第三十一話 新人王のライバルたち
新人王開幕まで、あと二週間。
正式発表から数日が過ぎた。
私の日常は変わらない。
朝起きて。
会社へ行って。
帰宅して。
家事をして。
配信する。
でも。
一つだけ変わったことがあった。
配信研究の時間が増えた。
以前よりもずっと。
新人王は全国大会。
事務所イベントとは違う。
準優勝したからといって通用する保証はない。
むしろ。
通用しない可能性の方が高い。
その日の夜。
私は配信を終えたあと、
ノートパソコンを開いていた。
新人王参加者一覧。
一人ずつ見ていく。
配信。
SNS。
プロフィール。
まるで受験勉強だった。
「すごいな……」
思わず呟く。
元アイドル。
フォロワー十万人。
モデル経験者。
専業ライバー。
華やかな経歴ばかりだった。
私は普通の会社員だ。
プロフィール欄に書けることも少ない。
その時。
恒一がコーヒーを持ってきた。
「また研究?」
「うん」
画面を覗く。
「へぇ」
「強そう」
「強い」
私は即答した。
恒一は笑う。
「じゃあ美咲は?」
「弱い」
「即答するな」
私は吹き出した。
でも本音だった。
すると恒一は少し考えて言った。
「でもさ」
「この人たち、陽菜の話する?」
私は首を傾げる。
「しないと思う」
「会社の愚痴は?」
「しない」
「夕飯の話は?」
「しない」
恒一は肩をすくめた。
「じゃあ同じじゃないだろ」
私は少し黙った。
同じじゃない。
確かにそうだった。
私は元アイドルじゃない。
モデルでもない。
でも。
私は私だ。
その夜。
新人王参加ライバーの配信を見て回った。
そして。
ある配信で手が止まる。
名前は、
桜井愛美。
同じママライバーだった。
年齢も近い。
子どももいる。
しかも。
配信の雰囲気が少し似ていた。
コメントを丁寧に読む。
無理に盛り上げない。
自然体。
私は最後まで見てしまった。
配信終了後。
SNSを開く。
すると。
フォロー通知。
桜井愛美
私は固まった。
え?
慌てて確認する。
本物だった。
そしてDMが届く。
【高梨さんですよね?】
私は急いで返信した。
【はい】
数秒後。
【配信見てます】
私は椅子から落ちそうになった。
嘘でしょ。
私が見ていた相手が、
私を見ていた。
【新人王、一緒ですね】
メッセージが続く。
【頑張りましょう】
私は少し笑った。
ライバル。
でも。
敵ではない。
そんな不思議な感覚だった。
配信の世界は競争だ。
順位がある。
勝敗もある。
でも。
同じ場所で頑張る人とは、
どこか仲間でもある。
その夜。
私はベッドに入った。
スマホには、
桜井愛美とのDM履歴。
新人王。
少し前まで怖かった。
でも今は少し違う。
知らない世界へ行く怖さ。
そして。
新しい人と出会える楽しさ。
両方があった。
新人王開幕まで、あと十三日。
そしてこの出会いが、
後に高梨美咲のライバー人生に大きな影響を与えることになる。
まだ誰も知らない未来だった。




