サブリナのスカウト
「クラウディアさん、お先に失礼します。」
サブリナは上司である営業部長のクラウディアに挨拶をした。
若干15歳のサブリナはACシルクの営業ではあるが、働くのは12時まで。
それからはACシルクが指定管理者となっているガンサ小学校から歩いて15分ほどの位置にあるシルク駅からソレセ市にある私立ホーブ学園高校夜間部に通っている。
(少し暑くなってきたなぁ。)
サブリナは先月夜間高校に入学したばかりだが、6月ということもあり、学校はそろそろ卒業シーズンである。
魔法列車に揺られること1時間、西州州都ソレセ市の端っこにあるイガナ駅に到着した。
午後2時すぎに夜間部の教室に着いたが授業が始まるのは午後5時から。
教室には誰もいない。
中途入学であるサブリナは予習に入った。
4時過ぎになり、全日制の生徒たちが授業を終え、校庭がにぎやかになり始めた。
このアウロラ王国では義務教育は小学校まで。
つまり彼らはある程度家が裕福、あるいは親の教育意識が高い家庭であることを示していた。
サブリナの両親からは『オレンジ農家の娘は中学までで十分』と言われ高校への進学を認めなかったが、ACシルクでは夜間高校の費用を支援されるという厚遇を与えてくれた。また、サブリナの意思次第では大学の費用も支援してくれるという。
サブリナは勉強への意欲に満ちていた。
夜20時、夜間高校での授業が終わった。
周りはもう暗く、高校の周りからイガナ駅までの主要道路は薄暗い。
(ちょっと……怖いな)
ソレセ市の治安は悪くないが、それでもこの通りを年頃の少女が一人で帰るのは抵抗がある。
いつもはクラスメートのイーダと共に駅まで歩くのが常であったが、今日はイーダが休んでいた。
校門近くのグラウンドに着いた時、2人の少年の声とボールを蹴る音が聞こえてきた。
よく見れば、1人はゴールポストに向かってボールを蹴り込み、1人はキーパーなのかそのボールに向かって激しく飛び掛っていく。
全日制の生徒はこの時間帯はすでにいないはずだ。
ということは、おそらく学年違いの夜間部の生徒たちだろう。
なんとなくサブリナはグラウンドに入った。
「サッカーの練習……ですか?」
すると、少年たちはサブリナの方を顔を向け話しかけてきた。
「そうだよ。とは言っても2人きりだから。こんな練習と筋トレくらいしかできないんだけどね。君は?」
「私は1年のサブリナです。」
「そうかい。俺は3年のゲイル。キーパーさ。で、このさっきから黙ってる人見知り野郎がシーグアズだよ。人見知りのくせにFWなんだ。」
すると、シーグアズがぼそっと挨拶をした。
「……3年のシーグアズ。」
「3年生なんですね。今まで気づきませんでした。」
するとゲイルは自嘲気味に事情を話した。
「普段この時間は筋トレしてたからね。腕立て伏せとか腹筋とか。今日は蹴り納めだよ。」
「蹴り納め……ですか?高校卒業してもサッカーはできると思いますけど」
するとゲイルは首を横に振った。
「無理。全日制の連中ならともかく。俺もシーグアズも、サッカーは終わりだよ。俺は母さんと妹を食わせるために来月から冒険者。シーグアズは東州の工場まで出稼ぎだよ。」
「そんな……もったいないですよ。」
「まぁ、特にこの1年間は二人きりの基礎練習とか、戦術や理論の勉強位しかできなくて実戦ができてないからね。シーグアズは工場勤務だから草サッカー位はできるんじゃね?俺は、下級妖怪相手に命がけの冒険者になるから、もう分かんね。」
サブリナは意を決して2人に自分の話をした。
「ACシルクというクラブ、知ってますか?」
だが、ゲイルは首を横に振った。
「いや。全然知らん。」
「そうですよね。一月前まではグラウンドもなかった出来立てのクラブですから。私、そのクラブのフロントなんです。新米営業ですけど。もし、お二人さえ問題なければ、監督にあってみませんか?」
ゲイルと、シーグアズは目を合わせて何かヒソヒソと話し合った。
「とは言っても、俺もシーグアズも金のために働かないといけないんだ。シーグアズなんて西州を出る予定だから。田舎のシルク村まで行って草サッカーなんて出来ないよ。」
「ACシルクはセミプロクラブです!お給料は出ます!」
ゲイルはシーグアズの顔を見た。
「まぁ日曜に、行ってみるだけ行ってみるか。土曜日の卒業式が終わったら一ヶ月暇だからな。」
シーグアズは何も言葉を発さずに首を縦に振った。
翌日、サブリナは草太、レベッカ、クラウディア、ナムにことの経緯を説明した。
レベッカは開口一番、サブリナを褒めた。
「サブリナがスカウトをしてくるなんて、ちょっと前までのあんたなら考えられなかったわ。」
草太はナムに訪ねた。
「ナム、監督として彼らはどうだろうか。この1年間は基礎練習とフィジカル強化しかしていない高卒の新人選手は使えるだろうか?」
ナムはあごに手を当ててしばらく考えた。
「うーん。この1年間、試合経験がないのが気になるな。指導者もいなかったということだしな。」
サブリナは反論した。
「でも去年までは週末限定ですが、全日制のクラブに交じって練習をしていました!紅白戦にも出てました!
監督が変わって練習に参加できなくなったんです!」
クラウディアはサブリナをなだめるようにナムへ提案をした。
「監督。まずは練習生として練習参加させてみてはいかがでしょうか?期間は高校の卒業式から二週間。ビジネスの才能を見極めるには二週間で十分です。サッカー選手としての能力を見極めるのも2週間で十分では?」
こうして、2人の練習参加が決定した。




