54-55シーズン西州2部第1節ACシルク対コビア大(前編)
試合開始60分前、草太とレベッカは主催者室に戻る。
メインスタンドの中央にある主催者室から草太は観客席をのぞいた。
コビア大学側のゴール裏には若い男性たちが陣取っている。
おそらく、コビア大学の学生たちであろう。
そして、ホーム側、つまりACシルク側のゴール裏立ち見席には声を張り上げるサポーターの姿があった。
そこに、コンコンとドアがノックされ、村長のソフィアが入ってきた。
ソフィアは満面の笑みを浮かべ2人を称えた。
「ソウタさん、レベッカ。ついにここまで辿り着きましたね。」
「オホホ。本当に大変でしたのよ!」
レベッカは何故か淑女モードで高笑いをした。
「レベッカ、ソフィアさんにそのモードで話さなくても良いんじゃないかな?」
「それもそうね。それでもソフィアさんの無茶振りの成果を草太は出したのよ!」
「レベッカのおかげだよ」
するとソフィアは右手で顔を扇いだ。
「あぁ、暑い暑い!8月ですからね。」
すると、続いてサブリナも主催者室に現れた。
「ソウタさん、レベッカ先輩。そろそろ先発メンバーの発表です!私はエレナ達とメインスタンドから見てますね!」
そう言うとサブリナはすぐに部屋を後にした。
すると外の魔法スピーカーから大音量で選手紹介が始まった。
(本当にこの異世界は微妙なところは19世紀より便利だな)
『ようこそ皆様!記念すべきACシルク初公式戦、グルージャ暦1254-1255シーズン西州2部第1節です!観客のみなさま、お越しいただきありがとうございます!私、シルク村役場地域経済振興対策課職員兼スタジアムDJのフレデリクです!是非とも、私のことはフレッドとお呼びください!そして、アウェイチーム・コビア大学の皆様、ようこそシルク村へ!それではコビア大学の選手紹介です!』
フレデリクはシルク村の公務員であるが、ノリノリである。
『コビア大学の選手紹介です。タント、ローレンス、フィルト……』
フレデリクは早口のごとく選手名を読み上げていく。どうやら説明するつもりは毛頭ないようだ。
草太は冷や汗をかいた。
「おいおい、フレデリクさん、相手チーム煽りすぎだろ。コビア大学のゴール裏からブーイングが出てるぞ。」
ソフィアは苦笑いをした。
「この業務、楽しくて仕方ないんでしょうね。プロのDJになれば?……とは私の立場からはいえませんが。」
そしてついにACシルクの選手紹介となった。
『ACシルク!スターティングラインナップ!
まずはゴールキーパー!我らがキャプテン、ビョルン!
続いてディフェンダー!アルバロ!ダンテ!グスタフ!ルピ!
ミッドフィルダー!ウーゴ!マルコ!ニコ!オスカル!ハビエル!
フォワード!クエンティン!
控え選手!ゲイル!セドリック!エリク!フェリクス!イヴァン!セルヒオ!シーグアズ!ラファエル!
そして監督は、ナム!』
そして試合開始10分前になり、ソフィアは村長としてキックインセレモニーのために席を外した。
『選手入場です!』
主催者室から見えるゴール裏全体とバックスタンドの一部には青とピンクのタオルマフラーが掲げられた。
明らかにスタジアムの1/3以上は埋まっている。
審判を筆頭に選手達が入場した。
なんてことはない顔をしているビョルン、やや緊張しているニコなど、表情は様々だ。
キックインセレモニーとしてソフィアはピッチライン上からボールを蹴った。
審判が受け取ると拍手が沸き起こる。
『それでは皆様、アウロラ王国国歌斉唱です。脱帽の上ご起立ください。』
国歌斉唱が終わり、選手達は円陣を組んだ。
キャプテンのビョルンは声を張り上げる。
「いいか!今日はただの公式戦じゃない!俺たちはACシルク初公式戦のスタメンだ!村の人たちの前で無様な姿を晒したら、カッコがつかんぞ!大学の若造どもに勝つぞ!」
「「おう!」」
選手は散り、それぞれの持ち場についた。
その様子を主催者室から見守る草太とレベッカ。
「レベッカ。ついに始まるよ。」
「ここまで長かったわね。でもソウタ、ここまで来たら……」
「うん。もう俺たちにできることは、選手達とナムを信じるだけだよ。」
センターサークルではコビア大学の選手がボールを置いた。
そして審判は笛を鳴らした。
試合は一進一退の攻防であった。
相手は若い大学生だが、フィールドプレーヤーの若さならACシルクも負けていない。
前半15分。
右ウィングのニコがボールを持ち駆け上がり、ボックスに潜入した。思わず駆け寄るコビア大学の選手2人。
そこでニコは駆け寄る2人の空いたスペースにボールをマイナス方向に蹴り込んだ。
走り込んできたのはトップ下のオスカル。
一瞬フリーになったオスカルは受け取ったパスをそのままゴールめがけて蹴り込む。
ボールは高く上がったが、キーパーの手をすり抜けクロスバーのわずか下を抜け、ゴールラインを割りそのままネットを揺らした。
わっ!と観客が総立ちになる。
前半15分、オスカルはACシルクの公式戦初得点を挙げた。
すかさずスピーカーからフレデリクの声がこだまする。
『ゴーーーール!ただいまの得点は、オスカル!』
ゴール裏からもオスカルの名前がこだまする。
仲間にもみくちゃにされるオスカル。
「よし!よし!よっしゃあ!」
「やったぁ!」
主催者室で草太、レベッカ、ソフィアはハイタッチを交わした。
「レベッカ、良い時間帯に決めたぞ!」
草太はタオルで顔から吹き出した汗を拭った。
「前半のうちに後一点欲しいわ。」
レベッカは喜びもひとしおに呟いた。
そのころ、サブリナたちはメインスタンドからこの得点を見ていた。
「やった!やった!みんな見て!今のはオスカルさんよ!」
はしゃぐサブリナにルシアは尋ねた。
「今の最後にパスを出した選手、誰?」
「ニコさんよ」
その答えにルシアはニヤリ、と口角を開けた。
「ねぇ、サブリナ。あんたこのクラブの職員でしょ?理事さんは諦めるから、あのニコって選手紹介してよ。なになに?絶対若いでしょ。」
「だめよ!だめだめ!ニコさんは19歳だけど下心見え見えなルシアには紹介しませーん。」
「ケチ!」
こうしてACシルクは1-0で前半終了の笛を迎えたのであった。




