第九十二話 はじめての打ち合わせ
翌週。
仕事を終えた美咲は、
事務所の会議室を訪れていた。
今日は、
イベント主催者との初めての打ち合わせがある。
会議室には、
佐藤と担当スタッフがすでに席についていた。
しばらくすると、
主催者側の担当者が入室する。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
穏やかな挨拶から、
打ち合わせは始まった。
イベントのテーマ。
出演者の紹介。
進行予定。
一つひとつ丁寧に説明される。
美咲は必要なところへメモを取りながら耳を傾けた。
質疑応答の時間になる。
「何かご不明な点はございますか?」
美咲は少し考えてから口を開いた。
「会場での写真撮影や動画撮影は、どのようなルールになりますか?」
担当者はすぐに答えた。
「撮影可能な時間を限定する予定です」
「それ以外はスタッフがご案内します」
「出演者の導線も一般来場者とは分ける予定です」
佐藤が静かに頷く。
「ありがとうございます。その点を確認できて安心しました」
打ち合わせは一時間ほどで終了した。
担当者が帰った後、
会議室には美咲と佐藤だけが残る。
「どうでしたか?」
佐藤が尋ねる。
「すごく丁寧でした」
「はい。現時点では運営体制もしっかりしています」
「もちろん最終確認は続けますが、前向きに進められそうです」
その言葉を聞いて、
美咲の表情が少し明るくなった。
帰宅後。
恒一が夕食の準備を手伝っていた。
「打ち合わせどうだった?」
「思ってたより安心できたよ」
「それなら良かった」
陽菜は隣で折り紙を折っている。
「ママ、おしごと?」
「うん。みんなに会えるイベントのお話だよ」
「がんばってね!」
その無邪気な笑顔に、
美咲は思わず笑った。
夜の配信。
今日も正式発表前のため、
イベントには触れない。
代わりに、
リスナーからの質問へ答えながら、
穏やかな時間を過ごす。
「何か新しいこと始める予定ありますか?」
そんなコメントが流れる。
美咲は少し笑って答えた。
「今は毎日を大切に過ごしています」
「皆さんにご報告できることがあれば、その時にお話ししますね」
コメント欄には、
【楽しみに待ってます!】
【無理せずね!】
【応援してます!】
温かな言葉が並んでいく。
配信終了後。
手帳を開く。
『イベント打ち合わせ。
運営体制を確認。
前向きに検討。』
そして、
ページの最後に書き添える。
『信頼は、一つずつ積み重ねるもの。』
書き終えた美咲は、
ペンを静かに置いた。
これまでの経験で学んだことは、
疑うことではなかった。
確かめること。
相談すること。
そして、
信頼できる人と一緒に前へ進むこと。
その積み重ねが、
新しい挑戦への一歩を支えてくれていた――。




