第86話 次期生徒会
私は通学路上で、フリードリヒからの報告を受けた。新道派の吸収合併について。結果は失敗。
正直、意外な結果だった。第二皇女様様は、徹底抗戦するよりも継承戦後の利益を取ると思っていたからだ。
「継承戦、終わらなくなっちゃいましたね……」
「マリア、私の力不足だ。すまない」
フリードリヒは謝っているが、相手はあの第二皇女様だ。きっと、フリードリヒに落ち度はないだろう。
だって彼女が利を取らないということは、確固たる信念のもとの決断だろうから。
それに、継承戦勝利に王手をかけている状況は変わっていない。焦らず進めていこう。
――――――
一日の授業が終わり、生徒会メンバーは生徒会室に集まっていた。
そんな私たちの手には、来年度の入学生の名簿があった。次期生徒会メンバーの選考が始まった。
「会長。来年もあたしらが続けるっちゅうのはあかんの?」
「手伝うくらいなら問題ない。だが、基礎学年から選出するのは絶対だ」
それにはちゃんとした理由がある。私たちが進学する上級学年は、大学のような形態だ。
基礎学年のように時間割が決められているわけでなく、各科の必修科目以外は選択式だ。
各々が自分の将来を考えて講義を選び、必要な知識を蓄えて欲しい。そのためのシステムだ。
なので基礎学年と異なり、登下校の時間が人それぞれで違ってくる。今のように、メンバー全員で集まるというのは難しい。
だから、基礎学年から選出しなければいけない。私たちは、相談役のような立場で手助けするぐらいだろう。
「ん。でも、誰も知らない。選びようがない」
「そうですね。噂程度しか知らない方ばかりです。ですが、呼びつけて面接している時間も惜しいですね」
テレーザやお兄様の言う通り、ほとんど面識のない人ばかり。だけど、入学までは四か月を切っている。
北部や東部貴族なら、十日前後で帝都まで来ることができるだろうけど、西部や南部貴族の場合はもっとかかる。
西部のルスト国国境付近であれば、馬車で一か月近く。早馬ですら二十日以上かかる距離だ。
なので、面接で呼び出す往復だけで、ゆうに一か月から二か月はかかってしまう場合がある。
それでは時間がかかりすぎる。引継ぎのために、次期生徒会メンバーには一か月前までには学校に来ていて欲しいからだ。
「だからといって、近隣の北部貴族だけでまとめるわけにもいくまい」
フリードリヒの言うように、偏りが酷いのは良くない。北部だけ優遇するなど、もってのほかだ。
だったら……ある程度基準を作ればいいのでは?
「入学試験の成績上位者を指名すればいいと思います。根拠が明確なので、不満も出ないと思います」
「そうなると、来年の入学者は……トップは西部の伯爵令嬢か。二位が南部の子爵令息。三位は北部の伯爵令息」
「はい。来年の場合は、地域がばらついてますね。ですが偏ってしまったことを考えて、残りはバランスを考えて選考すべきだと思います」
「生徒会の定員は六人のままのつもりだから、半数を成績上位者から。残り半数で、地域や家の傾向のバランスを取るのだな」
フリードリヒは、今の案に納得したようだ。他のメンバーも一挙に半数の選考が終わったため、ほっとしているようだ。
となると、あと三人。成績上位には文官家が多いため、武官家や商家から選考したいところだ。
「あっ。俺、一人推薦したい奴がいるんだけど」
レオンが声をあげた。レオンが推薦するということは、武門だろう。丁度いいと思う。
「レオンの推薦ですか?私としては、不安ですね……」
「ハインリヒ……俺ってそこまで信用無いのか。でも、ちょうどいい人材なんだよ!」
「ほう?どちら様ですか?相応しくなかったら、即座に否定させていただきます」
「ああ、いいぜ。絶対大丈夫だからな!俺が推薦したいのは……妹だ!」
レオンの妹?ええと、バーデン家だよね。
名簿から、バーデン姓を探す。意外なことに、すぐに見つかった。
というのも、名簿は成績順に並べられている。順番に見ていった私は、すぐにレオンの妹を発見できたのだ。
「アンネマリーさん?成績順で八位だけど……本当にレオンの妹さんなの?」
「マリアちゃん、俺でもさすがに傷付くよ?まあ、妹は文武両道だからね」
「レオン。妹の人柄などを教えてください」
「ハインリヒ!俺の妹はやらないぞ!」
「はぁぁ……そういう意味ではありません。生徒会に相応しい人物かを確かめたいのです」
アンネマリー・フォン・バーデン。バーデン辺境伯家次女。レオンの二歳下の妹。
筆記試験のみの入学試験で文官家が上位を占める中、上位に食い込む才媛。辺境伯家仕込みの武術の腕も、相当とのこと。
性格はレオンに似ず、冷静。上位貴族の驕りも無いらしい。
レオンの口から語られた説明は、こんな感じだった。身内の色眼鏡も含まれていそうだけど、かなりの人材なのは間違いない。
「会長。妹ならおすすめだよ?責任感もあるから、生徒会活動はしっかりやると思う」
「そうだな。私の次の会長でもいいな。辺境伯家というのも素晴らしい」
「ああ。いくら身分差撤廃って言っても、最初の内は従わない奴が多いからね」
「そうだ。だったら、辺境伯家であれば問題ない。来年は皇族も公爵家もいないからな」
懐かしいな……。私たちの入学当初も、イザベルさん中心に反発が強かったっけ。
不本意な選考基準ではあるけど、侯爵同等の辺境伯なら家格的に最良だろうね。本当に不本意だけど……。
「会長!それやったら、あたしからも推薦したいのがおるんよ」
ローズは、南部のライバル商会会長の娘を推薦した。将来的に、商会を継ぐ可能性が高い人らしい。
試験の成績も悪くないため、フリードリヒの許可がおりた。あとは、東部貴族から一人選びたいところだ。
「東部の改革派貴族の子息で、入試成績十位の方がいます。この方でよいと思いますが」
お兄様が推薦した人の成績を確認する。家名的に……ナッサウ領のお隣さん!帝都に向かう時に、一泊させてもらっていた。
お子さんがいたんだ!フーケ子爵様……あの時、会わせてくれてもよかったじゃん。
そんなことを考えているうちに、フリードリヒの了承が得られていたようだった。これで、選考は終わった。
後日、次期生徒会メンバーに(勝手に)選ばれた人たちには、合格通知や入学のしおりと併せて豪華な手紙も送付された。
皇族印が押され、差出人は第一皇子。受け取った人たちの、ぎょっとした顔が簡単に想像できるな……。
本人の意思に関係なく、生徒会になることを了承することになるだろう。だって、皇族からの要請だからね。
さらに後日。次期生徒会メンバー全員からの返信が届いていた。当然、全員が快く引き受けてくれたのだった……。




