第五十一話 見えなくなった夕食
新人王十七日目。
順位八位。
イベント終了まで残り一週間。
ここからが本当の勝負だった。
朝。
目を覚ますと、すでに恒一が朝食を作っていた。
味噌汁の匂い。
焼き魚の香り。
いつもの朝。
でも。
私の頭の中はランキングでいっぱいだった。
八位。
七位との差。
六位との差。
気付けばスマホを開いている。
「ご飯冷めるぞ」
恒一の声で我に返った。
「あ、ごめん」
陽菜は牛乳を飲みながら言う。
「ママ最近スマホばっかり」
私は苦笑した。
「そう?」
「うん」
子供は正直だ。
少しだけ胸が痛くなった。
仕事中も同じだった。
会議。
資料作成。
メール返信。
その合間にランキングを確認する。
気になってしまう。
新人王が。
ここまで来たから。
もう少し上へ行きたい。
そんな欲が生まれていた。
夜。
配信開始。
今日も人が多い。
トップ10入りの影響は大きかった。
【こんばんは】
【八位おめでとう】
【上位勢】
私は笑顔で返す。
だが。
今日は少し疲れていた。
会社。
家事。
育児。
配信。
全部やる。
できているつもりだった。
しかし。
少しずつ無理が出始めていた。
その時。
通知。
大型バトル。
受ける。
勝つ。
またバトル。
さらに受ける。
コメントを読む。
リアクションする。
笑う。
気付けば三時間。
配信は大成功だった。
順位も上がった。
でも。
終わった瞬間だった。
どっと疲れが押し寄せる。
肩が重い。
目も痛い。
「終わった……」
私はソファにもたれた。
その時。
キッチンから恒一が出てくる。
「飯あるぞ」
私は時計を見る。
午後十一時。
「あ……」
そこで気付いた。
夕食を食べていない。
恒一が苦笑する。
「またか」
また。
その言葉が胸に刺さる。
最近増えていた。
配信に集中しすぎて、
夕食を後回しにすることが。
陽菜はもう寝ていた。
顔も見ていない。
朝以来だった。
私は少し黙る。
恒一が静かに言った。
「無理してないか?」
私はすぐ答える。
「大丈夫」
でも。
その言葉に自信がなかった。
恒一はそれ以上何も言わなかった。
ただ。
温め直した夕食を置いてくれる。
私は一人で食べる。
静かなキッチン。
以前なら、
家族三人で食べていた時間だった。
スマホが震える。
ランキング更新。
八位。
↓
七位。
上がった。
本来なら嬉しいはずだった。
でも。
なぜだろう。
今日は素直に喜べない。
その時。
通知が届く。
神崎レナからDM。
【最近寝ていますか?】
私は苦笑した。
なぜ分かるのだろう。
続いてメッセージ。
【上位に来るとみんな同じことをします】
【生活を削るんです】
私は画面を見つめた。
まるで見透かされているようだった。
さらに続く。
【でも、それは長く続きません】
短い文章。
しかし。
妙に重かった。
新人王十七日目終了。
順位七位。
順位は上がった。
けれど。
何かが少しずつ欠け始めていた。
高梨美咲はまだ気付いていない。
夢を追う代償が、
静かに日常を削り始めていることに――。




