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【完結】 【婚約者に病弱な令嬢はいらないと婚約破棄されました。その後、自宅屋敷に来た薬師の方に溺愛されました】  作者: はくら (旧名:ナロー)
【第三章】 【薬草伝説】

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6


「ワイバーン……! まさかこんなところにいるとは! いやそうか、彼らがここに棲むという竜族……!」



 ワイバーンは一体だけではなく、数体の群れで急降下してくる。そのスピードは風のように速く、みるみるうちにファルマの元へと迫っていく。


 ファルマは岩壁から手を離して、懐から丸薬やその他の薬を手にしながら身構えた。



「ワイバーンの群れはAランク以上の討伐難易度、本来は一人で戦うものではありませんが……仕方ありません……!」



 鳥のように前腕部分が翼となっているワイバーン達が地上へと急降下していく。それはさながら鳥に似た爬虫類の散弾だった。


 ファルマが身構えて臨戦態勢に入る。そばにいた馬は危険を察知していち早くその場から逃げ出していた。


 そしてワイバーンの先頭集団がファルマの頭上数メートルの距離にまで迫り、いよいよ戦いの火蓋が切って落とされようとしたそのとき。


 不意にその群れが火炎に包まれた。



「……っ⁉」



 ワイバーンの多くは炎に焼かれる前に左右方向に脱出したが、逃げ遅れた二、三体が焼けただれた身体を地面へと落下させていく。


 ファルマはとっさに地面を蹴るようにして飛び下がり、ドズゥンと地響きを立てながら落ちたワイバーンの身体を避けた。



「いったい、何が……⁉」



 落ちたワイバーンから頭上へとすぐに視線を移す。彼へと迫っていた他のワイバーン達もその場に滞空しており、自分達よりさらなる上空を見上げていた。



『グオオォォーッ!』



 そこに、ワイバーンとは異なる種類のドラゴンが一体いた。ワイバーンよりも一回り以上も巨大で、他生物を一裂きでズタズタにし得る鋭い爪と牙、硬い鱗と大きな翼を持つそれは。



「ファフニール……!」



 財宝を守るという伝説を持つドラゴン、ファフニールだった。



「まさかファフニールまで……!」



 ワイバーンの群れだけでも厄介極まりないのに、さらには伝説的な強さのファフニールまで出てきたとあっては、さすがのファルマでも死神の手に心臓を掴まれたような心地だった。



「けれど、私は……!」



 自分の帰りを待っている人がいる。


 絶対に助けたい人がいる。


 こんなところで死ぬわけにはいかない!


 ファルマが全身に魔力のオーラをまとう。身体能力を強化する技術だった。


 ただし魔法による強化とは異なり、消費魔力を抑えられる代わりに強化倍率も低くなっている。ファルマは魔法の身体強化を覚えていなかったので、戦闘の際はこれを使っていた。


 また先ほどファルマ自身も言っていたが、この魔力の強化で岩の台地の岩壁を登頂することはできなかった。


 ワイバーンの群れとファフニール、それらを一度に相手にするために身構えたとき……ワイバーンの群れはファルマではなくファフニールのほうへと進路を変えた。


 ファフニールもまたファルマを無視してワイバーンの群れを返り討ちにしていく。



「……っ……!」



 ファフニールに倒されて落下してくるワイバーンを回避しながら、ファルマは目の前で起きている光景、その情報を整理しようとする。


 よく見ると、ワイバーンの群れとファフニールの戦いから少し離れた空中に、両足で一つの卵を掴んでいるワイバーンがいた。



「あれは、卵……? まさか、いや、それならファフニールがワイバーンと戦う理由に説明がつきます……。先ほどの炎も、思い返してみれば、あの卵を狙ったものではなかった」



 卵とはいっても鶏卵のように小さなものではなく、もっと大きな卵だった。ここからでは距離があるため正確な大きさは測れないが、おおよそバレーボールやバスケットボールを二、三個並べたくらいの大きさがあった。



「あれはファフニールの卵で、ワイバーンがそれを奪っていった。ファフニールは子供を取り返す為に、ワイバーン達を追いかけて戦っている……。だとすれば……!」



 手にしていた薬品を収納魔法のなかに放り込むようにしまい、ファルマは両手のひらに小さな緑の魔法陣を展開する。その手のひらに魔法の弓矢を生成して、卵を持つワイバーンへと狙いを定めた。



