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第89話 男たちの休日?2

「始め!」


 レオンの声で、模擬戦が開始される。が、私もハインリヒも動かない。お互い、警戒し合っている。

 睨み合いながらも、じりじりとお互いに距離を詰めていく。そして、あと一歩で間合いに入るという瞬間。

 私は、ハインリヒに斬りかかる。大振りはせず、相手を崩すための仕掛けだ。

 受けに回ったハインリヒは、ことごとく私の攻撃を払いのける。


「次は私の番ですね」


 そう言うと、一転して攻勢に転じた。重さは無いが、鋭く早い斬撃がとんでくる。

 こちらもハインリヒの剣に合わせて、適切に防御を繰り返す。狙いがいちいちいやらしい。

 防ぎにくい箇所に、怒涛のような攻撃が降り注ぐ。質も悪くない物量攻撃。やっかいな相手だ。

 少し甘く入ったハインリヒの攻撃を、強く打ち払って距離を取る。


「ハインリヒ……お前いい性格をしているな」

「フリードリヒ様。この状況なら、誉め言葉として受け止めましょう」

「そうだな。だったら、次の一撃も受け切ってみせよ」

「駆け引きではないようですね。わかりました。レオンも焦った一撃、しっかり受け切ってみせましょう!」


 私は上段に構えて、一気に間合いを詰める。ハインリヒもそれに合わせ、迎え撃つ態勢だ。

 そして、レオン戦のような強烈な振り下ろしを放つ。ハインリヒは剣同士がぶつかる瞬間、剣の角度をずらした。

 私の斬撃は、力を逃がされた。が、そのまま力ずくでハインリヒの剣を下に押し込む。


「これは……初見であれば、受け切れなかったですね」

「上手く受けたものだ。だが、ここからどうする?」


 その問いの答えと言わんばかりに、ハインリヒは受ける力を抜くと同時に、身を半身ずらした。

 私の剣は空を切り、ハインリヒが一撃を加えようと剣を振る。美しい剣筋だ。

 だが、私も力ずくで剣を返す。ハインリヒのカウンターを弾き飛ばす。

 その後も切り結んだが、決着がつくことは無かった。ただの見学者になっていたレオンが、終了の合図をする。


「二人とも。そろそろ終わりにしとこうか。タイプは正反対だけど、実力が拮抗しすぎてて終わらないよ……」


 その言葉に、私たちは剣を下ろす。一体何分間続けていたのだろうか……。

 程よいを通り越した疲労と汗で、全身が重い。だが、とても実りのある立ち合いだった。


「俺の目から見て、会長は対人戦になれてない感じだね。逆に、ハインリヒはそこそこ慣れてるようだけど……誰に指導を受けてたんだよ?」

「ああ。父様、ディートリヒからですね。領軍に混ざって、訓練していました」

「ディートリヒ様か……。なら、納得だ。前回の北方紛争の英雄にして、俺の両親の命の恩人だからね……」

「ん?バーデン辺境伯夫妻のか?私も把握していない情報だな」

「ええ。私も、父様からはなにも聞いていませんね」


 レオン曰く、領軍兵団の総大将として指揮を執っていた両親は、シバ国の奇襲を受けたそうだ。

 隘路(あいろ)を進軍中に、崖上から総大将目掛けての急襲。大混乱に陥り、辺境伯夫妻も大怪我を負ったそうだ。

 そんな時、ナッサウ領軍をいち早く収拾し、反転攻勢を仕掛け、シバ国奇襲部隊を殲滅したのがディートリヒだったようだ。

 ナッサウ家のような文官家の領軍団長。それゆえに軽んじられていたようだが、その一件から発言力を増した。

 その後は、領軍兵団の主力として活躍。ミリヤム女史らを押しのけて、北方紛争の英雄と呼ばれるようになった。


「奇襲を受けたのは、領軍兵団の恥だからね。実際に従軍していた人たち以外には、あまり知られてない話だよ」

「父様がそこまで凄い人物だったとは……。でも確かに、団長としての統率力はとても高いですし、なにより剣の腕前はレオン並みだと思います」

「おいおい。俺並みじゃないぜ!俺より上だ!剣だけじゃなくて、用兵や戦術知識もこの国でトップだと思うぞ?」

「お前がそこまで言うとは……。ディートリヒを領軍団長で終わらせるのは、勿体ないのではないか?」


 それこそ私は、レオンが将来の元帥候補だと考えていた。だが、ディートリヒこそ相応しいのではないか?

 言い方は悪いが、たかが伯爵家の領軍団長。相応しい立場ではないはずだ。もっと上を目指すべきだ。


「それが……国軍への入団を断ったらしいんだよ。ナッサウ領のために働きたいって言ってさ」

「それなら、私も聞いています。国を守るのは賢い奴に任せた!って言ってましたよ。軍事以外はからっきしな人ですから……」

「それを聞くと、レオンが心配になるな。国軍の幹部となると、政治とも無縁ではないぞ?」

「わ、わかってるよ!会長の推薦なんだから、顔に泥を塗らないように頑張るって!」


 ディートリヒ程ではないが、レオンも軍事一辺倒だ。後々、苦労することだろう。

 まあ、それは今の国軍幹部にも言えることだが。城の文官たちとの予算会議なんて、見るに堪えない状況だ。

 武の道を突き進んできた者が大半の国軍と、常に化かし合いをしている文官。言葉と数字で、国軍がサンドバッグ状態だ。

 だが、今後は少しましになるだろう。そのための学校教育だ。半年とは言え、騎士科志望者も算術の授業を受けている。

 コース分け後も算術の授業を残すべきだったかもしれないが、それは……各自で努力してもらおう。


「とりあえず、状況は把握した。レオンも私たちの実力を把握できただろうから、指導をしてもらってもいいか?」

「そういえばそうだった。訓練が目的だったっけ。じゃあ、二人の長所と短所を言ってくから――――――」


 その後は、レオンの指導の下に訓練に励んだ。実力が上の者に教わることが出来る機会は、そうそうないことだ。

 魔法で身体は強化できても、技が伴わなければ十分な力は発揮できない。だから私は、普段から剣を振っている。

 自身を守るため。マリアを護るため。友を、そして国を守るため。武も、知も、魔も全て磨き上げる。

 皇帝になれば、すべての重みが私の双肩にのしかかってくる。それを支えるのは、積み重ねた努力だけなのだから……。


「よし!訓練終了!二人とも筋がいいな。やっぱ天才様たちは違うね!」

「私は天才ではない。すべては努力の賜物だ。ハインリヒはどうだか知らんが」

「私もですよ。幼少の頃から、マリアのために努力を続けてきました。まあ今は、マリアとフリードリヒ様のためですが」

「ハインリヒはいい加減、マリアちゃんから卒業しろよ……。そんなんじゃ、いつまでたっても結婚できないぜ?」

「そういえば、フリーデ姉様がハインリヒを婿に欲しいと言っていたぞ?」

「勘弁してください。私まで皇族に取られては、ナッサウ家が断絶してしまいますよ」


 私たちは他愛のない話をしながら、訓練場の後片付けをしていた。このような平穏な日々が、いつまでも続けばいいのだが……。

 その思いとは裏腹に、国際情勢は緊張感を増している。帝位継承戦もまだ終わりが見えない。

 だが今日ぐらいは、なにも考えず一日を終えよう。良い汗を流し、友と互いを高め合った今日ぐらいは。

 後片付けを終えた私たちは、それぞれ家路についた。心地よい疲労感に包まれながら……。

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