第九十一話 届いた知らせ
夏休みも中盤に差しかかった頃。
朝の支度を終えた美咲は、
いつものようにスマートフォンでメールを確認していた。
仕事関係。
配信のお知らせ。
広告の案内。
その中に、
一通だけ見慣れない件名があった。
「配信イベント出演のご相談」
「……出演?」
思わず声が漏れる。
差出人は、
以前インタビューを受けた出版社ではない。
配信者向けのイベントを企画している会社だった。
「どうした?」
朝食を終えた恒一が尋ねる。
「イベントのお話みたい」
「すごいじゃないか」
「まだ相談だから」
美咲は笑いながらも、
メールをもう一度読み返した。
人気配信者を集めた、
トークとライブのイベント。
出演は数十分程度。
詳細について打ち合わせをしたいという内容だった。
「事務所にも連絡しよう」
美咲は、
すぐに佐藤へメールを転送した。
一時間後。
佐藤から電話が入る。
『拝見しました』
「どう思われますか?」
『現時点では問題のある内容には見えません』
『ただし、主催者や会場、運営体制などを確認した上で判断しましょう』
「お願いします」
以前の美咲なら、
すぐに「出たい」と返事をしていたかもしれない。
今は違う。
確認してから決める。
その手順が自然になっていた。
夕方。
仕事帰りに、
愛美へその話をすると、
目を丸くした。
「イベント?」
「まだ決まってないけどね」
「でも、それってすごいよ!」
美咲は照れ笑いを浮かべる。
「来てくれる人が楽しめるなら、やってみたいなって」
「その気持ちが美咲らしい」
愛美は嬉しそうに笑った。
夜。
配信では、
イベントの話にはまだ触れなかった。
正式に決まるまでは話さない。
それも事務所と相談して決めたことだった。
代わりに、
いつものように歌を歌い、
リスナーと笑い合う。
配信終了後。
手帳を開く。
今日は少しだけ、
書くことが多かった。
『イベント出演の相談あり。
事務所と確認中。
正式決定まで公表しない。』
その下へ、
もう一行だけ書き添える。
『焦らず、一歩ずつ。』
書き終えた美咲は、
窓の外を見上げた。
夜空には、
夏の星座が静かに輝いている。
未来は、
まだ白紙だ。
だからこそ、
どんな色にも描いていける。
美咲は手帳を閉じ、
明日への期待を胸に、
静かに部屋の明かりを消した――。




