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ママライバー美咲 ~ライブ配信で「ただいま」と言える居場所を育てています~  作者: ふぁい(phi)
第一章 はじまりの一歩

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第二話 視聴者一名様



視聴者数――0。


画面の右上に表示された数字を見て、私は思わず苦笑した。


「まあ、そうだよね……」


配信なんて何年ぶりだろう。


しかも深夜。


三十五歳の会社員兼主婦の雑談配信を見たい人なんているはずがない。


 


私はスマホスタンドの位置を少し直した。


 


「こんばんはー……」


 


誰もいない。


 


「えっと……」


 


誰もいない。


 


「初配信です」


 


誰もいない。


 


ひどい。


自分で言っていて笑いそうになる。


 


それでも配信は続いている。


 


画面の向こうに誰もいないのに、私はなぜか緊張していた。


 


「私は、みさママといいます」


 


言ったあとで恥ずかしくなる。


 


みさママ。


 


三十分前に適当に決めた名前だ。


 


本名の美咲から取っただけ。


 


センスはない。


 


「仕事しながら子育てしてます」


 


沈黙。


 


「東京に住んでます」


 


沈黙。


 


「趣味は……」


 


そこで止まった。


 


趣味。


 


何だろう。


 


動画を見ること?


 


寝ること?


 


SNSを見ること?


 


どれも趣味と言うには弱い。


 


結局、言葉が続かなかった。


 


 


配信開始から十分。


 


視聴者数。


 


0。


 


 


十五分。


 


0。


 


 


二十分。


 


0。


 


 


「もう終わろうかな……」


 


そう呟いた瞬間だった。


 


視聴者数が1になった。


 


 


私は固まった。


 


 


え?


 


来た?


 


人?


 


本当に?


 


 


急に心臓が速くなる。


 


 


どうしよう。


 


何を話せばいい?


 


 


慌てているうちにコメントが流れた。


 


 


【こんばんは】


 


 


コメントだ。


 


人生で初めてではない。


 


でも、ものすごく久しぶりだった。


 


 


「こ、こんばんは!」


 


声が裏返った。


 


 


【初配信?】


 


 


「はい!」


 


 


即答。


 


 


【緊張してるね】


 


 


「してます!」


 


 


【わかる笑】


 


 


画面の向こうで相手が笑っている気がした。


 


 


少しだけ肩の力が抜ける。


 


 


「どうしたらいいか分からなくて……」


 


 


【とりあえず話せば大丈夫】


 


 


「なるほど」


 


 


【みんな最初はそんなもん】


 


 


 


そのとき、さらにもう一人入ってきた。


 


視聴者数2。


 


 


【こんばんは】


 


 


「こんばんは!」


 


 


【元気いいな笑】


 


 


「今来てくれたからです!」


 


 


自分でも驚くくらい素直な言葉だった。


 


 


だって嬉しい。


 


本当に嬉しい。


 


 


さっきまで誰もいなかった場所に、


今は二人もいる。


 


 


二人だけ。


 


でも、


私にとっては世界の全部みたいに感じた。


 


 


その後、


三十分ほど雑談した。


 


 


仕事のこと。


 


娘が習い事を頑張っていること。


 


夫が料理上手なこと。


 


 


特別面白い話ではなかったと思う。


 


 


それでもコメントは途切れなかった。


 


 


【旦那さん優秀】


 


【娘ちゃんかわいい】


 


【また来るね】


 


 


その言葉を見た瞬間。


 


胸が少し熱くなった。


 


 


また来る。


 


 


ただそれだけなのに。


 


 


配信終了ボタンを押したあとも、


しばらくスマホを見つめていた。


 


 


配信時間。


 一時間二分。


 


最大視聴者数。


 三人。


 


フォロワー増加。


 二人。


 


 


数字だけ見れば小さすぎる結果だ。


 


 


でも、


私には十分だった。


 


 


三十五歳になって、


今さら新しいことを始めるなんて思ってもみなかった。


 


 


けれど。


 


 


「楽しかったな……」


 


 


自然と笑みがこぼれる。


 


 


そのとき、


配信アプリの通知が鳴った。


 


 


フォローされました。


 


 


そしてメッセージ。


 


 


【初配信お疲れ様でした】


 


【また遊びに来ます】


 


 


送り主の名前は――


 


『タカさん』


 


 


このときの私はまだ知らない。


 


 


そのリスナーが、


これから先のライバー人生を大きく変える存在になることを。

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