第三十二話 ママライバー会議
新人王開幕まで、あと十二日。
桜井愛美とDMを始めてから数日が経っていた。
最初は挨拶だけだった。
でも。
同じママライバー同士、
話題は意外と尽きなかった。
子どものこと。
学校のこと。
習い事の送迎。
家事。
仕事。
そして配信。
むしろ話題だらけだった。
その日の昼休み。
私は会社の休憩スペースでスマホを見ていた。
愛美からメッセージ。
【昨日、息子が熱出しました】
私は思わず苦笑した。
【大丈夫ですか?】
【病院行ったら元気でした】
【子どもあるあるですね】
すぐ返信が来る。
【高梨さんも経験あります?】
【何回も】
本当に何回も。
熱。
胃腸炎。
インフルエンザ。
子育て中の親なら誰でも通る道だ。
その日の夜。
配信後。
私たちは初めて通話をした。
画面越しではなく音声だけ。
少し緊張する。
「こんばんは」
『こんばんは』
優しい声だった。
配信で聞くより柔らかい。
最初は少しぎこちなかった。
でも。
十分も経たないうちに、
普通に話していた。
「娘さん何年生でしたっけ?」
『小五です』
「うち小四なんです」
『近いですね』
話はどんどん広がる。
ダンス教室。
学校行事。
習い事の費用。
そして。
自然と配信の話になった。
『新人王怖くないですか?』
愛美が言った。
私は笑った。
「怖いです」
『ですよね』
二人同時に笑う。
『私なんか場違いな気がして』
私は思わず言った。
「私もです」
『嘘です』
「本当です」
『準優勝してたじゃないですか』
「それでもです」
本当にそうだった。
新人王参加者を見るたびに思う。
強そう。
華やか。
すごい。
私とは違う。
すると。
愛美がぽつりと言った。
『でも』
『そう思ってる人、多いかもしれませんね』
私は少し考えた。
確かに。
みんな強そうに見える。
でも。
本人も不安かもしれない。
そう考えると少し気が楽になった。
通話は一時間以上続いた。
気付けば、
配信の話より家庭の話の方が多かった。
通話終了後。
私はリビングへ向かった。
恒一が洗い物をしている。
「楽しそうだったね」
「聞こえてた?」
「少し」
私は笑った。
「ママライバー仲間」
そう言うと、
恒一は少し意外そうな顔をした。
「ライバルじゃないの?」
私は考える。
ライバル。
それは間違いない。
新人王では順位を争う。
勝敗もある。
でも。
それだけじゃない。
「仲間かな」
私はそう答えた。
恒一は笑った。
「美咲らしい」
私は首を傾げた。
どういう意味だろう。
でも悪い意味ではなさそうだった。
その夜。
ベッドの中でスマホを見る。
愛美からメッセージが届いていた。
【新人王終わったら会いたいですね】
私は少し驚いた。
リアルで会う。
考えたこともなかった。
でも。
嫌じゃなかった。
【ぜひ】
返信する。
数秒後。
【約束ですよ】
私は笑った。
【約束】
送信する。
その時の私は知らない。
この約束が本当に実現することを。
そして。
その数か月後、
愛美を巡る大きな事件に巻き込まれることになることを――。
新人王開幕まで、あと十一日。
新しい友情は、
静かに始まっていた。




