とりあえず街に行くかパート2
「お前、起きたのか?」
オリバーは冷たく警戒していた視線を向けながら、目の前の少女に問いかけた。
「それで、お前は何者なんだ?」
しかし、少女は答えない。
「うっ……どうなってるの? さっきまで森にいたのに……ここ、どこよ?」
彼女は困惑しながら身をよじった。
メリアがすかさず質問する。
「君、なんで私たちを襲ったの?」
少女は警戒した様子で答えた。
「あんたたち、刺客じゃないの?」
「刺客!?」「四角!?」
オリバーとメリアが同時に声を上げたが、オリバーの言葉に違和感を覚えたメリアがすぐにツッコミを入れる。
「ちょっと、オリバー! 今、違うこと考えてたでしょ!」
「……え、いや、そんなことないぜ?」
メリアはため息をつき、改めて少女に問いかける。
「それで、なんで私たちを刺客だと思ったの?」
少女は真剣な表情で語る。
「逃げてる途中、後ろから声が聞こえたのよ。それで振り向いたら、あんたたちがいた……だから、攻撃したの」
オリバーは内心で納得する。
(あのとき俺たちが叫んだから、気づかれたのか……)
メリアはさらに質問を続けながら、自分たちのことを説明した。
話を聞くうちに、少女の素性が明らかになっていく。
彼女は エルトード王国の偵察隊。
コードネームは サボン。
本名は明かさなかったが、魔族と手を組んだ デハーマ帝国 に潜入し、王国へ情報を送る任務を担っていた。
だが、正体がバレて逃亡。森に身を潜めながら、追っ手を振り切っていたのだという。
オリバーは話の途中でお腹が空き、食べ物を探しにキッチンへ向かった
「ちょっと物を取ってくる」
キッチンへ向かい、ついでにサボンの荷物を取りに行ったのだが――
サボンはすぐに異変に気づいた。
オリバーが 彼女の黒いマント を身につけていたのだ。
「なぁ、メリア。これ似合うだろ?」
オリバーはマントで顔を半分隠し、低い声で呟く。
「俺が……ナイトマンだ」
ジョークを理解したメリアは、思わずクスッと笑った。
だが、サボンはもがきながら叫ぶ。
「おい! 私のマントを勝手に取るな!」
「縄を外してよ!」
メリアは軽く咳払いをし、落ち着いた口調で言った。
「まずは彼女の話をちゃんと聞こう」
しばらくして、サボンはメリアに向かって頭を下げた。
「……さっきはごめん。襲いかかって、怪我までさせてしまった」
「気にしないで。でも、あなたはどうするつもりなの?」
サボンは真剣な表情で答えた。
「王国に戻らないといけない。だから、縄を解いてくれ」
オリバーはじっと彼女を見つめる。
(……嘘はついてないな)
直感ではそう感じたが、完全には信用できない。
そこで、メリアにそっと囁く。
「メリア、彼女を見張ってくれ」
メリアは小さく頷いた。
「分かった。一緒に行こう。ちょうど王国に行きたかったし」
「本当か?」サボンが驚いたように言う。
「なら、王国内まで案内してやるよ」
オリバーはサボンの荷物の中から、あるものを取り出した。
「だけど、サボンさん。この投げ針は俺が持つ」
サボンは少し考えた後、納得したように頷いた。
「分かった」
メリアはサボンの縄を解き、オリバーは旅の準備を進める。
「よし、行くか!」
こうして、ようやくオリバーたちの旅が始まる――
……が、その直後、サボンがツッコミを入れた。
「ていうか、私のマント返してよ!」
⸻
オリバーの疑問
その夜、サボンが寝静まった後、オリバーはメリアとキッチンで話していた。
「そういえば、オリバー」
「ん?」
「渡した服、身体能力を大幅に上げる効果があるんだけど」
「Caramba! マジかよ! 全然気づかなかったよ!」
「いや普通に気づいてよ。君、一日中サボンの荷物抱えながら歩いてたのよ?」
「Ah, é verdade! 確かに!」
メリアは少し考えた後、オリバーに尋ねる。
「オリバー、サボンのことどう思う?」
「悪い人じゃないと思うよ。彼女は冒険者でありながら、王国の兵士としても働いてるみたいだし」
「そうか……」
メリアは納得しつつも、オリバーの温厚さを少し心配していた。
すると、オリバーがふと疑問を口にする。
「なぁメリア。サボンはどうやって俺の言葉を理解してるんだ?」
「俺、今まで彼女に日本語やポルトガル語や英語で話してたけど、特に反応なかったよな?」
「ああ、そのことね。シンプルな理由よ」
「そ、それは!」
メリアは微笑んで説明した。
「オリバーが転生したとき、女神様があなたにこの世界の言語を理解できる能力を与えたのよ。
それに、オリバーが話す言葉も自動的に相手の言語に変換されるの」
「それと、この世界の文字も、オリバーには日本語として見えるわ」
「Ah, entendi…なるほど……」
オリバーは腕を組み、納得したように頷いた。
「ありがたいなー……俺、英語読めないから」
メリアは思わず苦笑した。
ふと、オリバーは気になって顔を上げる。
「え、じゃあポルトガル語でもOK?」
メリアはあっさりと頷いた。
「うん、大丈夫よ」
オリバーは試しにポルトガル語で話しかける。
「Então quer dizer que eu posso falar assim?”(じゃあ、こうやって話してもいいのか?)」
メリアは平然とした表情で答えた。
「うん、普通に聞こえるよ」
オリバーは驚きつつも、思わず笑った。
「eita !caramba … すげぇな女神様!」
メリアはココアを飲みながらさらりと言う。
「まぁ、助かるシステムではあるよね」
オリバーは腕を組みながら、改めて考える。
「でも、これってどんな言葉を話しても、自動で翻訳されるのか?」
「試してみれば?」
「Ei, então você realmente consegue me entender?”(おい、本当に聞こえてるのか?)」
メリアは肩をすくめる。
「だから、聞こえてるってば」
オリバーはますます感心したように笑った。
「すげぇな……でも、便利で良いね!」
メリアは呆れたように溜め息をつく。
「まぁ、あんまり変なことを言わないようにね」
「全部相手に伝わっちゃうんだから」
「うっ、それはちょっとヤダな……」
二人とも会話しながらココアを飲んでいる間
一方その頃
エルトード王国、深夜――。
冷たい雨が石畳を叩き、雷鳴が夜空を引き裂く。
王国の門の前に、異形の魔族が立ちはだかっていた。
その姿は異様だった。蛇の頭を二つ持ち、全身を覆う黒い鱗が雨に濡れて光る。
「……フン、人間どもよ。震えて待つがいい」
魔族は杖を掲げ、その先端に紫色の魔力を集め始めた。
闇に包まれた門前が、魔力の光で照らされる。
しかし――
バシュッ!!
