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うちのメイドはやりすぎるっっ!〜最強メイドたちは今日も力で事件を解決します〜  作者: 犬斗
第七章 エリザベータ・ローレンテイル

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第35話 メイド課の休日3

 キャンプ地を出てから、エリザベータさんは無言だ。

 この空気が重い。

 なぜエリザベータさんは、俺とペアを組んだのだろう。


「あ、あの、エリザベータさんは、何の肉が好きですか?」


 さっきから質問しているのだが、全て無視されている。


「はは……」


 正直帰りたい……。

 俺はエリザベータさんが、どうしても苦手だ。


 エリザベータさんが立ち止まり、俺に視線を向けた。


「ねえ、君は何者?」


 二人きりになって、初めてエリザベータさんが口を開いた。


「え?」

「だから、何者かって聞いているのよ。言葉の意味分かる?」

「わ、分かりますけど、何者と言われても……、ただの職員です」

「そんなことは分かってるわよ。バカなの?」


 エリザベータさんが言いたいことは理解している。

 俺の経歴のことだ。

 局長からは隠すように言われている。

 ここはもう徹底的にとぼけるしかない。


「この私が調べても、何も分からないのよ。信じられないわ」

「調べるって……」

「君、うちのメイドのことは当然把握してるんでしょう?」

「そ、それは……。管理職ですから資料をいただいてます」

「私のことは知ってる? 登録名は?」


 人事派遣局では、諜報員に登録名を設けている。

 ただし、あくまでも管理上の名称だ。

 本人が登録名を使用することはないし、存在することも知らされていない。


「……登録名?」

「とぼけないで。私が知らないとでも?」

「ふう、分かりました。エリザベータさんは……『氷凍のエリザベータ』です」

「そっち? もう一つあるんだけど?」


 エリザベータさんは現在メイド課に所属しているが、元々は別の課に在籍していた。

 数年前にメイド課へ異動したそうだ。


「『蜘蛛のエリザベータ』です」

「それね、本当にやめてほしかったのよ。気持ち悪いもの」

「蜘蛛は営業課分析室のエースでした」

「ええ、その通りよ。でもね、私は今でも蜘蛛を駆使してるのよ」

「え!」


 分析室は蜘蛛と呼ばれる情報網を保有している。

 エリザベータさんが情報に詳しいのは、元々分析室にいたからだと思っていた。

 だが、まさか今でも蜘蛛を使っているとは驚いた。


 しかし、蜘蛛は分析室のもので、一個人が使っていいものではない。

 いくらエリザベータさんでも処罰の対象になるだろう。

 聞いてしまったからには、対応しなければならない。


「蜘蛛を使ってることを局長は知ってるんですか?」

「もちろん知ってるわよ。だって、蜘蛛は元々私のものだから。そんな名前ではなかったけどね」

「え? ど、どういうことですか?」

「だからあ、私の蜘蛛を分析室で使わせてあげたの。以前の営業課の情報精度はあまり高くなくてね。見てられなかったわ。現在は分析室でも独自の情報網を作ったようだけど、それでも私の蜘蛛には敵わないわね。仕方がないから、今でも協力してあげてるわよ。もちろん報酬はいただいてるけど」


 ここまでは俺も聞いていない。


 もしかしたら、これは局長の思惑かもしれない。

 最初から俺に全ての情報を与えるわけではなく、本人たちから聞き出すことを目的としていたのだろう。

 つまりメイドたちと打ち解けろというメッセージだ。

 だけど、エリザベータさんと打ち解けるなんて無理だと、俺は声を大にして言いたい。


「この私でも、君のことは調べても分からない」

「本当にただの職員ですよ」

「嘘おっしゃい」


 エリザベータさんの真紅の瞳が、まっすぐ俺を貫く。

 この瞳には、一切の嘘が通用しないだろう。

 嘘をつかず、はぐらかすしかない。


「嘘じゃないです。以前は清掃課にいました。俺はただのCランク諜報員です」


 人材派遣局の諜報員は、三つにランク分けされている。

 戦闘スキルと業務スキルが最も高いAランク諜報員。

 業務スキルが高いBランク諜報員。

 駆け出しのCランク諜報員。


 メイド課や執事課の諜報員たちは、高い戦闘スキルを保有しているため全員がAランク諜報員だ。

 コック課や秘書課などはBランク諜報員が多い。

 そして、清掃課など単発の潜入や作業中心の部署で、駆け出しのCランク諜報員が経験を積む。


「清掃課ですって? 嘘でしょう? 清掃課の名簿にオリハルトなんてなかったわよ」

「それは俺も分かりません。人事課のミスかもしれません」

「名簿をミスするわけないでしょう?」

「ですが……」

「まあいいわ。清掃課にいたのなら調べるだけだもの。それにしても、Cランク諜報員からメイド課長なんて前代未聞よ?」

「それも俺が知るところではないので……。人事課や上層部の判断としか言えません」

「それはそうね……」


 俺としても答えようがない。


「いいわ。ひとまず、信用してあげる。君はこれまで、メイドたちを守ってくれたもの。その点は感謝してるわ」

「あ、ありがとうございます」


 俺はエリザベータさんに、深く頭を下げた。

 しかし、ふと気づく。


「あの……。俺は上司なんですけど?」

「はあ、だからそういうところが小さいのよ。私たちに隠し事をするくせに、部下に信用してもらおうなんて百年早いわよ」

「す、すみません。でも隠し事なんてしてませんから」


 俺の話なんて一切信じていないエリザベータさん。

 独自のルートで調べるつもりだろう。

 もうこの話は終わりだ。


「あ、あの、それで狩りは?」

「今からやるわよ」

「エリザベータさんは弓も使えるんですか?」


 俺は言った瞬間悟った。


「って、愚問でした。使えるに決まってますよね。はは」

「当たり前でしょう。オリハルト君は使えるの?」

「恥ずかしながら、武器は全然使えなくて……」

「ふーん。どうしてうちの課長になれたのかしらね」

「すみません。でも、みなさんの迷惑にならないように、全力で頑張ります!」


 俺は拳を握り、精一杯の笑顔で応えたのだが……。

 うわあ、全く興味なさそう……、俺のことなんて見てないし……。


 エリザベータさんの視線は、上空に向けられていた。

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