パトロール小話
車窓に映る景色が後ろに流れ去っていく。その景色のなかにあるのは、それぞれの日常。その日常を守るために、今日も当職は制服を着込む。
210系クラウンのハンドルを握る一ノ瀬は、いつものものように世間話を当職に浴びせかけてくる。当職はそんな一ノ瀬を見るとつい甘い言葉を漏らしそうになるため、目線を目の前に固定し、生返事を繰り返す。
「先輩、冷たいですよぉ…」
珍しく弱々しい声に、当職はつい一ノ瀬の顔に一瞬目線を向けてしまう。
「そんなことない。運転に集中しろ」
「私の運転、上手ですか?」
これまた眩しい笑顔で言う一ノ瀬。私も釣られて笑顔になるのは、ペアの健康状態、精神状態がともに良好で、今日も安全に、確実に、職務が完遂できることへの喜びからだ。決して微笑ましいなどと、うつつを抜かしてるわけではない。
「加速が少しきついな。警察官よりレーサーに向いてるんじゃないのか」
「もう!素直に褒めてくださいよぉ。…、先輩のために免許取ったんですよ…?それに、先輩がいない職場なんて嫌です…」
後半は耳に入らないほどの声で呟く。なぜか顔が暑くなが、今日の日差しはそんなに強いのか?いや、これは別に一ノ瀬が太陽のように眩しいという意味ではなく…。そう、当職は一ノ瀬に恋などしない。きっとこの胸のざわめきも、動悸も、すべて違う何かが原因なのだから。
「運転はいいから、もっとほかの仕事を覚えろ」
そう言って当職は今一度、深く制帽を被り直した。




