第五十三話 眠れない夜
新人王十九日目。
順位六位。
残り五日。
いよいよ終盤戦だった。
朝。
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
時計を見る。
午前四時十二分。
早すぎる。
もう一度寝ようとする。
だが。
眠れない。
気付けばスマホを手に取っていた。
ランキングを開く。
六位。
↓
五位。
私は息を呑んだ。
上がっている。
夜中の集計で順位が変わったらしい。
嬉しい。
嬉しいはずなのに。
心臓が落ち着かない。
四位との差。
三位との差。
数字を見始める。
そして。
気付けば三十分が過ぎていた。
私はスマホを置く。
完全に目が覚めていた。
朝食。
恒一がコーヒーを淹れている。
「寝不足?」
私は苦笑した。
「分かる?」
「顔見れば」
陽菜も言う。
「ママ眠そう」
図星だった。
夜中にランキングを見る。
最近増えていた。
気になってしまうのだ。
仕事中も同じだった。
資料を作りながら、
ふと順位を確認する。
メール返信中に、
ランキングを開く。
完全に中毒だった。
自覚はある。
でも止められない。
残り五日。
ここまで来たら。
そう思ってしまう。
夜。
配信開始。
今日の視聴者数は過去最高だった。
コメント欄も速い。
【五位おめでとう】
【見つかったな】
【優勝狙える】
優勝。
その言葉に私は首を振る。
「無理ですよ」
本気だった。
一位との差は大きい。
現実的ではない。
しかし。
コメント欄は違った。
【まだ分からん】
【夢見よう】
【最後まで】
私は笑う。
みんなの方が前向きだった。
配信開始から二時間。
大型バトル。
勝利。
さらにバトル。
勝利。
順位が動く。
五位。
↓
四位。
コメント欄が熱狂する。
【四位!】
【やばい!】
【本当にあるぞ!】
私は息を吐く。
現実感がなかった。
四位。
全国四位。
数週間前の私が聞いたら笑うだろう。
その時だった。
大きなギフトが飛ぶ。
続いてもう一つ。
さらに連続。
コメント欄がざわつく。
【誰だ?】
【初見?】
【すごい】
私はギフト履歴を見る。
見覚えのない名前だった。
初見。
それなのに。
とんでもない額を投げている。
私は慌ててお礼を言った。
するとコメント。
【ずっと見てました】
短い一言。
私は笑顔で返した。
「ありがとうございます」
しかし。
なぜだろう。
少しだけ違和感があった。
何がとは言えない。
ただ。
心に引っ掛かる。
配信終了。
順位更新。
四位。
↓
四位。
維持。
私はベッドへ倒れ込んだ。
疲れた。
本当に。
スマホが震える。
神崎レナからDM。
【最近眠れていますか?】
私は笑ってしまう。
昨日も同じような話をしたばかりだ。
【あまり】
正直に返す。
すると。
返信はすぐ来た。
【危ないですね】
私は眉をひそめる。
【何がですか?】
少し間が空く。
そして。
【上位勢が一度は通る道です】
【順位に生活を食べられるんです】
私は言葉を失った。
順位に生活を食べられる。
その表現が妙に刺さる。
最近の自分そのものだった。
新人王十九日目終了。
順位四位。
夢のような順位。
しかし。
その代わりに、
高梨美咲は少しずつ睡眠を失い始めていた――。




