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ナム監督のため息

午後7時を過ぎ、フィジカルトレーニングとボールを使った基本的な戦術練習が終わり、ナムはこの日の練習終了を告げた。

選手たちはほとんどが兼業選手であり、漁師や農家、はたまた冒険者まで様々だった。

選手たちは体育館の更衣室へと雑談しながら歩いて向かう。

草太はナムとイーチェンに声をかけた。

「初練習お疲れさま。何だか、ナムの漁師仲間の選手はともかく、それ以外の選手が何となくモチベーションが低かった気がするね。」

するとナムは今日何度目かのため息を深くついた。

「そうだな。まぁ、みんな本業の疲れは出ているとは思うが……。給料はわずかでも出てるんだからもっと意識を持ってもらいたいものだ。」

すると、34歳のチーム最年長で唯一の専業、つまりプロであるGKのビョルンが近づいてきた。

「お疲れさまです。オーナーと監督。」

その言葉にまたしてもナムからため息が出た。

「そう言ってくれるのはビョルンだけだ。すまんな。GK用の練習メニューが用意できてなくて。」

「いえ、そこは分かってましたから。むしろ、半年間のブランクがある俺に声をかけてもらって感謝してますよ。」

草太はビョルンにたずねた。

「ビョルン、唯一のプロとしてこのクラブ、どう思う?率直に聞かせてほしい。」

ビョルンは非常に言いづらそうであった。

そこにレベッカが近づいてきた。

「全部話してもらえないかしら。ACシルクには課題しかないということは分かってるから。」

「副理事がそういうので、率直に言います。

まず彼らの能力はプロでは通用しません。

すぐに息が上がる、筋肉は足らない、ボールさばきが下手、駆け引きができない、弱点を挙げたらキリがないです。

でも、これは徐々に補強とかで補っていけばいいかと……。

えーと、選手の能力以前に一番の問題点は、監督の指導を通じて選手たちはどう成長できるのか、クラブは選手たちへ物語を提示できていないことですかね。

このクラブは将来的には1部リーグを目指しているんですよね?

ではこの底辺の状態であるこのクラブにとって、今必要なのは寄せ集めの選手たちではないかと。

うーん。。何というか、一番必要なのは一つの夢を見られる『物語』なんだと思うんですよ。あいまいな言葉で悪いですけど。

オーナーは初練習の前に地域への貢献を言いましたよね。

自分たちのプレーを通じて何が村へ影響を与えるんですかね。

それは選手自身とこのシルク村双方にとって、です。

でも、難しいことですよね。

シルク村出身の選手たちには響くでしょうが、隣町のバンガ町出身の選手たちにはシルク村がどうなろうとあまり関係ないことですし。

ちょっと生意気でしたね。でも必要なことですよ。」

草太はまるで殴られたような衝撃を受けた。

クラブ理念が選手たちに通用していなかったのだ。

そこでイーチェンが腕を組んで会話に割り込んだ。

「あーだこーだ言わず、一発カミナリを落とせばいいのよ。本当はこれも監督の仕事よ。

でもねぇ、ナムの性格にはそういうの向いてないね。ナムが出来ないなら私がやるわ。」

興奮するイーチェンをナムがなだめる。

「イーチェン、それはやめてくれ。監督の妻が監督の代わりに怒るなんて前代未聞だ。」

「それも必要なことなんですけどね。すみません、最年長の私が本来はその役を買うべきなんだとは理解してるんですけど、人に怒鳴るのが苦手でして……」

ビョルンは申し訳なさそうな顔をした。

「ねぇ、ソウタ」

レベッカは草太に声をかけた。

「『物語』を納得させるなんて、そんなの本来は選手個人で考えることよ。サブリナのような高校生じゃあるまいし。大人なんだから。私たち経営陣がそんなことで悩む暇があったら、私は帳簿を見るしソウタは村の有力者とコネを作るとか、そういうことに時間を使わないと。

だいたいね、私たちは女性ファンも作らないといけないの!そんな自分のキャリアも考えられない弱っちい男達に女性ファンが付くと思う!?あとね、ぶっちゃけイケメンが…、」

「レベッカ!ストップ!」

思わず草太はレベッカに待ったをかけた。

ぜぇぜぇ、と肩で息をするレベッカ。

「でも、レベッカの言うことも一理あるな。夢や目標は自分でつかみ取るものだからね。まぁ、対話をしない、ということじゃないけどね。少し考えさせてほしい」


そうして翌日の木曜日になった。

サブリナはシフトにより休みであったため、午前中はクラウディア1人で営業に回っていたが、昼過ぎになりガンサ小学校へ帰ってきた。

「理事、副理事。面白い話がありますよ。」

レベッカはクラウディアにたずねた。

「へぇ?何があったんですか?」

「U-19バンガウイッグスとの練習試合です。副理事の故郷であるバンガ町のクラブですね。」

レベッカは草太に振り向いた。

「相手は10代の子たちよ。勝てるよね?」

草太はグラウンドに置かれたサッカーゴールを見ながら答えた。

「無理じゃないかな」

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