第十話 白石玲奈からのメッセージ
配信を終えたあとも、私はなかなか眠れなかった。
初勝利。
たった一勝。
それなのに、何度も戦績画面を見返してしまう。
十九敗一勝。
数字だけ見れば相変わらずひどい。
でも今日は違った。
負け続けた先にある一勝の重みを知ったからだ。
ベッドに入ろうとしたときだった。
スマホが震えた。
通知。
配信アプリのDM。
送り主を見て、私は思わず固まった。
白石玲奈。
私は何度も名前を確認した。
見間違いじゃない。
交流会で会った、あの玲奈だ。
フォロワーも多い。
バトルも強い。
事務所内でも注目されている新人ライバー。
そんな人から私に?
恐る恐る開く。
【初勝利おめでとうございます】
その一文だけで少し嬉しくなる。
さらに続きがあった。
【ずっと見てました】
私は目を丸くした。
ずっと?
私を?
【イベントの時も見てました】
【負けたあとも毎日配信しててすごいなと思ってました】
思わず画面を見つめる。
イベントの時。
つまり三十一位で惨敗した時だ。
正直、あの頃は恥ずかしかった。
ランキングを見るのも嫌だった。
でも見ていた人がいた。
そんなことを考えたこともなかった。
私は慌てて返信する。
【ありがとうございます】
【玲奈さんにそう言ってもらえると嬉しいです】
送信。
すぐ既読が付く。
早い。
【玲奈でいいですよ】
【みさママさんも】
私は少し笑った。
【じゃあ玲奈さん】
【さん付け笑】
思わず吹き出した。
やり取りは短かった。
でも不思議と話しやすかった。
その翌日。
昼休み。
会社の休憩スペースで弁当を食べていると、
また玲奈からメッセージが届いた。
【今度コラボしませんか?】
私は箸を落としそうになった。
コラボ。
ライバー同士の合同配信。
私が?
玲奈と?
一瞬、本気でスマホを閉じた。
緊張する。
でも。
逃げたくない。
私は返信した。
【ぜひお願いします】
数秒後。
【やった】
【楽しみ】
その二文字が妙に可愛かった。
夜。
配信でコラボの話をすると、
コメント欄は大騒ぎになった。
【ええええ】
【玲奈ちゃん!?】
【すごい】
【出世したなみさママ】
「出世って何ですか」
【事務所期待の新人だぞ】
【普通にすごい】
【羨ましい】
私は少し不安になった。
そこまでなのか。
正直、交流会で話した印象は良かった。
でも実力差は知っている。
フォロワー数。
バトル戦績。
イベント順位。
どれも私より上だ。
「大丈夫かなあ……」
【何が?】
「会話続くかな」
コメント欄が爆笑する。
【そこかよ】
【もっと他にあるだろ】
【みさママらしい】
私は頬をかいた。
だって本当に心配なのだ。
人気ライバーと話すなんて、
人生で経験したことがない。
その日の配信終了後。
私は玲奈の配信を見に行った。
同時視聴者数。
七十人。
私の何倍だろう。
玲奈は明るく笑っている。
コメントを拾う。
空気を回す。
話題を作る。
自然だ。
すごい。
羨ましい。
そして少し悔しい。
私はスマホを見つめながら思った。
同じ新人なのに。
どうしてこんなに違うんだろう。
そのときだった。
玲奈の配信でコメントが流れる。
【今度みさママさんとコラボなんですね】
玲奈が笑う。
「そうなんです」
「私、みさママさん好きなんですよ」
私は固まった。
コメント欄が盛り上がる。
「なんか安心するんですよね」
玲奈はそう言って笑った。
私はスマホを伏せた。
照れ臭い。
嬉しい。
そして少しだけ思う。
もしかしたら。
玲奈はライバルになるかもしれない。
でも。
それより先に、
大切な仲間になるのかもしれない。
初コラボ配信まで、あと三日だった。




