練習試合・U-19バンガウィッグス戦(後編)
後半が開始された。
パブロに代わって投入されたFWクエンティンは懸命に相手DFのボールを追うが、軽くいなされてしまう。
「少しは動くようになったけど、やっぱりボールもたれてばっかりですね」
観客席でサブリナがつぶやく。
(練習試合とはいえ、このまま一方的に負けるのは悔しすぎるな)
草太は顎に手をつきレベッカとサブリナの真ん中で戦況を見つめる。
その間もバンガウイッグ社の黄色いシャツを着た社員たちの絶妙にダサいチャントが練習場に響き渡る。
『あ、そーれ!バンガ!バンガ!決して我らのずれないウィッグスー!』
『あららら、俺ら!負けることはなーい!なぜなら俺ら、強固なウイッグがあるか〜ら!』
後半10分過ぎ、失点は抑えているが一方的な攻撃に押され、ついに中盤の選手たちの足が止まり始めた。
「根性出しなさいよ!」
レベッカは立ち上がって選手たちを鼓舞しようとするが、もはや選手たちにその声は届かない。
そうして、ナムは決断をした。
MFウーゴとオスカル2人に代え、DFルピとFWセルヒオを投入である。
レベッカはさらに苛立った。
「ナムは何を考えてるの!?負けてるのに守りのルピを入れるなんて!」
だが、草太は納得の表情だ。
「いや、レベッカ。これはナムができる最良の交代だよ。今までは3-4-2-1で戦っていたけど、技術が伴っていないからやられ放題だったんだ。」
「へ?どういうこと?」
「ルピは漁の投網で鍛え上げられた、普通のサッカー選手じゃあり得ないほどの背筋がある。そして、チームで一番若くて持久力があるニコをトップ下から、ほら、前線3枚の右翼を担ってるよ。実は昨日、ナムと話してたフォーメーションなんだ。4-1-2-3もありだねって。」
「ソウタ、さっきから言ってる数字はよくわからないけど、期待していいのね?」
「もちろんさ。」
バンガウイッグスのDF3人はそれまで悠然とボールを回していたが、ニコ、クエンティン、セルヒオの3人は必死で追い回す。
今まではワントップであったため、バンガウイッグスの選手たちからすればさばくのは簡単であったが、3人に追われてはさすがに1人で抜きに出るしかない場面が増えた。
強引なドリブルでセルヒオを抜こうとしたボールはセルヒオの足に当たり、そのボールが跳ね返ってバンガウイッグスDFの足に当たり、ACシルクのスローインとなった。
アンデルソンは笑った。
「ガハハハ!少しACシルクさんもボールを持てるようになりましたな!」
しかし、次の瞬間、アンデルソンはピッチを凝視した。
「……ぬぬ?ボールをシャツで拭いている?」
ルピがボールを拾い、丹念にユニフォームでボールを拭き上げ、助走の距離を取る。
そして、自慢の広背筋と肩の力を武器にボールをゴールめがけて投げ込んだ。
走り込むACシルクの選手たち。U-19バンガウイッグスの若者たちは一瞬あっけに取られたが、守りを固めようとする。だが、一歩遅かった。
高く飛び上がったダンテがボールに頭を合わせ、そのままゴールネットへボールを叩き込んだのだ。
「よっしゃぁぁぁ!」
草太は拳を突きだし立ち上がった。レベッカとサブリナはハイタッチをする。
アンデルソンは思わず草太を見上げた。
「ぬぬぬ!?なんですかな?今のは?反則……では?」
「いえ、反則ではありません。正当なスローインです。審判もゴールを認めてますよ。」
審判は喜ぶACシルクのメンバーに早く自陣へ戻るよう催促をしている。
ACシルクの反撃始まった。
GKビョルンは元リーグ・アウロラ1のキャリアを見せつけるかのように低い弾丸のようなボールを右ウィングのニコをめがけて蹴り上げた。
ACシルク最年少にしてU-19バンガウイッグスの少年たちと同世代のニコはボールを胸で受け、振り向きざまにシュートを放とうとしたところ、相手DFがニコの足を狩るかのようなスライディングをしてきた。
派手に倒れるニコ。
審判の笛が鳴る。
ペナルティエリアからわずかな距離でフリーキックを得た。
マルコがボールを丁寧にセットし、リラックスして蹴り上げたボールはふわり、と音を立てるかのような勢いでバーをたたいてピッチに戻ってくる。そのボールがニコの足元に落ち、ニコはそのまま思い切り左足を振り抜き、ゴールネットに突き刺した。
歓喜してACシルクのメンバーがニコに駆け寄る。
ニコは同世代のエリートたちに向け、両腕を上げた。
「ぬぐぐ。。あの子、なかやかやりますな。バンガウイッグスにくれませんかな?」
いきなりのアンデルソンからの勧誘に草太は苦笑した。
「それは勘弁してください。」
だがそのときは後半40分になっていた。
そのままスコアは動かず、試合は終了した。
「トゴウチオーナー。最初は西州2部リーグからのスタートですな。リーグ・アウロラ2で待ってますぞ。いや。そのときはウチはリーグ・アウロラ1ですな。ガハハハ!」
「ありがとうございます。社長。」
アンデルソンは草太、レベッカ、サブリナの順に握手をして練習場を去っていった。
夕方のバンガ駅ホーム。選手たちは2-4で負けはしたが、エリートたち相手に2点取ったという事実は確実に手応えを感じていた。
そうしていると、『モー』という鳴き声とともに青銅牛が引っぱる魔法列車がホームにやってきた。
だが、なんとなく青銅牛のデザインが朝とは違うような気が草太にはした。
そこでサブリナが騒いだ。
「ソウタさん!これは青銅バイソンモデルのバウ25系!かなりのレアモデルですよ!」
「そ、そうなんだ。サブリナはJK鉄子さんだったんだね。」
「よく言っている意味がわかりませんが、ほら、この角の美しくてたくましいこと……!」
「はいはい。わかったから帰るわよ。サブリナ。」
興奮するサブリナをレベッカがなだめ、一同はシルク村へ帰還したのであった。




