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うちのメイドはやりすぎるっっ!〜最強メイドたちは今日も力で事件を解決します〜  作者: 犬斗
第五章 フィローラ・トワネル

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第31話 森のメイド6

 数日後、俺は局長室に呼び出された。

 用件は間違いなくフィローラの派遣のことだ。


「失礼いたします」


 扉をノックして入室。

 局長に挨拶すると、ソファーに案内された。


「オリハルト課長、今回も大変だったようですね」

「恐れ入ります」

「フィローラさんの始末書を確認しました。彼女の能力と性格で、よく一人の始末で済みましたね」

「はい。二人目が出る直前で、なんとか止めることができました」

「そのようですね。しかし、君は力を解放しましたか?」

「い、いや、その……」


 局長が書類を取り出した。

 フィローラが書いた始末書だ。


「『オリハルト課長の右手に、黒い煙のようなものが視えた』と記載があります」

「た、大変申し訳ございません」

「まさか、フィローラさんが視えるとは思いませんでした。これは誤算です。君の能力は特別なのですから、今後は気をつけてください」

「重々承知しております」


 俺は深く頭を下げた。


「さて、今回の事件は、下級とはいえ貴族の事件です。正直長引くと思っていました」

「思っていた?」

「ええ、驚くほど素早く対応が決まりましたよ」


 局長室の秘書が、トレーにコーヒーを乗せて入室。

 ローテーブルに二つのカップを置き、一礼して退室した。


「人狩りの首謀者ホレスは死罪です。財産は国が没収することになりました。家も断絶です」

「参加者もですか?」

「ええ、下級貴族グレゴリー、商人イーサタも同じです。近日中に執行されます」

「早すぎますね。もしかして、死罪という名の口封じですか?」

「そうなりますね。騎士団や元老院まで顧客がいる可能性が高いです」


 局長が神妙な表情で、コーヒーを口にした。

 そして、音を立てずにカップをテーブルに置く。


「課長、この件は深入りしないように。いいですね」

「はい。かしこまりました」

「進展があった際は、必ず報告します。それに、君の力が必要になる時が来るでしょう。それまでは大人しくしていてください」

「承知いたしました」


 これは国家を揺るがす事件だろう。

 俺ごときが触れていい事案ではない。


 ――


 局長室を出ると、廊下にフィローラが立っていた。

 メイドらしく背筋は伸びて、その姿勢は美しい。


「フィローラ、どうしたんだい?」

「私のせいで、局長に怒られたのではないですか?」

「そんなことないさ。事件の報告と顛末を聞いたんだ。怒られてなんかないよ。はは」

「しかし、ご迷惑をおかけしました。それに、私のせいで課長はまた怪我をしております。大変申し訳ございませんでした」


 フィローラが深く頭を下げた。


「ちょっと! やめてよ! むしろフィローラはお手柄さ。怪我だってリリアが治してくれたし、なんともないよ」

「ありがとうございます」

「ただ、今後は一人で動かないように。何かあったら、必ず俺に相談してね」

「はい。かしこまりました」


 フィローラが申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 俺はいつもの優しいフィローラの笑顔が見たい。


「さ、メイド課に戻ろう」

「はい」


 メイド課へ戻り自席に座る。

 色々あったが、フィローラが無事で本当に良かった。


「ふうう」


 背もたれにもたれかかり、俺は大きく息を吐く。

 すると、フィローラが正面に立っていた。


「ん? フィローラ、どうしたの?」

「課長、今度一緒に狩りへ行きませんか?」

「狩り?」

「はい、お詫びにジビエをご馳走します」

「詫びなんていいのに。でも、狩りはいいね。俺は黒猪が好きだよ」

「奇遇ですね。私も黒猪は好きです。ふふ」


 フィローラが、優しく微笑みかけてくれた。

 やっぱりフィローラの笑顔は本当に癒やされる。


「えー、私も行きたい! 狩りやってみたい!」


 俺たちの話を聞いていたリリアが、元気よく手を挙げた。


「構わないけど、リリアは弓を使えるのかい?」

「ま、魔法で……」

「ダメだよ。リリアの魔法は力が強すぎる」

「じゃあ、私は全力で応援する!」

「あはは、それは嬉しいね」


 俺の座席から最も遠い席に座るシェリーナが、小さく手を挙げていた。


「あの、私もいいですか?」

「え? シェリーナはその……」

「大丈夫です。消滅させませんから」

「はは、それなら安心だ。じゃあ一緒に行こう」


 シェリーナの隣りに座るレオリアが、腕を組みながらこちらに視線を向けていた。


「ふむ、私も行こう」

「レオリアは弓を使えるのかい?」

「いらぬ」

「そ、そうだね。はは」


 レオリアの蹴りがあれば、熊でも一撃で倒すだろう。


「ねえ、エリザベータさん、私たちも行きませんか?」

「狩り? 面倒よ」

「でも、私たちが行けばメイド課の全員が揃うんですよ? 今まで全員で出かけたことなんてありません。初めてですよ?」

「もう、仕方ないわね」

「ふふ、楽しみですね」

「アリッサ。あなたが料理するのよ?」

「構いませんよ。それじゃあ、ジビエのコース料理にしましょう」


 エリザベータさんとアリッサさんの会話が聞こえたのだが、疑問が浮かぶ。

 アリッサさんは料理が上手いと聞いたことがあるので問題ないが、エリザベータさんが狩りなんてやるとは思えない。


「あの? エリザベータさんは狩りができるんですか?」

「はあ」


 エリザベータさんが深くて大きな溜め息をつく。


「私にできないことがあると思って?」

「そ、そうですよね。大変失礼しました」


 また睨まれてしまった。

 本当に怖い……。


「でも、エリちゃん虫が苦手じゃん」

「それはあなたも同じでしょう、リリア」

「うっ……」


 リリアとエリザベータさんの会話を聞いたフィローラが、全員を見渡す。


「じゃあ、皆さんの虫嫌いを克服するために、朱百足の姿焼きをお出ししますね」

「ちょっと、やめなさいって。行かないわよ」


 エリザベータさんが物凄い剣幕で拒んでいた。


「俺は食べますよ。あれは本当に旨いですからね」

「本当ですか? 課長がそう仰るのなら、私もチャレンジしてみます」


 シェリーナが小さく手を挙げていた。


「え? シェーナちゃん食べるの!? じゃあ、私もちょっとだけかじってみようかな。ちょっとだけ」


 リリアが少しだけ興味を持っているようだ。


「ふむ。チャレンジは大切だ。私もいただこう」


 レオリアは腕を組みながら頷いていた。


「あらー、じゃあたくさん獲りますね」


 手を叩き嬉しそうに笑顔を浮かべるフィローラ。


「そういえば、朱百足は海老に似た味と聞いたことがあります。海老と思えば、私も食べられるかもしれません」


 アリッサさんが現実的な意見を述べている。


「ちょっと、アリッサまで。やめなさいよ」


 そして、エリザベータさんはいつものように怒っていた。


 俺がメイド課に来た時よりも、賑やかな雰囲気になっているような気がする。

 もしかしたら俺のことを、少しだけ認めてくれているのかもしれない。


 異動したばかりの時は、張り詰めた空気感で俺は緊張していた。

 いや、今も緊張しているが、以前よりは心地良いと感じている。


「みんなで狩りか。楽しみだな。はは」


 これほど穏やかな気持ちで仕事をするのは初めてだ。


 大騒ぎするメイドたちを、俺はただただ眺めていた。

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