西州リーグ開幕前と、同棲生活の始まりと
ガタン……ガタン……
青銅馬が引っ張る魔法列車の客車内で草太はレベッカに声をかけた。
「あぁ、会合疲れたな。」
2人は西州2部リーグ開幕前のオーナー会合参加を終え、西州州都ソレセ市からシルク村へ帰る途中である。
草太は今回の会合にて配布された資料に目を通した。
まず、アウロラ王国のサッカーピラミッドだ。
アウロラ王国最高峰のリーグであるリーグ・アウロラ1、その下部のリーグ・アウロラ2、そして、アマチュアリーグではあるがプロへの最後の関門である全州リーグが存在する。
ここまでが全国リーグである。
そして全州リーグの下部には、地域リーグとして首都州リーグ、東州リーグ、南州リーグ、そして西州リーグが並行して存在する。
そして西州リーグは西州1部と2部の構成になっており、ACシルクは西州2部リーグに参加する。
今年はACシルクが新規加盟したため合計8チーム制となった。この8チームのうち上位3クラブが西州1部に昇格する。
次に、肝心の西州2部リーグ所属クラブについて、つまりは対戦相手だ。
資料には去年の成績順にクラブ名が書かれていた。
まずは西州1部からの降格チームだ。
(1)FCブラッケンシティ:ブラッケン市に拠点を置くチームだ。結成10年目。ACシルクの先輩格と見ていいクラブだ。
(2)ガンナムズ:西州の富豪ガンナム氏が趣味で作ったソレセ市を本拠地とするクラブだ。最下位転落したことに激怒し、監督やコーチ陣はもちろん選手も2/3ほど入れ替えたらしい。
残る5チームはこのような情報だ。
(3)ブラトン造船工場:名前の通り造船会社のクラブで、選手は全員工場の社員だ。常に西州で優勝争いをしているのだが、工場の方針で昇格を毎年辞退しているため『西州2部の門番』の異名を持つ。昨年も優勝したが、昇格を辞退したため昨年は2位と3位のチームのみが昇格した。
(4)FCソレセU-18:リーグアウロラ1所属の西州でトップの人気を誇るFCソレセのユースチームだ。アカデミーであるため戦術理解度やテクニックは頭ひとつ飛び抜けているが、シーズンにより成績に波があり、強さは未知数だ。
(5)アウロラ王国陸軍イタミ駐屯地オオカミ団:陸軍チームであり、統率が取れたチームと言っていい。なお、彼らのホームグラウンドは陸軍基地内にあるため、特例としてアウェイサポーターを含め、一般民間人は入場禁止である。
(6)コビア大学:西州2部リーグ唯一の学生チームだ。男性としてフィジカルが最も成長著しい年代という特徴を活かし、ガツガツと肉体勝負を仕掛けてくる。
(7)トランユナイテッド:南州との境にある町・トラン町のクラブだ。とは言っても常に財政問題を抱えており今年のリーグ参加は危ぶまれていた。ACシルクにとっては他人事ではないのだが。
(8)ACシルク:はっきり言って舐められていた。提出した財政状況はトランユナイテッドより悪く、選手らは正直寄せ集めのチームだ。舐められるのは仕方ないかもしれない。
レベッカは草太の手を握って目を見つめる。
「ソウタ、私たちは確かに格下に見られてるかもしれない。でも、私たちはこの半年間ゼロからクラブを作り上げた。ソウタ、開幕戦の日は私の21歳の誕生日よ。素敵なプレゼントを期待しているからね。」
「そうだね。レベッカには理事として勝利という花を渡すよ。」
「ふふ。本物の花も忘れずに、ね」
そして2人はシルク駅を降り、居候先であるナンシーの家に戻った。
草太とレベッカは半年間居候をしたナンシーの家を離れ、ACシルクの練習拠点である元ガンサ小学校近くの家を借りる計画を密かに実行していた。
いつまでもナンシーの世話にはなっていられない。
だがここで反対をしたのは、ナンシーではなく意外にも同じく居候をしているサブリナであった。
「ソウタさん、レベッカ先輩!おふたりは……、その……け、結婚もしていないのに2人きりで住むんですか!」
草太は内心意表を突かれた気分だった。
最近は意識をしていなかったが、この異世界は19世紀の価値観なのだ。すでにレベッカは両親を亡くしているとは言え、サブリナは筋を通せ、と言っているのだ。
サブリナは、さらにまくしたてる。
「結婚もしていないのに二人きりで暮らすなんて絶対ダメです!それに私もナンシーさんも寂しいです!」
ナンシーはサブリナの言葉を黙って聞いていたが、ついに口を開いた。
「サブリナちゃん、ソウタとレベッカちゃんの部屋には新加入のゲイルとシーグアズが入ってくるんだよ。ソウタからお願いされたんだけど、私とACシルクの間でこの家をACシルクの若手選手向けの寮にすることにしたんだ。私は寮母になるんだよ。寂しくなんかないさ。それより私は今、サブリナちゃんもでていくなんて言われたらそっちのほうが悲しいよ。」
するとサブリナの目からは涙が溢れてきた。
「先輩、私、寂しいです。」
「バカね。毎日クラブハウスで会っているじゃない。あと、借家への引っ越しもあるからあと1週間はナンシーさんのお世話になるわ。手伝ってね。」
サブリナはこくり、と首を縦に振った。
そして開幕まで三週間前となった日の早朝。
草太とレベッカは少ない荷物をまとめ、馬車の荷台に乗せた。
草太はナンシーに頭を下げた。
「ナンシーさん、今までお世話になりました。明日からはゲイルとシーグアズが来ます。サブリナともども、ご指南の程をお願いします。」
ナンシーは少しあきれたように言った。
「やれやれ。ソウタ、少し丁寧すぎるよ。3人のことは私に任せな。孫と孫娘のように面倒を見るさ。」
「ナンシーさんには名誉サポーター第一号になってもらいますよ。」
「そうかい。それは嬉しいね。開幕戦は応援に行くよ。」
こうして2人は半年に及ぶナンシー家での居候生活に別れを告げ、ゆっくりと馬車は動き出した。
馬車はクラブハウスである、元ガンサ小学校から歩いて10分ほどの場所にある古いレンガ造りの家の前に到着した。
家の玄関を開けると埃がわずかに溜まっていた。
レベッカは草太に告げた。
「ここから私たちの戦いが始まるのね。」
「あぁ、そうだね。そして、レベッカ、君に伝えたいことがある。」
「何?ソウタ。」
「愛しているよ。これからは結婚を前提として付き合ってほしい。」
レベッカは微笑んだ。
「ふふふ。ありがとう。その言葉を待ってたわ。私も愛してる。」
草太とレベッカの同棲生活が始まった。




