第七話 本気になるということ
イベント終了から三日。
私は少し変わっていた。
朝。
通勤電車の中。
以前ならSNSを眺めていた時間。
今は違う。
人気ライバーの配信アーカイブを見ていた。
昼休み。
弁当を食べながら配信研究。
帰宅後。
娘の宿題を見る。
夕食。
片付け。
入浴。
そして配信。
毎日が慌ただしい。
だが以前より充実していた。
「ママ最近ずっとスマホ見てるね」
夕食中。
陽菜が言った。
「仕事の勉強」
半分本当で半分嘘だった。
「ライバーの勉強でしょ」
バレていた。
恒一が吹き出す。
私は少し赤くなった。
「まあ……そうとも言う」
陽菜は楽しそうに笑う。
「頑張ってね」
その一言が嬉しかった。
その夜。
配信開始。
【こんばんは】
【今日も研究した?】
【ガチ勢になってる笑】
コメント欄も知っている。
イベント惨敗後、
私が変わったことを。
「今日は真面目な話してもいいですか?」
【珍しい】
【どうした】
【聞くよ】
私は深呼吸した。
「イベント負けてから思ったんです」
コメント欄が静かになる。
「私、配信を舐めてました」
本音だった。
フォロワーが増えた。
常連ができた。
少し褒められた。
どこかで勘違いしていた。
頑張れば勝てる。
そんな風に。
でも現実は違った。
上位ライバーたちは、
想像以上に努力していた。
配信時間。
企画力。
SNS運用。
ファンとの関係。
全部。
私は何も知らなかった。
【それ気付けたの大きい】
タカさんのコメントが流れる。
「だから決めました」
私は言った。
「次のイベントで入賞します」
一瞬。
コメント欄が止まった。
そして。
【おおおお】
【宣言した】
【言ったな笑】
【期待してる】
コメントが一気に流れる。
不思議だった。
怖いのに。
不安なのに。
宣言した瞬間、
少しだけ楽になった。
逃げ道がなくなったからかもしれない。
翌週。
私は初めてライバー交流会に参加した。
事務所主催のオンライン交流会。
画面には十数人のライバーが並ぶ。
若い。
とにかく若い。
二十代前半。
大学生。
フリーター。
専業ライバー。
三十五歳の私は明らかに浮いていた。
「こんばんはー!」
明るい声が響く。
画面に映った女性を見て、
私は思わず目を止めた。
長い髪。
整った顔立ち。
コメント欄でよく名前を見るライバーだった。
白石玲奈。
事務所内でも勢いのある新人。
私より年下。
フォロワーも多い。
バトルも強い。
「みさママさんですよね?」
突然話しかけられた。
「え?」
「イベント出てましたよね」
私は驚いた。
覚えられていた。
「見てました」
玲奈は笑った。
「話し方好きです」
思わず固まる。
褒められ慣れていない。
「ありがとうございます」
なんとか答える。
交流会が進む。
しかし私は気付いていた。
玲奈が別格だということに。
話が上手い。
空気を読むのも上手い。
人を巻き込むのも上手い。
正直。
羨ましかった。
交流会終了後。
私はスマホを見つめていた。
玲奈。
同じ新人。
でも違う。
今の私では届かない。
その差が悔しかった。
だが同時に思う。
いつか。
いつか同じ舞台で戦いたい。
その頃の私はまだ知らない。
白石玲奈が、
やがて新人王最大のライバルになることを。
そして――
親友にもなることを。




