第八十六話 残された足跡
公園から帰宅した夕方。
陽菜は遊び疲れたのか、
リビングで眠ってしまった。
恒一が毛布をそっと掛ける。
「今日はよく遊んだな」
美咲は微笑みながら頷いた。
そして、
佐藤からのメッセージを思い出す。
「少し電話してくるね」
ベランダへ出て、
静かに電話を掛けた。
『お疲れさまです』
「お疲れさまです」
佐藤の声は、
いつもと変わらない。
だからこそ、
美咲は少し安心した。
『新しい情報が一つあります』
「はい」
『と言っても、新しい出来事ではありません』
美咲は首をかしげる。
『これまでの記録を見直していて、気付いたことがあります』
佐藤は資料を開く音を立てた。
『高梨さんが保存してくださっていたスクリーンショットです』
「スクリーンショット……」
『全部の日付を並べ直しました』
『すると、一つの傾向が見えました』
美咲は黙って耳を傾ける。
『問題となるコメントが投稿された日は、ほとんどが金曜日か土曜日でした』
「……本当ですか」
『はい』
『平日はほとんど通常の視聴だけです』
美咲は記憶をたどる。
確かに。
イベント配信も、
週末が多かった。
でも、
それだけでは説明できない。
「何か意味があるんでしょうか」
『まだ分かりません』
『仕事や生活の都合かもしれません』
『偶然かもしれません』
『ですから、これも現時点では特徴の一つです』
いつものように、
慎重な結論だった。
電話を切ったあと、
美咲は手帳を開く。
過去のページをめくる。
一月。
二月。
三月。
本当に、
金曜や土曜の記録が多い。
「こんなこと、気付かなかった……」
積み重ねた記録だからこそ、
見えてくることがある。
その夜。
恒一にも話した。
「週末だけ?」
「多いみたい」
恒一は少し考え込む。
「生活リズムなのかもな」
「そうかもしれない」
美咲も同意した。
決めつける理由はない。
だからこそ、
可能性として残しておく。
翌週。
金曜日。
配信開始。
いつも通りの雑談。
コメント欄も穏やかだった。
美咲は時計を見る。
開始から四十分。
何も起きない。
少しだけ肩の力が抜ける。
そして、
配信終了まで何事もなかった。
手帳を開く。
『金曜日。
異常なし。』
その一文を書いた時、
美咲は少しだけ笑った。
特徴は、
絶対ではない。
例外もある。
それが分かっただけでも、
今日の記録には意味があった。
一方、
事務所では。
セキュリティ担当が、
新しい資料へ赤字で追記していた。
「週末傾向あり。ただし例外を確認」
その横には、
さらに短く一言。
「継続観察」
点は増え続ける。
線も少しずつ伸びていく。
だが、
まだ全体の形は見えていなかった――。




