練習試合・U-19バンガウィッグス戦(中編)
試合はまさに凄惨そのものであった。
ACシルクはU-19バンガウィッグスの若者たちに好きなように弄ばれた。
サイドは簡単に突破され、いとも簡単にボックスに侵入される。
セカンドボールは取れないため、FWパブロは前線で孤立する。そのパブロにしても前線で守備をサボっているため、いるのだかいないのだか、よくわからない状況だ。
前半15分。DFダンテは裏を抜かれて決定機を迎える。
飛び出す黄色いユニフォームを着た若者が放つゴール左隅を狙った丁寧なシュート。
ひとりになったGKビョルンは何とか右手でボールを触りコーナーキックへ難を逃れた。
「あ、危なかった。」
草太は一方的な試合展開になるとは心のなかで思ってはいたが、ここまで一方的だとは思っていなかった。
隣でアンデルソンが笑う。
「ガハハハ!我が社のチーム『バンガウィッグス』はリーグ・アウロラ2でも常に昇格を争っていますからな!我がU-19チームが相手とはいえ、設立間もないACシルクさんはここが踏ん張りどきですな!ガハハハ!」
高く蹴り上げられたコーナーキック。ビョルンはパンチングで弾き返したがボールは不運にもペナルティエリア外に待ち構えていた相手選手にボールが飛んだ。
「なんで誰もいない!?」
草太が椅子から立ち上がった瞬間、その相手選手は思い切り足を振り抜いた。
その弾丸シュートはパアン!という音ともにネットを揺らした。
ワッ!と喜ぶ黄色いシャツを着たバンガウィッグ社の社員たち。
『バンガー、バンガー、我らはウィッグスー!毛先はフサフサ、戦意はメラメラ、スコアはアゲアゲ、我らはウィッグスー!ヘイヘイヘイ!』
社歌だがチャントだか、よく分からないが、微妙にやられた側の心をえぐる歌を歌い始めた。
アンデルソンは立ち上がり、シュートを決めた選手を拍手しながらたたえた。
「いいぞ!レオン君!君のトップチーム昇格は目の前だ!もっと決めなさい!ガハハハ!」
ビョルンはゴールをガツン!と蹴り上げる傍ら、ダラダラと歩いて自陣に戻っていくACシルクの選手達。
あれよあれよとACシルクは失点を重ね、0-4で前半を終えた。
草太、レベッカ、それにサブリナが座る観客席からはトボトボとベンチに向かう選手達に、普段は温厚なナムが激怒している様子がうかがえた。
それに続いてビョルンが何かを言っている。
「何よ、ビョルンもナムも、言うときは言うじゃない。怒るのは苦手だと言ってたのに。」
レベッカは腕を組んで感心した。
「いやぁ、レベッカ。それくらい今のチームは危険だということだよ。それに、ほら。」
草太はパブロを指さした。パブロは不満そうに話を聞いていたが、次第に不満がたまったのかパブロはなんと、キャプテンでもあるビョルンの胸を小突いた。
一気にほかの選手達から引き剥がされるビョルンとパブロ。
「やっちゃいました……ね。」隣でサブリナが頭を抱えた。
「監督であるナムや経営陣である俺たちが見てる前でこれをやられたら彼を擁護できないな。」
そのとき、イーチェンが草太たちには腕を振った。
「社長。少し失礼します。」とアンデルソンに言い、草太たちはベンチに向かった。
「何だよ、この野郎!お前らがボール持たれてばかりだから失点を繰り返すんだろ!お前、1部のディージャル・シティでの経験があるGKなんだから少なくとも、あの2,3失点目は止められただろ!」
パブロは3人の選手に抑えられつつもビョルンに掴みかかろうとする。
「ふざけるな!お前こそ相手のDFがボール回しするのを平気な顔で見やがって!追いかけ回せよ!
だいたいキャプテンの俺を小突くなんてあり得るか!」
ナムはついに堪忍袋の緒が切れた。
「パブロ!お前は、もう帰れ!監督命令だ!当分の間謹慎だ!」
パブロの興奮は冷めやらない。
「何だと!漁師兼業の新米監督!」
そこで草太が口を開いた。
「パブロ、監督命令だ。君はしばらくの間謹慎処分だ。俺はオーナーとして現場に口を出すつもりはない。現場の監督が謹慎と言ったら謹慎だ。」
「クソ!こんなクラブやめてやる!」
そこでレベッカも口を挟んだ。
「あなたがACシルクを辞めるのはあなたの自由意志よ。ただし、契約に基づいて違約金30万ルカを持ってきなさい。」
何も言えなくなったパブロはこれ以上言葉を発さず荷物をまとめた。
「あさって、事務所で話し合おう」と草太は声をかけたが、パブロは返事をすることなく練習場をあとにした。
ナムの指示を聞いたイーチェンは審判にパブロからクエンティンへの交代を申し出た。
立ち見席に用意された草太たち用の椅子に戻る草太、レベッカ、サブリナ。
一部始終を見ていたアンデルソンは草太に声をかけた。
「生みの苦しみですな。そのうち花も開きます。
しかしまぁ、この試合はもらいましたがな!ガハハハ!」
そうして後半開始のホイッスルが鳴った。




