第四話 同時視聴者数十人の壁
「こんばんは、みさママです」
配信開始。
最近では少し緊張が減った。
もちろん慣れたわけではない。
それでも最初の頃みたいに、挨拶したあと無言になることはなくなった。
【こんばんは】
【待ってた】
【今日も仕事?】
いつものメンバーが集まる。
タカさん。
ユキさん。
カズ坊。
アオイ。
少しずつ名前を覚えてきた。
「今日は疲れましたー」
【お疲れ】
【会議?】
【また残業?】
「会議三本です」
【地獄】
【それは疲れる】
【配信休めばいいのに笑】
「でも来ちゃいました」
【えらい】
【来てよかった】
そのコメントを見て、少しだけ嬉しくなる。
最近は毎日配信している。
娘を寝かせて。
家事を片付けて。
夫と少し話して。
それから配信。
生活の一部になり始めていた。
配信を始めて一か月。
フォロワーは百人を超えた。
最初は夢みたいな数字だった。
だが不思議なもので、
人はすぐ慣れる。
百人を超えたら、
次は二百人が気になる。
二百人になったら、
三百人が気になる。
数字はどこまでも増やしたくなる。
その日。
私は初めて気になることがあった。
視聴者数。
平均七人。
最大十人。
ここ数日ずっと同じ。
増えない。
まるで壁にぶつかったようだった。
配信終了後。
私は思わずタカさんにメッセージを送った。
【伸びないんです】
送ったあとで恥ずかしくなる。
何様なんだろう。
一か月前まで視聴者ゼロだったのに。
しかし返信はすぐ来た。
【伸びない?】
【十分伸びてる】
私は苦笑した。
【でも最近ずっと同じなんです】
数秒後。
【十人の壁だね】
「壁?」
思わず声に出た。
タカさんの説明は分かりやすかった。
配信には段階がある。
まずゼロ人。
次に数人。
そして十人前後。
多くの人がそこで止まる。
【常連だけになる】
【新規が入らなくなる】
なるほど。
確かに最近のコメント欄は同じ名前ばかりだ。
ありがたい。
でも増えていない。
【次に行くにはバトルかな】
私は画面を見つめた。
バトル。
最近よく聞く言葉だった。
ライバー同士が対戦する機能。
勝てば注目される。
負ければ終わり。
【やったことないです】
【だろうね笑】
すぐ返信が来る。
【怖い?】
正直に答える。
【怖いです】
既読。
少し間が空く。
そして。
【みんな怖いよ】
【最初はね】
その言葉が妙に印象に残った。
翌日。
私は配信しながら考えていた。
バトル。
やるべきだろうか。
負けたら恥ずかしい。
笑われるかもしれない。
でも。
何もしなければ、
このまま変わらない気もする。
【みさママ今日元気ない?】
コメントが流れる。
「あー……」
私は苦笑した。
「実はちょっと悩んでて」
【仕事?】
「違う」
【旦那さん?】
「違う」
【娘ちゃん?】
「違う違う」
コメント欄が盛り上がる。
私は深呼吸した。
そして言った。
「バトルやってみようかなって」
一瞬。
コメント欄が止まった。
その後。
【おおおお】
【ついに】
【いいじゃん】
【見たい】
【応援する】
コメントが一気に流れ出した。
私は驚いた。
反対されると思っていた。
笑われると思っていた。
でも違った。
みんな楽しそうだった。
【負けても経験】
【最初はみんな負ける】
【大丈夫】
【やってみよう】
私はスマホ画面を見つめた。
胸が少し熱くなる。
一か月前。
誰もいなかった。
今は違う。
応援してくれる人がいる。
背中を押してくれる人がいる。
「じゃあ……」
私は笑った。
「今週中に初バトルやります」
コメント欄が歓声で埋まる。
その瞬間、
期待と不安が同時に押し寄せてきた。
だがまだ知らない。
初めてのバトルが、
想像以上に厳しい現実を教えてくれることを。