「あのワイバーンを倒して、卵を回収して守る。さっきの炎は卵から離れていたワイバーン達を狙ったようでしたが……卵さえ無事だと分かれば、全力でワイバーンを倒していくはず……」



 戦いに集中しているため、ワイバーンもファフニールもファルマの動向には気付いていない。卵を無事に回収して守るのならば、いまが絶好の機会だった。



「…………」



 片目を閉じるようにして、狙いを定める。手の震えはなく、普段通り心は至極平静で落ち着いている。


 そこには殺意も憎悪もなく、あるのはただ冷静な、目標を正確に撃ち抜くという心のみ。


 そしてファルマは指を離し、風のような速さで矢が放たれた。



『ッ⁉』



 戦いに集中していたファフニールとワイバーン達は気付いていないようだったが、野生の直感がそうさせたのか、卵を持って静観していたワイバーンは自身に迫る魔法の矢にいち早く気付いた。


 そのワイバーンがなにを思っていたのかはファルマには分からない。この矢は自分自身には脅威ではなくとも、卵に命中したらせっかくの獲物が台無しになると思ったのかもしれない。


 迫る魔法の矢を避けるためにワイバーンは翼をはためかせて横に移動する。矢は目標の真横を素通りして外れた……が。



「曲がれ!」



 ファルマのかけ声とともに、矢が進路を急転換させて再びワイバーンへと迫っていく。



『ッ⁉』



 これは通常の矢ではなく、魔法で作られた矢である。術式には、込められた魔力の続く限りファルマの意のままに動く式が編み込まれていた。


 よって、再び迫る矢を避けるために動いたワイバーンを、その回避すら許さないというように矢はさらに追撃していく。



「避けることが出来ないとなれば、貴方が取る手段は限られるはずです。撃墜させるしかない、と」



 ファルマの言葉がワイバーンに聞こえていたか、理解できていたかも不明である。しかしワイバーンはその言葉の通りに、片翼を大きく振りかざして矢を撃墜しようと目論んだ。



「そして私が待っていたのはこの時です。魔法の矢よ、加速しろ!」


『ッ⁉⁉⁉⁉』



 自由自在に曲がれるのと同様に、魔法の矢は加速や減速もできるのである。ファルマの指示によってワイバーンの手前で急加速した矢は、とっさに対応できなかったワイバーンの胸元へと見事に突き刺さった。



『ギギャアアァァーッ!!!!』


「矢の先には毒が仕込んであります。貴方を確実に仕留める為に」



 薬は、使いかたによってはときに毒にもなり得る。ファルマは先ほどの薬品とは別の毒を、すでに矢に仕込んでいたのだった。


 そのワイバーンが体勢を崩して落下する。足に掴んでいた卵も離されて落ちてくる。


 上空に木霊した絶叫に、他のワイバーン達やファフニールが落下するそれらに気付いた。我が子を助けるためにファフニールは真っ先に急降下するが、何体かのワイバーンがそれを阻止し、残りの仲間が卵が潰れる前に回収しようと急降下する。



「させません。卵は私が守ります」



 ファルマが再び弓に矢をつがえる。今度は一本ではなく、数本の矢を一度につがえ、射出する。無論、毒を付与している。



「ワイバーンを射落としなさい」



 魔法の矢は先ほどのようにそれぞれのワイバーンへと向かい、回避されても追撃し、撃墜しようとした隙を突いて加速して仕留めていく。


 そしてファルマは地上へと落ちてきた卵に手をかざして、



「魔法の結界よ、卵を守れ!」



 卵の真下の地面に緑の魔法陣を展開して、卵を囲む緑色の半透明の立方体を出現させた。


 魔法による結界は卵が地面に激突するのを防ぎ、またその落下速度すらも打ち消したように卵を守りきる。卵はふよふよと結界のなかに浮いていて、小さなひび一つ入ることなく無事だった。



「ふぅ……っと、安心するのはまだ早いですね」



 じんわりと汗ばんだ額を腕で拭おうとして、ファルマはワイバーンのことを思い出して結界と自分をその場から移動させる。直後、いまファルマと結界がいた場所に次々と魔法の矢が刺さって絶命したワイバーン達が激突していった。



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