは、あの薬師の男から渡されたものだったわ……。薬師……薬……しゃべりたくなった気分……、……自白剤……!」
……薬師なら自白剤くらい持っているに違いない……!
オリヴィエはそう連想して結論付ける。むしろなぜいままで刑務所にいたときに考えもしなかったのかと思うくらいだった。
刑務所にいたときは自分への待遇に不満を持って、それに対して文句を言いまくっていた。
……部屋が狭くて汚い、こんな粗末で不味い料理なんか食べられない、他の犯罪者となんか一緒にいられない……などなど。
なかでも最もオリヴィエにとって屈辱的だったのは、入所前の身体検査だった。犯罪を犯したのだから仕方がないと女性刑務官に言われたが、それでもオリヴィエは拒否を貫いた。
結局、多数の女性刑務官に取り押さえられる形で、暴れて抵抗するのもむなしく、彼女は身体検査を強行された。
あのときの屈辱は一生忘れることはないだろう。いつか絶対あいつらを屈辱的な方法でブッ殺してやると誓ったくらいだった。
部屋のドアがノックされた。鍵が開けられ、ノブが回される。
オリヴィエがオークのように険しい顔を向けると、開いたドアの向こうから彼女の父親が顔を見せた。
彼女の父親……リヴァーもまた、ガーゴイルのような厳しい表情をしていた。
「しばらく刑務所に入って、反省したか?」
「ええ、しましたわ。十分に。もう二度と入りたくはありませんわね」
……ワタクシをあんな目に遭わせたあいつら全員いつかブッ殺してやるんだから。今度は絶対に失敗しないと反省していますわ。
にっこりと答える娘に、しかし父親は表情を崩さなかった。血を分けた自分の娘なのだ、いまどんなことを考えているかくらい容易に想像できた。
「オリヴィエ、何度も言ったことだが、もう馬鹿な真似はやめなさい。お前には十分、何もかもを与えてきたじゃないか」
「ええ、そう口を酸っぱく言わなくても、もう馬鹿な真似など絶対に致しませんわ」
……次は賢くやりますとも。
リヴァーは深い溜め息を吐いた。
「……とにかく。お前はしばらく自宅謹慎だ。そうでなくても保釈中なのだからな」
「分かってますとも。あんな汚ならしいとこにいるよりよっぽどマシですわ」
……助けるのが遅いのよ。大事な娘ならさっさと保釈金を払って出しなさいよね。たとえお父様でも、ワタクシに屈辱を味わわせた罰は受けてもらうわよ。
「……私はこれからしばらく外出することになるが、ちゃんと大人しくしているのだぞ。お前の婚約者の様子も見ていかなければならないし」
「婚約者?」
「ノス伯爵家の令息のことだ。目を離した隙にどこかに行ったと思ったら、気絶して戻ってきたらしい。私は詳しい話は聞いていないが、とても怯えて部屋から出たがらないそうだ」
「ふーん。っていうか、まだワタクシの婚約者だったのですね。あんな失礼な態度を見せたくせに」
「お互い様だろう。犯罪に手を染めていた分、お前の方がたちが悪いがな」
「…………」
オリヴィエの顔は笑みを湛えていたが、内心ではビキリと青筋を走らせていた。
……あんな役立たずのクズもいずれ始末してやるわ。
……でもその前に、まずやるべきことは……。
「では行ってくるぞ。ちゃんと大人しくしているのだぞ」
「何度も言われなくても分かっていますわ。いってらっしゃいませ、お父様」
「…………」
どこか心にわだかまりを残しながらも、リヴァーは部屋を出て鍵を閉める。そばにいたメイド達に釘を刺した。
「脱走しないように見張っておけよ。外に出たいと言っても絶対に出すんじゃないぞ」
『かしこまりました』
その声は室内のオリヴィエにも聞こえていたが、彼女はさして気にも止めていなかった。
(ふん。無駄な命令、ご苦労様ですこと)
彼女は窓を見る。その窓には鉄格子がはめられていた。窓の上には脱走防止の小さな魔法陣も描かれている。
(さて、と)
……まずは全ての元凶のあの女と、ムカツク薬師を、滅茶苦茶にして死んだ方がマシだと思えるくらいの屈辱を味わわせてやらないとね。
……で、その後に始末するの。さぞスッキリするでしょうねぇ。ウフフ。
オリヴィエは口を歪ませて、ぞっとするような笑みを浮かべた。
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