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忘却の勇者は楽しく冒険したい  作者: ケロタコス
時王編

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第68話 騎士の矜持

 温泉宿から見えた酸の波は、高く空へ登ろうとしていた。

「おい、な、何だ、あの波は!?」

 近くの男が思わず独り言を漏らしているのが、俺にも確かに聞こえた。


 星空と月明かりの下、森の方から巨大な波が立ち上がろうとしていた。


 だが、何かが起こる。

 高くなり、前進しようとしていた波が止まった。

 とりあえず、俺は温泉から出てメリアたちと合流した。

 嫌な予感がした。


 メリアの提案で、宿から離れようとしていた。

 あの波が何なのか分からない。

 だが、まずは先にアレックスと合流しよう。

 階段を登ると、床を走る足音が聞こえていた。

 廊下では観光客たちが大慌てで荷物をまとめ、逃げ出そうとしていた。


 借りた部屋のドアを開く。

 しかし、部屋にアレックスの気配はなかった。

「まさか…………あの波が止まったのは!」

 急いで下へ降り、メリアとタツミに伝えた。

 そして宿を出て、森の方へ向かった。

 __


 鞘が無ければ、全身が溶けていたかもしれなかった。

 酸の波は止まり、波を遠回りして横から抜け出した。

「…………何をしたの、君」

 彼女はもう一刀を構える。


 互いに武器をぶつけ合いながら問いかけてきた。

 だが、俺には答える気はなかった。

 その後、手を伸ばし、鞘を自分の元へ戻した。

 酸の波は落ち、森の中に大量の溜まりを作った。


 彼女の持っている刀を全て破壊すれば無力化できる。

 側面を断ち切る!

 キィン!!

 刀は折れた。

 だが彼女はすぐに、もう一刀を取り出す。


 その繰り返しで、持っていた二刀を壊した。

「チッ………」

 追い込まれているように舌打ちを漏らす。

 今度こそ最後の刀を破壊し、ここで止める。


 脚に力を込め、地面に足跡を刻み、一撃を叩き込む。

 キィンッ!

 刀が折れる。

 だが、彼女の目は変わっていた。


 冷静になっていた。

 彼女と会った時の感覚を思い出す。

 何か来る。

 折れていたはずの刀は、破片同士がくっ付き、修復した。


「残念だけど、君には私を倒すことができない」

 そう言い、彼女は俺の左腕を斬った。

「…………」

「腕を切られても血が出ないのね」

 まんまと相手の罠に落ちた。

 簡単に倒せると甘く考えていた。


「私は感謝しないといけないな」

「道中、森の中でゴブリンの死体に刺さっていた、この刀を見つけたことに」

「最初は錆びた刀だと思ったけど…………」

「こんな名刀だとはね」


 彼女は刀を見つめていた。

 まるで勇者が初めて手にする聖剣を見るような目だった。

 身体に染みついた直感に従い、ふと森を見る。


 草むらから誰かが現れた。

 現れたのはオリバーたちだった。

 俺は自分の世界では英雄だった。

 だが、この世界では厳しいようだ。

 少し、自分の実力を過信していたかな。

 瞳はタツミへ向いていた。


 孤独を恐れ、選んだ能力。

 気持ちを紛らわせるために作られた、空の人形へ魂を模倣して入れられた人形《ゴーレム》。


 せめて願うなら、彼女にもっと自信をつけさせてやりたかった。

 そう思考している内に、身体は液体に包まれた。

 最後に、自分の名前が呼ばれた。

 正直、初めてだった。

 自分の大切な主人を守れないなんて。

 守護の騎士失格だな…………。


———————『『『アレックス!!』』』

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