第三十七話 全国の壁
新人王二日目。
朝。
目覚めた瞬間、
私は順位を確認していた。
四十七位。
昨夜と変わらない。
当然だ。
イベントは二十四時間動いているが、
私は寝ていた。
それでも。
順位を確認してしまう。
もう完全にイベント脳だった。
「また見てる」
朝食を並べながら、
恒一が笑う。
「見ちゃうんだよ」
「株価みたいだな」
「やったことないけど」
私は苦笑した。
たしかに似ているかもしれない。
上がれば嬉しい。
下がれば落ち込む。
精神衛生上あまり良くない。
会社へ向かう電車。
スマホを見る。
新人王ランキング。
五十一位。
下がっていた。
私は眉をひそめる。
寝ている間に抜かれた。
当然だ。
全国大会なのだから。
でも。
少し悔しい。
昼休み。
順位。
五十六位。
さらに下がる。
胸の奥がざわついた。
昨日は上出来だと思った。
でも。
全国は甘くない。
夜。
配信開始。
コメント欄にはいつもの顔ぶれ。
【こんばんは】
【今日も行こう】
【順位見た?】
私は笑った。
「見ました」
【気にするな】
【まだ二日目】
【ここから】
みんな優しい。
でも。
私自身は気にしていた。
配信開始から一時間。
順位はほぼ動かない。
五十五位。
↓
五十四位。
ほとんど変わらない。
その時だった。
通知。
バトル申請。
相手を見る。
新人王参加者。
現在三十二位。
私より上。
コメント欄が盛り上がる。
【受けよう】
【練習】
【行け】
私は少し考えた。
事務所イベントの時なら、
迷わず受けていた。
でも今は違う。
全国大会。
強い人ばかりだ。
負けるかもしれない。
いや。
たぶん負ける。
その時。
タカさんのコメントが流れる。
【負けても死なない】
私は吹き出した。
確かに。
死なない。
「受けます」
ボタンを押した。
画面が切り替わる。
相手は若い女性ライバーだった。
二十代前半だろうか。
明るい。
勢いがある。
開始直後から圧倒された。
コメント数。
ギフト。
盛り上がり。
全部が違う。
三分経過。
点差が開く。
五分経過。
さらに開く。
コメント欄が静かになる。
私は笑った。
「強いですね」
本音だった。
相手ライバーも笑う。
『いやいや』
その余裕すら強者だった。
結果。
完敗。
コメント欄が流れる。
【お疲れ】
【強かった】
【全国だな】
私は悔しかった。
かなり。
でも。
不思議と落ち込んではいなかった。
むしろ。
楽しかった。
本気で強い相手と戦った。
そして自分の足りない部分も見えた。
配信終了後。
私はノートを開いた。
・リアクションが遅い
・ギフト演出が弱い
・バトル中の盛り上げ不足
・声量不足
書き出していく。
負けた理由。
改善点。
悔しい。
でも。
悔しいだけでは終わりたくなかった。
その時。
スマホが震える。
愛美からDM。
【私も負けました】
私は笑った。
【私もです】
数秒後。
【全国って怖いですね】
私は返信する。
【全国って面白いですね】
しばらくして。
返信。
【それも分かります】
私はベッドにもたれた。
負けた。
でも。
まだ終わっていない。
新人王は始まったばかりだ。
そしてこの敗北が、
高梨美咲をさらに成長させる最初の一歩になるのだった――。




