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ママライバー美咲 ~ライブ配信で「ただいま」と言える居場所を育てています~  作者: ふぁい(phi)
第一章 はじまりの一歩

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第五話 初バトルは五分で終わった



金曜日の夜。


私はいつもより一時間早く配信を始めていた。


理由はひとつ。


今日が初バトルだからだ。


 


「なんか緊張する……」


 


【顔固い笑】


【新人王決勝みたいな顔してる】


【まだ初戦だから】


 


コメント欄は相変わらず好き放題だった。


 


「だって初めてなんですよ?」


 


【みんな初めてはある】


【落ち着いて】


【深呼吸】


 


私は言われるまま深呼吸した。


 


しかし心臓はまったく落ち着かない。


 


 


配信を始めて一か月。


 


視聴者は少し増えた。


 


常連もできた。


 


 


でも。


 


 


バトルは別だ。


 


 


相手がいる。


 


勝敗がある。


 


数字で結果が出る。


 


 


それが怖かった。


 


 


 


「本当に押しますよ?」


 


 


【いけ】


【GO】


【やっちゃえ】


 


 


私は震える指でバトルボタンを押した。


 


 


数秒後。


 


マッチング成立。


 


 


相手が画面に映る。


 


 


二十代前半くらいの女性だった。


 


 


慣れた様子で笑顔を浮かべる。


 


 


「よろしくお願いしまーす♪」


 


 


声も明るい。


 


 


慣れている。


 


 


私はそれだけで圧倒された。


 


 


「あ、よろしくお願いします」


 


 


声が小さい。


 


 


自分でも分かった。


 


 


 


バトル開始。


 


 


残り五分。


 


 


カウントダウンが始まる。


 


 


私は何を話していいか分からなかった。


 


 


相手は違う。


 


 


「みんなこんばんはー!」


 


 


「初見さんいらっしゃい!」


 


 


「応援よろしくねー!」


 


 


次々に言葉が出る。


 


 


コメントも拾う。


 


 


ギフトも拾う。


 


 


リアクションも大きい。


 


 


 


私はただ見ていた。


 


 


完全に飲まれていた。


 


 


 


【みさママしゃべれ笑】


 


 


【頑張れ】


 


 


【固まってる】


 


 


コメント欄が応援してくれる。


 


 


それでも頭が真っ白だった。


 


 


 


残り二分。


 


 


点差が表示される。


 


 


大差。


 


 


圧倒的大差。


 


 


 


「あっ……」


 


 


思わず声が漏れた。


 


 


負けている。


 


 


いや。


 


 


負ける。


 


 


 


そのときだった。


 


 


画面が光る。


 


 


『タカさんがギフトを贈りました』


 


 


続いて。


 


 


『ユキさんがギフトを贈りました』


 


 


『カズ坊がギフトを贈りました』


 


 


 


コメント欄が流れる。


 


 


【いけー!】


 


 


【初勝利だ!】


 


 


【みさママ頑張れ!】


 


 


 


私は一瞬言葉を失った。


 


 


みんな応援してくれている。


 


 


勝たせようとしてくれている。


 


 


 


だけど。


 


 


差は埋まらなかった。


 


 


 


終了。


 


 


 


結果。


 


 


大敗。


 


 


 


「負けました……」


 


 


私は苦笑した。


 


 


 


相手のライバーは優しかった。


 


 


「またやりましょうね!」


 


 


そう言って手を振る。


 


 


私は頭を下げた。


 


 


 


バトル終了。


 


 


 


コメント欄が動く。


 


 


【お疲れ】


 


 


【初めてなら十分】


 


 


【相手が強かった】


 


 


【次だ次】


 


 


 


私は画面を見つめた。


 


 


悔しかった。


 


 


正直に言うと、


思っていた以上に悔しかった。


 


 


 


勝ちたかった。


 


 


 


ほんの少し前まで、


勝ち負けなんてどうでもいいと思っていた。


 


 


経験できればいい。


 


 


それだけだった。


 


 


 


でも違った。


 


 


いざ負けると悔しい。


 


 


悔しくて仕方がない。


 


 


 


「私……」


 


 


思わず口に出る。


 


 


 


「もっと上手くなりたい」


 


 


 


コメント欄が静かになる。


 


 


そして。


 


 


【その気持ち大事】


 


 


タカさんのコメントが流れた。


 


 


 


【でも今日の収穫は勝敗じゃない】


 


 


 


私は首を傾げる。


 


 


 


【悔しいと思えたこと】


 


 


 


その言葉に、


私は少しだけ息を呑んだ。


 


 


 


悔しい。


 


 


確かにそうだ。


 


 


 


仕事では最近、


こんな感情を忘れていた。


 


 


勝ちたい。


 


 


負けたくない。


 


 


成長したい。


 


 


 


そんな気持ちを、


私はいつの間にか置いてきていたのかもしれない。


 


 


 


配信終了後。


 


 


私は戦績画面を見つめていた。


 


 


一戦一敗。


 


 


勝率ゼロパーセント。


 


 


 


普通なら落ち込む数字だ。


 


 


 


でも。


 


 


なぜだろう。


 


 


 


少しだけワクワクしていた。


 


 


 


「次は勝ちたいな」


 


 


 


そう呟いた瞬間、


スマホに通知が届いた。


 


 


『事務所内新人イベント開催決定』


 


 


 


私はまだ知らない。


 


 


このイベントが、


ライバー・みさママにとって最初の大きな挫折になることを。

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