第十九話 中間発表
イベント五日目。
私は朝から落ち着かなかった。
理由は一つ。
今日が中間発表の日だからだ。
今回のイベントでは、
開催期間の折り返しで公式による順位発表が行われる。
TOP3。
TOP10。
そして注目ライバー。
事務所ライバーたちも朝からざわついていた。
SNSを開けば、
順位予想ばかり流れてくる。
もちろん私も気になっていた。
今の順位は九位。
夢みたいな数字だ。
でもイベントは生き物だ。
一日で大きく変わることもある。
昼休み。
私は会社の給湯室で一人スマホを見ていた。
発表まであと十分。
コーヒーの味が分からない。
心臓ばかりうるさい。
通知が鳴った。
イベント運営。
『中間ランキング発表』
私は息を止める。
画面を開く。
まずTOP3。
知らない名前が並ぶ。
やっぱり強豪ばかりだ。
次。
TOP10。
私は画面をスクロールした。
十位。
九位。
八位。
まだない。
七位。
そこで指が止まった。
7位 高梨美咲
私は固まった。
何度も見る。
見間違いじゃない。
本当に。
七位だった。
「え……」
思わず声が漏れた。
給湯室の壁にもたれかかる。
頭が追いつかない。
前回三十一位。
今回七位。
あり得ない。
いや。
あり得ている。
画面に表示されている。
スマホが震える。
玲奈からだった。
【見ました!?】
私もすぐ返信する。
【見た】
【七位】
数秒後。
【すごい】
【私四位】
さすがだ。
でも。
今回は少しだけ近い。
ほんの少しだけ。
その日の仕事はほとんど手につかなかった。
もちろん真面目に働いた。
でも心はイベントにあった。
夜。
配信開始。
開始直後。
コメント欄が爆発した。
【七位おめでとう!】
【すごい!】
【泣いた】
【前回三十一位だぞ】
私は照れくさくなった。
「まだ途中ですから」
そう言う。
すると。
【そこがみさママ】
【調子乗らない】
【好き】
コメント欄が笑う。
私は画面を見つめた。
応援してくれる人が増えた。
いつの間にか。
本当にいつの間にか。
「ありがとうございます」
自然に頭が下がる。
そのときだった。
コメントが流れた。
【優勝狙おう】
一瞬。
配信が静かになった気がした。
優勝。
私は笑った。
「それは無理です」
即答だった。
コメント欄が大爆笑する。
【早い】
【否定するな】
【夢見ろ】
私は首を振った。
上にはまだ強い人がいる。
四位の玲奈。
TOP3の強豪たち。
差は大きい。
でも。
そのコメントは、
心のどこかに引っ掛かった。
優勝。
少し前なら考えもしなかった言葉だ。
配信終了後。
私はランキングを眺めていた。
七位。
嬉しい。
本当に嬉しい。
しかし同時に、
別の感情も生まれていた。
もっと上に行きたい。
危険な感情だった。
順位を追い始めると苦しくなる。
それは玲奈からも聞いていた。
でも。
人間は欲張りだ。
七位になったら五位を見てしまう。
五位になったら三位を見てしまう。
そのとき、
タカさんからDMが届いた。
【調子に乗るな】
私は吹き出した。
【乗ってません】
返信する。
するとすぐ返ってきた。
【ならいい】
【でも夢は見ろ】
私は画面を見つめた。
夢は見ろ。
その言葉が胸に残る。
イベント終了まで残り五日。
そしてこの夜、
高梨美咲は初めて――
「もっと上を目指したい」
そう願ってしまったのだった。




