初めてのメディア取材とユニフォーム披露
西州新聞に試合運営ボランティア募集の広告掲載依頼をした翌日の昼、とある一人の男性がクラブハウスを訪ねてきた。
「どうも!スポーツ記者のヤーヒムです!これ、名刺です!」
渡された名刺には『西州新聞スポーツ報道部ヤーヒム』とシンプルに書かれていた。
突然の来訪に驚いた草太ではあったが、草太も名刺を渡した。
「トゴウチ・ソウタさん……。名前が分かれてるということは西州サッカー協会の方から伺っていたんですよ。珍しいですよね!」
「はい、私はアウロラ人ではありませんからね。玄関先ではなんですので、来賓室へどうぞ。」
現在、クラブハウスである元ガンサ小学校には草太とレベッカしかいない。
夜間高校生のサブリナは学校へ行っており、営業部長のクラウディアはスノリマ商会系列の企業へ訪問している。
ゲイルとシーグアズは明日から営業事務として初出勤予定だ。
草太は元校長室である来賓室へと案内をした。
そこにレベッカがコーヒーを持ってヤーヒムに差し出した。
「いや、本当にお若いお二人が経営されているのですなぁ!これも西州サッカー協会の人から聞いてたんですけどね!すみませんが、おいくつですか?」
「私も副理事のレベッカも20歳です。若輩者なので、監査役のレヴィーにも入ってもらってますよ。スノリマ商会の元取締役です。」
「なるほど、なるほど。ちょっと失礼……。」
ヤーヒムはレベッカが差し出したコーヒーに角砂糖を5〜6個ほどカップに入れ、雑にスプーンで溶かした後に、ズズズと飲み干した。
「いやぁ、ウチに試合運営ボランティアの広告依頼を出して頂いてありがとうございました。ま、その件につきましてはうちの営業部が別途連絡しますので……。それより私は、言っちゃ悪いですけど西州の中でも漁業とタオル生産のイメージしかないシルク村にできたプロクラブに興味を持ちましてね。取材をさせてほしいんですよ。」
するとヤーヒムはくたびれた鞄から年季の入った手帳とタバコを取り出し口にくわえた。
「あ、灰皿ないです?」
草太は苦笑しつつもヤーヒムに返答した。
「取材は喜んでお受けいたします。ただ、弊クラブではタバコ禁止なんですよ。申し訳ないです。」
「え……?タバコダメなの?タバコなんて、男の嗜みでしょう?」
「すみませんがここではお断りしてるんです。プロアスリートの施設ですので」
ヤーヒムは一瞬ぽかんとした顔をしたが、タバコを箱にしまい直した。
草太は表情こそ笑顔であったが、内心は穏やかではなかった。だが、西州サッカー協会の会合でも職員や他のクラブのオーナーたちは遠慮なくたばこを吸っていた。むしろ吸わない草太のほうが珍獣扱いされたほどだ。
(日本でも半世紀前までは電車やバスでタバコが吸われてたって聞くし、このアウロラ王国で禁煙を求めるほうが無茶かもしれないな。)
ヤーヒムはレベッカにも話を振った。
「レベッカさん、なぜ外国人の男性とこの片田舎でクラブを作る気になったか教えてもらえませんか?」
「ええ。もともと私とソフィア村長は飲み友達でして……。何か少子化対策になる案はないかと考えていたところ、たまたまサッカーを思いついたんです。」
「ふむふむ。それで?」
「私、当時は冒険者ギルドの受付嬢をいたしておりまして。オホホ。そこにこの人が来たんですよ。とっても礼儀正しい男性で、私の理不尽な要求にも紳士な対応でしたのよ。この人なら任せられる、と思いまして。オホホ」
「選手の皆さんもかなりお若いとか。」
「オホホ。お若い殿方の人生を背負ってますから。責任重大ですわ。」
「公開説明会はかなり荒れたようですね。」
「それでも最後は拍手をいただきましたのよ。若い方にもご年配の方にも。オホホ。」
(猫被りすぎだろ)
草太は内心苦笑した。
そこで草太は話題を変えることにした。
「実はまだ、フロントスタッフと監督しか知らないことなのですが、うちのユニフォームとエンブレムが完成しましてね。お見せいたしますよ。」
そうして草太はスタッフ室から一着のユニフォームを持ってきた。
「これがウチのユニフォームです。」
バサっと草太はユニフォームを広げてヤーヒムに見せた。
海のような鮮やかな青色のシャツに2本のピンク色の縦縞が入っている。
そしてさらに注目するべきはエンブレムだ。
青い盾を背景に一つの糸巻きを植物の枝葉が囲み、外側はリボンが糸巻きと植物の葉を囲っている。さらにその上部は蝶結びで描かれ、その外側を鮮やかなピンクで囲っていた。
ヤーヒムは顎に手をあてた。
「なんとまぁ、2色を使ったユニフォームとエンブレムですか。それだけでもこのアウロラでは珍しいのに、さらに青とピンクの組み合わせとは!」
「どうです?カッコよくありませんか?」
「明らかに既存のクラブとは違いますね。今までは単色のクラブカラーばかりでしたから。これは明らかに若い女性層もターゲットにしていますね?」
レベッカは横から口を出した。
「オホホ。スポーツ観戦は殿方だけのものではございませんから。」
翌々日、西州で最大の発行部数を誇る西州新聞ではACシルクの試合運営ボランティア募集の広告とは別にスポーツ欄にACシルクの記事が小さく掲載された。
『少子化に悩むシルク村からの挑戦』
少子高齢化に悩むシルク村で、一つのサッカークラブが産声を上げた。
その名はACシルク。シルク村村長ソフィア氏と副理事であるレベッカ氏が異邦人であるトゴウチソウタ氏に設立の話を持ちかけたことから始まったクラブだ。
ACシルクは村に新たなる産業と雇用と文化の創生を理念として掲げて作られた。
わずか20歳の若き理事と副理事の挑戦を弊紙は追っていく。
西州2部リーグ第1節ACシルク対コビア大学はシルク村立陸上競技場で開催される。
8月8日(土)17時開始予定。入場料無料。詳しくはACシルククラブハウス(旧ガンサ小学校)まで。




