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アラフォーママは新人ライバー ~ライブ配信で「ただいま」と言える居場所を育てています~  作者: ふぁい(phi)
第六章 選ぶ勇気

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第百五話 ひとつの返事



 


月曜日の昼休み。


 


美咲は会社近くのベンチで、


スマートフォンを見つめていた。


 


画面には、


佐藤から送られてきた依頼一覧。


 


昨日は幼稚園のお祭りを優先し、


打ち合わせは午後へ変更してもらった。


 


そのおかげで、


陽菜の笑顔を最後まで見ることができた。


 


嬉しかった。


 


本当に嬉しかった。


 


けれど、


まだ終わっていないことが一つある。


 


出演依頼への返事だ。


 


「……どうしよう。」


 


地方イベント。


 


雑誌の取材。


 


企業コラボ。


 


どれも魅力的だった。


 


断る理由はない。


 


それでも、


全部を受ける未来だけは、


なぜか想像できなかった。


 


昼休みが終わる少し前。


 


美咲は意を決して、


佐藤へメッセージを送る。


 


『ご相談があります。』


 


数分後、


返信が届いた。


 


『今、お電話できますよ。』


 


美咲は人気のない階段へ移動し、


通話ボタンを押した。


 


「お時間ありがとうございます。」


 


『こちらこそ。』


 


「実は……。」


 


美咲は深呼吸をする。


 


「地方イベントなんですが。」


 


「今回は、見送らせていただけますか。」


 


言い終えた瞬間、


胸が締めつけられた。


 


断ってしまった。


 


もう次はないかもしれない。


 


そんな不安がよぎる。


 


しかし、


佐藤の返事は落ち着いていた。


 


『承知しました。』


 


『理由を伺ってもいいですか?』


 


責めるような口調ではない。


 


ただ、


知りたいという優しい声だった。


 


「家族との時間を、もう少し大切にしたくて。」


 


「今の私には、全部をお受けする余裕がありません。」


 


少しの沈黙。


 


美咲は無意識に手を握りしめる。


 


すると、


佐藤は笑った。


 


『その答えを聞けて安心しました。』


 


「え……?」


 


『もし無理をして全部受けると言われたら、私のほうが心配でした。』


 


『高梨さんは長く活動していただきたい方です。』


 


『だから、無理をしない判断も大切なお仕事ですよ。』


 


その言葉を聞いた瞬間、


肩の力がすっと抜けた。


 


「ありがとうございます。」


 


『その代わり。』


 


佐藤が少しだけ声を弾ませる。


 


『雑誌の取材はぜひお願いしたいです。』


 


「はい。」


 


今度は迷わなかった。


 


「ぜひ、お願いします。」


 


通話を終える。


 


空を見上げると、


夏らしい青空が広がっていた。


 


断った。


 


でも、


何かを失った気はしなかった。


 


むしろ、


自分で選んだという実感が残っていた。


 


夜。


 


配信の最後。


 


リスナーからコメントが流れる。


 


『今日もありがとう!』


 


『無理しないでね。』


 


『また次回楽しみにしてます!』


 


美咲は画面を見つめ、


自然と笑みがこぼれた。


 


「ありがとうございます。」


 


「これからも、自分のペースで続けていきます。」


 


その言葉は、


リスナーへ向けた言葉であり、


同時に、


自分自身への約束でもあった。


 


配信を終え、


手帳を開く。


 


今日の最後に、


一行だけ書き添える。


 


『選ぶことは、諦めることではない。』


 


ページを閉じる。


 


窓の外では、


夜風がカーテンを優しく揺らしていた。


 


美咲の歩幅は、


少しだけゆっくりになった。


 


けれどその一歩は、


昨日よりも確かなものになっていた――。

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