第九十八話 言葉の温もり
ステージでのトークを終え、
美咲は控室で一息ついていた。
ペットボトルの水を一口飲む。
「お疲れさまでした」
スタッフが笑顔で声を掛ける。
「ありがとうございます」
緊張はまだ少し残っていたが、
心は穏やかだった。
しばらくすると、
交流会の時間が始まる。
スタッフの案内で、
出演者は決められたブースへ移動した。
机を挟み、
来場者と短い時間だけ言葉を交わせる。
開始の合図。
最初の来場者が、
少し緊張した様子で歩いてきた。
「初めまして」
「初めまして」
二人は笑顔で挨拶を交わす。
「いつも配信を見ています」
「ありがとうございます」
「仕事で疲れた日に、美咲さんの配信を見るのが楽しみなんです」
その言葉に、
美咲は思わず目を丸くした。
「そう言っていただけて、本当に嬉しいです」
スタッフが時間を知らせる。
「ありがとうございました」
来場者は最後に深く頭を下げ、
次の人と交代した。
二人目。
三人目。
それぞれが違う言葉を届けてくれる。
「歌に元気をもらっています」
「配信で笑えるようになりました」
「これからも無理せず続けてください」
どの言葉にも、
飾り気はなかった。
だからこそ、
胸にまっすぐ届く。
交流会も終盤。
最後にやって来たのは、
小学生くらいの女の子だった。
母親と手をつないでいる。
女の子は少し恥ずかしそうに、
小さな封筒を差し出した。
「これ……」
スタッフが確認し、
問題がないことを確かめてから、
美咲へ手渡した。
封筒の中には、
一枚の手紙。
色鉛筆で描かれた花と、
大きな文字。
『いつもありがとう。
うたがだいすきです。』
短い文章だった。
でも、
その一文字一文字に、
精いっぱいの気持ちが込められていた。
「ありがとう」
美咲は目線を合わせ、
優しく微笑む。
女の子も笑顔になり、
大きく手を振って去っていった。
交流会終了。
控室へ戻ると、
七海が嬉しそうに話しかける。
「ファンの方って、本当に温かいですね」
「うん」
美咲は頷く。
「コメントでいただく言葉も嬉しいけど」
「直接伝えてもらうと、また違う温かさがあるね」
佐藤も静かに加わる。
「今日の皆さんの表情を見ていて思いました」
「高梨さんは、数字だけでは測れないものを積み重ねてこられたんですね」
美咲は少し照れながら笑う。
「私一人では、ここまで来られませんでした」
帰宅した夜。
手帳を開く。
今日のページは、
いつもよりゆっくり書き始めた。
『イベントで多くの方と直接お話しした。
配信が誰かの日常の一部になっていることを知った。』
少し考え、
封筒から取り出した手紙を見つめる。
最後に、
こう書き添えた。
『届けたつもりだった言葉は、私のほうにも届いていた。』
ページを閉じる。
机の上には、
陽菜の絵と、
女の子からもらった手紙が並んでいた。
どちらも、
誰かの「応援」が形になったもの。
その温もりは、
夏の夜が更けても、
美咲の胸の中で静かに灯り続けていた――。