突如、空中から閃光が走った。
「その程度の魔法で、王国の門を破れると思った?」
白銀の髪をなびかせながら、少女が宙を舞っていた。
その手には、まばゆく輝く剣――聖剣が握られている。
魔族が気づく間もなく、少女は剣を振り下ろす。
ズバァァァァン!!
光線が一直線に魔族を貫いた。
「……っ!!」
次の瞬間、魔族の体が砕けるように消え、門の一部が崩れ落ちた。
「……またやりすぎたか」
少女は剣を肩に担ぎ、ぼそっと呟く。
「力加減って難しいな……」
メリアはふと、遠くの方角に視線を向けた。
「……⁉︎」
王国の方から、一瞬だけ 強い衝撃 を感じた。まるで、大規模な魔法が炸裂したような感覚だ。
(王国の方から……すごい衝撃を感じたわ)
思わずオリバーの方を見たが、彼は何も気づいた様子もなく、のんびりとココアを飲んでいる。
メリアはしばらく考えたが、今はどうすることもできない。
(……今は気にしても仕方ないわね)
そう判断し、静かにカップを口に運んだ。
二人ともココアを飲み終わり、それぞれ寝る準備を始めた。
メリアは自分のベッドへ向かい、そっと横になる。
オリバーは隣のベッドの カーペットの上 に寝転がった。
サボンは 二人用のソファ に横になり、すでに静かな寝息を立てていた。
こうして、それぞれが静かに眠りについた――。
翌朝、王国へ
オリバーは気持ちよく目を覚まし、キッチンへ向かった。
すでに準備されていた朝食を軽く済ませると、三人は王国へ向かう準備を整えた。
森を少し歩いた先、ついに王国の城壁が見えてくる。
「おっ、見えてきたな!」
しかし、門に近づいた瞬間、三人は思わず足を止めた。
門が半分ほど消失していたのだ。
「えっ……!?」
サボンの目が見開かれる。
「……!?」
メリアは言葉を失い、険しい表情を浮かべた。
オリバーは驚きのあまり、大きく目を見開く。
「ワーオ……ここで何が起きたんだ?」
すると、その場にいた兵士の一人が、遠くからサボンの名を呼んだ。
「あっ、行ってくるわ。また後で街で会おう!」
サボンはそう言い残し、兵士のもとへ駆け寄る。
「おう、また後でな!」
オリバーは手を振り、サボンを見送った。
「よし、それじゃあ街に行こうか」
「ええ、行きましょう」
メリアが頷く。
「イェーイ、レッツゴー!」
オリバーは期待に満ちた表情で、足早に王都の中へと向かった。
⸻
王都散策
城門をくぐり、街の広場に入ると、オリバーは目を輝かせながら辺りを見回した。
「うわあ……スゲェ! まるで異世界の中世みたいだ!」
石畳の道を行き交う人々、露店で品物を並べる商人、そして賑やかな声が飛び交う街並み。
まさに、彼が憧れていた”異世界の都市”がそこに広がっていた。
メリアはそんなオリバーの様子を見て、予想通りの反応だと微笑む。
(やっぱりね……転生者はみんなこういう反応をするのよね)
そんなことを考えていたメリアだったが、ふと違和感に気づく。
(……あれ?)
オリバーの姿が見当たらなかった。
(……えっ? オリバーは!?)
⸻
オリバーの街歩き
一方その頃、オリバーは一人で街の中を散策していた。
通りを歩くと、さまざまな種族の人々が行き交っているのが目に入る。
獣人たちも多く見られ、犬の耳や猫の耳を持つ者たちが普通に歩いていた。
(うわー、獣人ってこんなにいるのか……すげぇな)
そう思いながら辺りを眺めていると、突然――
「ワン!」
勢いよく飛びついてくる犬。
「おっと……おー、可愛いな!」
オリバーは思わずその犬を撫で始めた。
ふわふわの毛並みに癒されていると、遠くから飼い主らしき人物が駆け寄ってきた。
「もー、待ってポチ!」
そう言いながらやってきたのは、猫耳の獣人の女性 だった。
「ごめんね、大丈夫? 噛まれたりしてない?」
「大丈夫、大丈夫! 噛まれてないよ」
オリバーは笑顔で答えた。
「お姉さん、ギルドがどこにあるか知ってる?」
「ギルド? なら、真っ直ぐ進めばすぐ見つかるよ」
「ありがとう!」
オリバーは礼を言い、去っていく彼女をちらりと振り返る。
(綺麗なお姉さんだったな……)
しかし、その瞬間――重大なことに気づいた。
「あっ……」
周りを見渡す。
(……やべぇ、メリアどこ行った!?)
完全に見失っていた。