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うちのメイドはやりすぎるっっ!〜最強メイドたちは今日も力で事件を解決します〜  作者: 犬斗
第五章 フィローラ・トワネル

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第28話 森のメイド3

 ◇◇◇


 狩りは順調だった。

 主催のホレスの弓は、なかなかの腕前だ。

 鹿や兎を次々と狩っていく。


「わあ、ホレス様、お上手です!」

「そうであろう! そうであろう! わはは!」


 獲物に命中すると、フィローラは拍手をして歓声を上げた。

 ホレスも若い女性に褒められたことで機嫌がいい。


 ホレスの執事がメイド課に依頼した理由は、配下に虫が平気な者がいなかったこともあるが、なにより若い女性による接待を期待していた。

 メイド課のメイドたちは、全員が容姿端麗と評判だ。

 主人と客を喜ばせるための依頼だった。


 三人は競うように獲物を狩っていく。

 その都度、フィローラは笑顔で褒め称える。

 執事の思惑通り、三人は気を良くしていた。


 獲物は最後尾の従者が荷車に載せて運んでいる。

 もうすでに十分の獲物を狩っているが、三人は狩りをやめない。


 狩人から見れば、狩りすぎだと怒るだろう。

 フィローラは狩人ではないが、食べるために狩りをする。

 そのため感覚は狩人と同じではあるが、貴族たちが娯楽のためだけに狩りをすることも理解している。


 それにホレスたちは顧客だ。

 何も言わず、ただ笑顔で称えていた。


 ――


 キャンプ場に到着すると、先に先発隊のコックがすでに調理を開始していた。

 調理の手を止め、ホレスに頭を下げる。


「ホレス様。ご自身で狩った獲物の調理はいかがいたしましょうか?」

「いらぬ。用意したメニューを出せ」

「か、かしこまりました」


 この会話を聞いたフィローラは、荷車に視線を向けた。

 従者の一人が、狩猟した獲物を解体している。


 しかし、食材として使用する解体方法ではない。

 自分でも食肉を解体するフィローラは、一瞬でそれを理解した。

 鹿の角、兎の皮など、戦利品として必要なものだけを切り出している。


 もったいないと思いつつも、表情には出さず仕事をこなすフィローラ。

 主人たちに食事を運び、ワインを注ぐ。

 そして、主人たちが気づかないように、キャンプ地を這いずり回る朱百足や、飛び交う大蛾を素手で捕まえて麻袋に入れていく。

 虫の処理もフィローラの仕事だ。


「フィ、フィローラ様。素手で……」


 ホレスの執事が、若干引いた表情を浮かべていた。


「問題ございません。それに、この朱百足は焼くと美味しいのですよ? あとでお焼きしましょうか?」

「あ、ありがたいことでございますが、ご遠慮させていただきます……」

「あらあ、もったいないですわあ」


 つい素が出てしまったフィローラだった。


 主人たちは食事を終え、午後の紅茶を楽しんでいる。


 その間に、従者たちに食事が提供された。

 フィローラが見た限り、食事の内容は従者にしては豪華なメニューだ。

 ホレスは従者を大切にするのだろう。


 ――


 午後も同じように狩りを続けた。


「君もやってみるか?」


 商人のイーサタが、フィローラに向かって笑顔を向ける。

 笑顔と言っても、どう見ても下心しかない。


「私は弓を持ったことがございません」

「ひひ、教えるから」


 イーサタは、フィローラに無理やり弓を持たせた。

 そして、背後に周りフィローラの両手を握る。


「両手をこうして引っ張るんだ」

「こうですか?」

「上手いじゃないか。ひひ」


 フィローラの背中に、突き出ただらしない腹が当たり、耳元から激しい呼吸音が聞こえる。

 髪の匂いを嗅がれていることも気づいていたが、フィローラは笑顔で応え、一度だけ弓を射った。

 矢はまともに飛ばず、すぐに失速して落下。


「ほら、もう一回」

「イーサタ様、ありがとうございます。ですが、私に弓は難しいです」


 フィローラは一礼し、波風立たぬように配慮しながらイーサタから離れた。

 もちろん、わざと失敗している。

 フィローラが本気を出せば、ここにいる誰よりも剛弓を放つ。


「皆様の腕前は、騎士団に勝るとも劣りません。私は見ているだけで十分でございます」


 フィローラの言葉は、半分世辞で半分本気だった。


 三人ともなかなかの腕前で、次々と狩っていく。

 とはいえ、食べるための狩りではなく娯楽だ。

 積み重なっていく死骸を見て、フィローラの胸中は穏やかではなかった。


 日が傾き、そろそろ夕焼けが始まる頃、執事が懐中時計を取り出した。


「フィローラ様、そろそろお時間でございます。本日は誠にありがとうございました」

「とんでもないことでございます」

「虫の駆除は大変助かりました」


 フィローラが集めた虫は麻袋に入れたままだったが、執事が処理するだろう。


「我々はしばらく休憩してから、夜の狩猟へ出ます。フィローラ様はここまでで結構でございます」

「かしこまりました。夜は焚き火に虫が集まってきますので、こちらのオイルを使用してください。虫除け成分が入っております」

「よろしいのですか?」

「もちろんです。じつは昼間もこのオイルを使用していました」

「なるほど。ありがとうございます」

「ではこちらの書類に、終了のサインをいただけますか?」


 執事から業務終了のサインをもらうフィローラ。


「フィローラ様、別荘までお送りします」


 フィローラ以外の者たちは、このキャンプ地に宿泊するという。

 従者たちがテントの設営を始めていた。


「私は森に慣れておりますので、問題ございません。お気遣い感謝申し上げます」

「そ、そうはいっても」

「お気持ちだけいただきますわ。ふふ」


 執事に笑顔を見せるフィローラ。

 そして、帰宅の準備をしてキャンプ地を後にした。


 ――


 フィローラは森の中で立ち止まる。

 この森に入ってから、ずっと違和感を抱いていた。


「多すぎる従者。豪華な食事。わざわざ宿泊してまで夜の狩り。もしかして……」


 キャンプ地があった方向に視線を向けた。


 ◇◇◇

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