第90話 最終学期の始まり
テスト休暇明けの初日。普段通りに通学路を歩いていた。
私は、開口一番でフリードリヒに謝っていた。デートの誘いを断ってごめんなさいと。
フリードリヒは、笑って許してくれた。どうもその日は、男性陣で集まって訓練をしていたようだ。
私も、女性陣で集まって様々な事を話していた。そう……将来の事を。話の流れ的に、切り出すのは今だろう。
「上級学年卒業後、やりたいことがあるのですけど……聞いてくれますか?」
私は、神妙な面持ちだったのだろう。フリードリヒが、何事かと困惑しながらも頷く。
「私、研究棟で研究員になりたいです!その頃には、皇子妃になっていることは承知していますが……」
フリードリヒが、安堵の表情に変わる。私が、突拍子もないことを言い出すのを警戒していたのだろうか?
「問題ない。マリアの好きにして大丈夫だ。だが一つだけ、私からもお願いしたいことがある」
「ありがとうございます!お願いですか?なんでも言ってください」
「皇子夫妻として行わなければいけない用件の場合、それを優先して欲しい。大丈夫だろうか?」
お願いもなにも……そんなの当然だと思うんだけど?あくまで皇子妃という立場で、副業をするっていう前提だったから。
「当然、立場を軽んずるつもりはありません。私がやりたいことをやりながら、フリードリヒの助けになればと思っています」
「そうか。だったら、私の妃に相応しい役職を考えておく。皇子妃が一職員というのも、周りが迷惑するだろうからな」
「そうですね……。社長の息子の嫁が同僚です、ってすごく気を遣う職場ですよね」
「だろうな。だが、君の知識や発想が研究に重要なのも間違いない事実だ。研究員たちを引っ張っていってほしい」
研究員を引っ張るような役職?研究棟長?なんか言いづらいから、所長?
それだと、自由に研究が出来ない気がする……。それに公務で空けることもあるだろうから、責任がありすぎる役職は不味い。
「所長とかは、やめていただけると助かります。なるべく、部署に関わらず動ける研究員のような立場がいいです」
「そうだな。君の場合は魔法研究でも新技術研究でも、様々なアイデアを持っていそうだからな。考慮しておく」
とりあえずは、フリードリヒに任せておけば大丈夫そうだ。ここまですんなり、許可が出るとは思っていなかった。
フリードリヒが私に甘いのか?それとも、私の成果に期待しての事なのか?
どちらにしても、私は私が出来ることに全力を尽くそう。皇子妃の道楽なんて言われないように……。
私たちが校門に着くと、他の生徒会メンバーが待っていた。これも普段通りだ。
「二人とも、おはよう!テストの結果を見に行こうぜ!」
レオンが元気に声をかけてくる。あと三か月。学校で会えるのは、もうそれだけだ。
でも、それを口にすることはしたくない。最後まで笑顔で接したいと思っているから……。
すでに恒例となった、エントランスの混雑っぷり。テストの結果に一喜一憂する生徒の姿。
そして、私たちの前に出来上がる道。もう、開き直って堂々と歩くことにしました……。
一位 フリードリヒ・イストリアス・カージフ 500 500 1000
一位 マリア・フォン・ナッサウ 500 500 1000
一位 ハインリヒ・フォン・ナッサウ 500 500 1000
四位 イザベル・アーティラス・カージフ 498 480 978
五位 テレーザ・フォン・プファルツ 454 500 954
イザベルさんが、更に点を上げてきた。最後のテストでは、私たちに追いつくかも?
意外なことに、生徒会メンバーが軒並み順位を上げていた。テレーザに至っては、五位まで順位を伸ばした。
ローズやレオンも十位近く順位を上げている。何故?
「いやあ、ホンマ新魔法様様や!あたしらは、みんなより早くから練習しとったからな」
「ん。実技満点取れた。マリアのおかげ」
そうか。風魔法や雷魔法の授業が始まった関係で、全体の点数が落ちたのか。
相対的に、生徒会メンバーの順位が上がったと……。だとすると、イザベルさんは本当に凄いな。
点数が落ちるどころか、着実に満点に近づいてきている。どれだけ努力を重ねたのだろうか……。
「マリアさん!ついに射程に捉えましたわ!次回こそ……貴女に並んでみせますわ!」
「イザベルさん、流石は私のライバルです!最後のテストで……私、待ってますから」
颯爽と去っていくイザベルさんに合わせて、私たちも教室に向かうことにした。
その後、教室では最終学期の授業が始まったのだった……。
――――――
生徒会室に、皇城からの伝令がやってきた。落ち着いた様子で、フリードリヒが内容を確認している。
伝令を帰らせたフリードリヒが、生徒会メンバーに向けて内容を報告し始めた。
「東部選帝侯戦の結果が出た。圧倒的大差で、アンスバッハ辺境伯が東部選帝侯に就任した」
私とお兄様は安堵し、ローズとレオンは祝福してくれた。テレーザは……無関心のようだ。
ローズもレオンも、完全に改革派というわけでは無い。両家とも、中立を貫いているからだ。
ローズのマルク伯爵家は、南回り交易路の重鎮。財力という面では、この国有数だ。
そのため、第二皇女様の勢力が強い南部にあって、中立を保っている。
レオンのバーデン辺境伯家も、シバ国と対峙しているのを理由に政治対立に関与せず、とはっきり意思を示している。
ただ、問題なのはテレーザだ。プファルツ侯爵家は、生粋の正統派。そして、西部選帝侯。
本人は意にも介していないようだけど、家からはフリードリヒと距離を置くように言われているようだ。
三女とはいえ、改革派とつながりがあるのを良く思われていないらしい。巻き込んじゃってごめんなさい……。
「流れは完全に改革派に向いている。だが、最後の一手が無い。しばらくは、正統派の動きを注視するにとどめるつもりだ」
「あれ?てっきり俺は、ガンガン攻めてくと思ってたんだけど」
「会長らしくないやん。まあ、改革派も大きくなりすぎたからなぁ。気軽に動けんのはわかるで」
そうなのだ。改革派が大きくなりすぎた。それ自体は、喜ぶべきことだ。
だけど少数派だった頃と違い、思い立ったら即行動というわけにはいかなくなった。それだけ、責任も大きくなったということだ。
「短期決戦を諦めただけだ。依然として、我々の優位は揺るがない。確実に地盤を固めていくんだ」
みんなに言っているようで、自分自身を諭すような言葉だった。焦るな、攻め急ぐなと戒めている。
シバ国との情勢不安を抱えている以上、継承戦が早く終わるのが一番だった。国内で対立しているべきではないから。
だけど、それが叶わなかったのだ。フリードリヒは、とても悔しそうだった……。




