第52話 スライム塗れ
日本。
「姉さん……大丈夫だよ。もう、家に帰ってもいいよ」
病院の個室で、男の子が弱々しい声で言った。
「帰るわけがないでしょう……」
OLの姉は涙を堪えきれず、病でやせ細った弟の手を強く握りしめた。
朝になり、彼女は病院を後にして仕事へ向かった。
帰り道、夏祭りの賑やかな灯りが街を照らしていた。
(弟も……こんな祭り、きっと大喜びしただろうな)
金魚すくい、射的、ヨーヨー釣り。
一緒に回るはずだった光景が、何度も頭に浮かんでは消える。
でも、それはもう叶わない夢だと知っていた。
弟の病気は、治療の方法がない。
人ごみを掻き分け、彼女は再び病院へと足を向けた。
——そのとき。
黒ずくめの人物が突然目の前に現れた。
パチン。
持っていたヨーヨー風船が地面に落ちて弾けた。
すれ違いざま、鋭い痛みが脇腹を貫いた。
(ああ……どうして今、あの日のことを思い出したのだろう) (……ストレスのせいかな)
(もう、ドアの後ろにいるのか……)
——。
オリバーたちは、倒れた人たちを慎重に避けながら奥のドアを開けた。
部屋の奥——冷たいコンクリートの壁の前に、縛られたアンダーがいた。
その後ろには重厚な玉座があり、そこに一人のシスターが静かに腰を下ろしていた。
(少年と妖精と女の子……あいつらを全員倒すとは、相当強いのか?)
「うむむむッ!」
「俺の友達を解放してもらうぞ!」
「へえー、よくも暴れてくれたわね」
「人の基地をなんだと思っているの?」
「来なさい。私が相手をしてあげる」
シスターは玉座から立ち上がり、槍を構えた。
「俺が相手をする」
そう言ったオリバーの耳元で、メリアが素早く囁いた。
「ねえ、オリバー。最後の瓶を使って、あの人を気絶させてみて」
「とりあえずやってみるか」
「えいっ!」
スライム液入りの瓶をシスターに向かって思い切り投げた。
しかし——
瓶はあっさり避けられ、目の前にテレポートしたシスターが瓶を掴んでいた。
「へっ?」
「おおおおお!!目がああああああああああっ!」
「だ、大丈夫……? オリバー」
(スライムでめちゃくちゃ汚れちゃってる……)
「何よ……まさか私をスライムまみれにしたかったの?」
「最低……」
シスターが文句を言うが、誰も聞いていなかった。
「ううううっ……むぐむぐ……!」
(何やってんのよ……)
「ああ、動かないで、オリバー」
「……ハンカチを貸しますよ」
「ああ、ありがとうタツミ」
ゴシゴシ。
「気をつけて、オリバー。彼女の能力はテレポート系だと思うわ」
「ああ……」
(どうやって倒せばいいんだ……?)
(投げ物は返される……)
————っ!
パキンッ——!
互いの武器が激しくぶつかり合った。
「私たちの計画を邪魔させない!」
その頃——。
ニタと音茶は、エルトード王国のとある店にいた。
「ちょっと、私の頭を撫でるのをやめてもらえる?」
音茶は不機嫌そうに言った。
「そう怒るなよ……こねこちゃん」
ニタは笑いながら、音茶の頭を撫で続ける。
サッサッ——。
「…………ムム。」
「だからやめろって」
音茶はニタの手を払いのけた。
「それより、どうやって地下刑務所に入るの?」
「そんなにカッとするなよ。今考えてるところだ」
ニタはメニューを開く。
「それより、子猫ちゃんは何を頼む?」
「…………サーモンソテー」




