54-55シーズン西州2部第1節ACシルク対コビア大(後編)
「よーし!勝ってるぞ!」
先発の選手達はロッカールームに戻ると水を飲みながら椅子に座った。
だが、ナムは気を引き締めるかの如く選手達に檄を飛ばす。
「まだまだだ!たった1点差だ!相手は若い!ここからフィジカルでゴリ押しに来るぞ!ウーゴ!無理に前線へパスを回す必要はない!安全にビョルンにパスを回して後ろで組み立てろ!ハビエル!何を相手にビビってるんだ?相手はお前と同年代だ!戦うんだ!肘を使え!相手を潰すんだ!」
ハビエルは呟いた。
「監督、それはまずいんじゃ?カードもらっちゃいますよ」
ナムはこほんと咳払いをした。
「まぁ、そのくらいの闘志で戦えということだ。」
選手一同からは笑いが自然に溢れたまま、円陣を組んだ。
「まだまだ勝負はこれからだ!行くぞ!」
「「おう!」」
そして選手達はピッチへ飛び出した。
村人やゴール裏のサポーター達からは拍手が聞こえる。
一方、コビア大学はハーフタイムでいきなり選手を2人変えてきた。
コビア大学の監督は2人に小声で話しかけた。
「いいか?あの右ウィングを潰せ。そしてワントップもだ。あのワントップはうちのセンターバックを引っ張っている。足の裏でも肘でもなんでもいい。お前達の役割はそれなんだからな。」
後半開始の笛が吹かれた。
コビア大学のプレーは前半とは打って変わり、ラフプレーが明らかに多くなった。
特にニコとクエンティンに対しては露骨である。
ニコがサイドをドリブルしながら駆け上がる。そこに交代したばかりの選手が足の裏を見せたままニコにぶつかってきた。
「いてぇ!」
痛みでのたうちまわるニコ。
グスタフは思わず相手選手に駆け寄り胸ぐらを掴んだ。
「何しやがるんだ、このやろう!」
「しらねーよ!こいつが軟弱なんだろ?」
スタジアムはブーイングで満たされた。
思わずビョルンがグスタフの前に立った。
「おちつけ!お前までカードをもらってしまう!」
「ビョルン!これで黙ってられるほど俺は甘くないぞ!」
審判が駆け寄る。
審判は両者を注意した後、コビア大学のファールとしてフリーキックとした。
ナムは思わず叫んだ。
「退場だろう!今のは!」
しかしナムは副審に咎められた。
ナムは大事をとり選手交代のカードを取らざるを得なくなった。ニコに代わりラファエルが入る。
マルコが蹴ったフリーキックはコビア大学の壁に当たった。そしてコビア大学は前線めがけて大きくボールを蹴り上げた。
カウンターだ。
「やばい!」
主催者室で思わず草太は叫んだ。
しかしグスタフとダンテがシュートコースを限定することでなんとかビョルンはシュートを止めた。
後半25分、疲れが見えたウーゴ、オスカルに代えエリクとイヴァンを投入した。
コビア大学も2人選手を交代した。
コビア大学は荒々しいプレーを見せつつ、確実にカウンターでACシルク陣内でボールを回す機会が増えた。クロスを上げられるたびにグスタフとダンテを中心として跳ね返す。
なかなかゴールを決められないコビア大学のプレー強度はさらに激しさを増してきた。
足で蹴り上げようとしたり、空中戦の際肘を向けてくる。
さすがに審判はイエローカードを提示した。
このイエローカードを受け、コビア大学はイエローが出た選手を即座に交代させた。
「コビア大学は交代枠を使い切ったわね。ナムはどう出るかしら?」
レベッカは草太に話しかけた。
「わからない。ウチの交代枠はあと二つ。残り時間を考えると残り10分とアディショナルタイムか。」
そして後半40分。ナムは驚きの策に出た。
クエンティンに代え、シーグアズである。
「え!?なんでシーグアズ?しかも1枚交代枠を残すの?」
草太は思わず唸った。1点差でほぼ一方的に攻められている状況において、中盤かサイドの選手を交代して試合をしめる方向に舵を切ると思っていた。だが草太の予想とは異なり、ナムの交代策は長身FWのシーグアズである。
シーグアズはボールが飛び込んでくる自陣のゴール前ではなく、コビア大学の最終ライン付近に陣取った。
後半45分を過ぎたと同時にアディショナルタイムは5分と表示された。
「5分。ソウタ、長いわね。」
レベッカは両拳を握りしめた。
「うん。長い。でも、ここで守りきれば勝ちだ。」
コビア大学は所構わず前線へボールを蹴り込んできた。
間一髪のところで守るACシルクの選手達。
ダンテはコビア大学の選手から奪ったボールをがむしゃらにクリアした。
そこに待っていたのはコビア大学DFとライン取りを繰り返していたシーグアズだ。
ボールを受け取ったシーグアズはそのままセンターサークル付近でボールを持ったまま相手ゴールに向かって走り、コーナーフラッグ付近でボールを保持する。
コビア大学も一刻も早くボールを奪うために体と足を寄せてくる。
シーグアズはボールをちょこんと蹴り相手の足に当てた。そのボールはラインを割りコーナーキックとなる。
そしてその瞬間、主審は試合終了の笛を吹いた。
どっと村人やサポーターからは歓声が上がる。
スタジアムDJのフレデリクは魔法スピーカーに向けて叫んだ。
『本日の試合は1-0でACシルクの勝利です!皆様、両チームに拍手をお願い致します!』
スタジアム中から拍手が巻き起こる。
『ここで、入場観客数の発表です。本日の入場者数は3015人です!ご来場、誠にありがとうございました!』
主催者室では草太が右手で目元を覆いながら椅子に座り込んだ。
「3015人……。無料試合とはいえ、そんなに来てくれたんだ。」
レベッカは涙を流しながら椅子の背後から草太をハグした。
「やったわね。ソウタ……。今日ばかりは、自分自身を褒めてあげて?」
草太は立ち上がりレベッカを抱きしめた。
「レベッカ。約束通り『勝利の花』を誕生日プレゼントとして捧げるよ。」
「ありがとう、ソウタ……」
その横でソフィアはやり場のない顔をして言い放った。
「ごちそうさまです。本当に。」
こうしてACシルクはクラブとしての初公式試合を勝利で飾ることに成功したのであった。




