第三十三話 初めてのコラボ
新人王開幕まで、あと十日。
その日の夜。
私は少し緊張していた。
理由は一つ。
初めてのコラボ配信だからだ。
相手はもちろん、
桜井愛美。
数週間前までは知らない人だった。
今では毎日のように連絡を取っている。
不思議な縁だった。
午後九時。
配信開始。
タイトルは、
『ママライバー座談会』
かなり安直だった。
【来た】
【愛美さんだ】
【コラボ初】
【楽しみ】
開始前からコメント欄は賑やかだった。
私も落ち着かない。
手汗がすごい。
招待ボタンを押す。
数秒後。
画面が二分割になった。
愛美が映る。
「こんばんは」
『こんばんは』
二人とも少しぎこちない。
コメント欄は大喜びだった。
【緊張してる】
【かわいい】
【初々しい】
私は苦笑した。
図星だった。
最初は子どもの話。
学校の話。
習い事の話。
自然な流れだった。
『陽菜ちゃんってダンスやってるんですよね?』
「ヒップホップです」
『すごい』
「あとピアノとバレエも」
コメント欄が反応する。
【習い事多い】
【頑張ってる】
【送迎大変そう】
私は即答した。
「大変です」
愛美が大笑いする。
『分かります』
その瞬間。
緊張が消えた。
お互い同じだった。
配信者。
母親。
働く女性。
共通点が多い。
話はどんどん広がった。
失敗談。
料理。
仕事。
家事。
そして。
自然とライバーの話になる。
『高梨さん最初どうでした?』
「コメント読むので精一杯でした」
コメント欄が笑う。
【今もたまにある】
【分かる】
私は反論した。
「今は違います!」
【怪しい】
【本当?】
愛美まで笑っている。
『私も最初そうでした』
「ですよね」
二人で笑う。
その時だった。
コメント欄に流れる。
【新人王どっちが上になる?】
空気が少し変わった。
意地悪なコメントではない。
ただの興味だ。
でも。
少し答えづらい。
私が考えていると、
愛美が先に答えた。
『高梨さんじゃないですか?』
私は慌てる。
「いやいや」
『準優勝してますし』
「愛美さんの方が」
『いやいや』
「いやいや」
コメント欄が爆笑する。
【終わらない】
【譲り合い】
【平和】
結局。
答えは出なかった。
ただ。
二人とも本気で思っていた。
新人王は分からない。
本当に分からない。
配信終了間際。
愛美が言った。
『新人王終わった後も仲良くしてくださいね』
私は少し驚いた。
でもすぐ笑う。
「もちろん」
『約束ですよ』
「約束」
コメント欄が流れる。
【いい関係】
【泣ける】
【ずっと仲良くして】
私は思った。
新人王は戦いだ。
順位もある。
勝ち負けもある。
でも。
この出会いは大事にしたい。
配信終了。
画面が暗くなる。
スマホに通知。
愛美からDM。
【楽しかったです】
私は返信する。
【私もです】
数秒後。
【またやりましょう】
私は笑った。
【ぜひ】
送信する。
新人王開幕まで、あと九日。
そして。
このコラボをきっかけに、
高梨美咲の名前は少しずつ新人王参加者たちの間でも知られ始める。
それが良い意味だけではないことを、
彼女はまだ知らなかった――。




