第二十五話 最後の一日
イベント最終日。
朝五時。
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
寝た気がしない。
頭の中はイベントのことでいっぱいだった。
スマホを開く。
順位。
四位。
三位との差はわずか。
本当にわずかだった。
届きそうで届かない距離。
私はスマホを置いた。
今日は仕事を休んでいる。
有給休暇。
イベント最終日のために、
ずっと前から申請していた。
リビングへ行くと、
恒一がもう起きていた。
「おはよう」
「おはよう」
コーヒーを渡される。
「緊張してる?」
「かなり」
恒一は笑った。
「だろうな」
私は苦笑する。
隠せていないらしい。
陽菜も起きてきた。
寝癖だらけのまま。
「今日最後?」
「最後」
「優勝してね」
私は笑った。
「それは難しいかな」
「ママいつもそれ言う」
言い返せなかった。
午前。
短時間配信。
昼配信。
夕方配信。
いつもなら考えられないスケジュールだった。
会社員。
母親。
妻。
そしてライバー。
その全部を抱えながら、
今日だけはライバーに全力を注ぐ。
昼過ぎ。
順位。
四位。
変わらない。
夕方。
順位。
四位。
変わらない。
焦る。
追い付きそうで追い付かない。
差は縮まる。
でも抜けない。
そして午後八時。
最終枠。
イベント終了まで残り四時間。
開始直後。
コメント欄はいつも以上だった。
【来た】
【最終決戦】
【最後まで行くぞ】
私は深呼吸する。
「みんな」
少し声が震えた。
「ここまでありがとうございます」
コメント欄が流れる。
【まだ早い】
【終わってない】
【最後まで】
私は笑った。
本当にその通りだった。
配信は盛り上がる。
ギフト。
コメント。
初見。
応援。
次々に流れていく。
そして残り二時間。
順位更新。
四位。
↓
三位。
私は息を呑んだ。
戻った。
表彰台に戻った。
コメント欄が爆発する。
【きたあああ!】
【戻した!】
【守れ!】
私は言葉を失った。
しかし。
イベントは甘くない。
三十分後。
順位更新。
三位。
↓
四位。
また落ちた。
コメント欄がざわつく。
【まだ差は小さい】
【諦めるな】
【ここから】
私は画面を見つめる。
悔しい。
本当に悔しい。
でも。
不思議と涙は出なかった。
ここまで来られた。
それだけでも奇跡だから。
その時。
通知が鳴る。
DM。
送り主。
白石玲奈。
【最後まで行きましょう】
私は笑った。
ライバル。
でも仲間。
【行きましょう】
返信する。
時計を見る。
イベント終了まで残り一時間。
順位は四位。
表彰台まであと一歩。
そして。
最後の一時間が始まった。




