第五十七話 決戦前夜
新人王二十三日目。
順位二位。
残り一日。
明日で終わる。
長かった。
本当に長かった。
最初はコメントを読むだけで精一杯だった。
バトルで負けて落ち込んだ。
事務所イベントで大敗した。
アンチコメントに傷付いた。
家族との時間も削った。
たくさん悩んだ。
それでも。
ここまで来た。
朝。
ランキングを見る。
二位。
一位との差。
昨日より少し縮まっていた。
逆転可能。
そんな数字だった。
私はスマホを閉じる。
今日は見ない。
そう決めた。
少なくとも仕事中は。
昼。
会社の会議室。
資料説明をしている途中で、
ふとスマホが気になる。
ランキング。
順位。
ポイント。
頭の中に浮かぶ。
私は苦笑した。
完全に重症だ。
でも。
今日は我慢した。
仕事を終える。
帰宅。
玄関を開けると、
陽菜が飛び出してきた。
「ママ!」
「どうしたの?」
陽菜は紙を差し出した。
手作りの応援ボードだった。
色鉛筆で描かれている。
ママがんばれ
いちばんになれ
少し文字が曲がっている。
でも。
とても丁寧だった。
私は思わず抱きしめる。
「ありがとう」
陽菜は得意げだった。
「明日使ってね!」
その様子を見ながら、
恒一が笑う。
「俺も応援してるぞ」
私は少し驚く。
「珍しい」
「たまにはな」
恒一は肩をすくめた。
そして。
珍しく真面目な顔になる。
「結果はどうでもいい」
私は黙る。
「ここまで来たんだから」
「胸張れ」
その言葉に、
胸の奥が少し温かくなった。
夜。
配信開始。
今日は特別だった。
新人王前夜。
視聴者数は過去最高。
コメントの流れも速い。
【決戦前夜】
【明日だ】
【緊張する】
私も緊張していた。
でも。
不思議と怖くなかった。
以前とは違う。
順位だけじゃない。
ここまで積み上げてきたものがある。
だから。
私は笑っていた。
配信中。
次々とライバーが遊びに来る。
愛美。
事務所の仲間たち。
そして。
神崎レナ。
コメント欄が盛り上がる。
【レナさん!】
【一位だ】
【決戦だ】
私は少し緊張する。
すると。
レナのコメント。
【明日はよろしくお願いします】
私は笑った。
「こちらこそ」
しばらくして。
レナからギフトが飛ぶ。
大きくはない。
でも。
意味は十分伝わった。
応援。
コメント欄が温かくなる。
【いい関係】
【泣ける】
【熱い】
私は少し目頭が熱くなった。
敵じゃない。
勝ちたい相手。
でも。
尊敬できる相手。
そんな存在だった。
配信終了。
順位更新。
二位。
↓
二位。
変わらない。
差もほぼ変わらない。
明日で決まる。
私はベランダへ出た。
東京の夜景。
静かな風。
スマホが震える。
DM。
神崎レナだった。
【最後に一つだけ】
私は画面を開く。
そして。
そこに書かれていた言葉を見て、
しばらく動けなくなった。
【一位になっても幸せになるとは限りません】
【でも後悔しない終わり方はできます】
私は何度も読み返す。
順位より大切なもの。
レナはずっとそれを伝えようとしていた。
新人王二十三日目終了。
順位二位。
残り一日。
明日。
高梨美咲の新人王が終わる――。




