第84話 第一皇子VS第二皇女1
私は今、フリーデ姉様との会談の場へ向かっている。姉様のお気に入りの場所、植物園へ。
今回の会談には、マリアは同行しない。私とフリーデ姉様の一対一の話し合いだ。
私の要求は、新道派の我々への合流。見返りは、帝位継承順位二位をフリーデ姉様に割り当てることだ。
両者共に価値のある提案のはずだが……姉様は受けてくれるだろうか?
植物園が近付いてきた。とても久しぶりの植物園だ。いったい何年ぶりだろう……。
最後に訪れたのは、私が政務に携わる前だったはずだから……三歳か四歳の頃だったはずだ。
我ながらよく働いてきたものだ。十三歳にして勤続十年近いなんて、前世では考えられないことだろう。
ただ、あの頃までは皇子や皇女ではなく、ただの兄弟姉妹としてヴィーラ姉様やフリーデ姉様と接することが出来ていたな。
私をこの植物園に連れてきてくれたのは、フリーデ姉様だったのだから……。
もう戻ってはこない日々を想い感傷に浸りつつも、目的のフリーデ姉様を探す。
姉様のお気に入りだった東屋を目指して歩いていくと、案の定そこに彼女はいた。椅子に座り、ただただ草花を眺めている。
普段の計算高さは鳴りを潜め、清らかな美しさが感じられた。……普段からこうなら助かるんだがな。
私の接近に気付いた姉様は、普段の第二皇女顔に戻り、私に声をかけてきた。
「私を呼び出すなんて偉くなったものね、フリードリヒ」
「ええ。おかげさまで優位にことを運ばせてもらえていますので」
私は嫌味を返しながら、挨拶をするでもなく席に着いた。そして、即座に提案をする。
「姉様、新道派には先がありません。我々改革派に合流していただけませんか?継承戦後の地位は約束させていただきます」
「地位?私を皇帝にしてくれるのであれば考えるわ。それ以外はありえないわ」
この状況でも、姉様は諦めていないようだ。正直、姉様らしくない。
ヴィーラ姉様は、国の伝統を守るため。私は、この国を変えていくために皇帝を目指している。
だがフリーデ姉様は、何故ここまで強く皇帝であることを望む?権力欲からか?
違うだろうな。この人は、不羈奔放な性分だ。皇帝なんて息苦しいと言いそうなものだ。
「姉様らしくないですね。貴女を突き動かしているのは……なんなのですか?」
答えるべきか悩む姉様。私には言いたくないことなのだろうか?
しばらく考えていた姉様だったが、観念したように口を開いた。
「お母様、エリーザベト陛下の事はどう思ってる?私は、歴代最高の皇帝だと思っているわ」
「私も同じ考えです」
「公明正大だけど、必要とあれば毒をもってことに当たることができる。なにより、能力も飛びぬけて高い」
「ええ。ですが、それが姉様が皇帝を目指す理由と関係ありますか?」
超えるべき偉大な先代になるという意味では、母上の存在は重要だ。だが、今それが必要な話か?
「大いにあるわ。私たち三人は、お母様からそれぞれ別のことを受け継いでいると思っているの」
「ヴィーラ姉様は……善の心?」
「そうね。フリードリヒ、貴方は能力の部分ね。そして私は、汚い部分を受け継いだのだと思ってるわ」
「そうだとするなら、ヴィーラ姉様や私が皇帝になるべきでは?」
「本当にそう思うの?私の考えは正反対ね。あなた達に任せていると、この国は危険だと思うのよ」
何故?皇帝とは、この国の象徴。この国の最高権力者。
ヴィーラ姉様はその心で、多くの人々を救うだろう。私なら、多くの改革を成せるだろう。
「姉様からヴィーラ姉様や私は、どのように映っているのですか?」
「お姉様は純粋すぎる。継承戦の始まりだって貴方の社交デビューを待ったうえに、私たちの同盟を黙って受け入れた。正々堂々?ふざけているわ!政治や外交の世界に、一番不要な考えよ」
「確かにそうですね。ですが、周囲が裏の部分を補ってあげれば問題ないと思います。なので、国の象徴としては最適なのでは?」
「そうね。だけど、貴方が皇帝になるのは論外よ。どう頑張っても補えない問題があるわ。貴方は男なの。それは、どうあっても覆らない」
前例が無いのは確かだ。だが、私にはマリアがいる。だから、問題ないはずだ。
「世継ぎの問題は、マリアのおかげで解決しています。それ以外なにがいけないのですか?」
「私はそもそも、次代以降のことは問題だと思っていないわ。マリアがいなかったとしても、魔力や血筋の継承は私やお姉様の子がいれば事足りるわ」
そうだ。今回の継承戦が特殊なだけだ。母上の姉妹、私の伯母たちが帝位継承権を放棄している。
そのため、従兄弟姉妹の継承権が認められず、三人での継承戦となっている。かなり珍しいことだ。
次代以降は、通常の継承戦に戻るだろう。だが、皇女以外から継承戦を勝ち抜くことは難しい。やはり、伝統が邪魔をする。
歴史上、皇帝に子がいなかった場合のみ、傍系から皇帝が誕生した。なので私は、魔力の多い配偶者を探していたのだ。
男であるという圧倒的な不利に加え、皇族にふさわしい直系子孫を残せないなど、継承戦に立つ資格が無いから……。
「では、お姉様はなにを心配しているのですか?」
「何度も言うけど、貴方が男であること。それ自体が問題なのよ!国の伝統とか歴史とか、そんなレベルの話ではないの。世界的に男性君主なんていてはいけないのよ」
「私は、そこまでの問題だと思っていません。むしろ、新しい時代の先駆けになりたいと思っています」
「貴方は、マリアが婚約者になる前のことを忘れているの?誰より優秀だった貴方だけど、皇帝への道なんてただの願望でしかなかったはずよ?」
……そうだった。あのマクシミリアンでさえ、私が皇帝になるのは不可能だと思っていた。それほどまでに、男性君主は厳しい道だ。
私は前世の記憶がある分、そういった考えが甘い。だがこの世界は、魔力の多寡によって陞爵も降爵もあり得るのだから、子の魔力を決める女性の存在は大きい。
前世の男尊女卑以上に、王侯貴族の継承に関しては女尊男卑が染みついている。それでも、あくまで継承に関しては、だ。
「私の道が険しかったのは認めます。ですが、私が皇帝になることでこの国を危険に晒す、その理由がわかりません」
「たくさんありすぎるわよ……。まずは、生粋の正統派貴族。今話題のリューネブルク候なんていい例ね。密偵の話では、東部選帝侯戦でアンスバッハ伯に負けるなんて露程も思っていないらしいじゃない」
「ですね。マリアから侯爵の様子を聞きましたが、そのように考えているようですね」
「そんな風に伝統を最上のものだと考えている貴族たちが、黙って貴方の命令を聞くかしら?しかも、生粋の正統派は大貴族ばかりよ?」
いくらヴィーラ姉様が取り成してくれたとしても、しばらくは円滑に国政が行えない可能性がある。それも、国政の中心近くにいる大貴族たちのせいで。
それだけならまだいい。最悪、反乱なんて起こすかもしれない。フリーデ姉様はそう言いたいのだろう。
「私は、そのために実績を積み重ねてきました。政治的発言力はかなりのものだと自負しています。命令を聞かせてみせますよ」
「ふぅん。じゃあ……国外は?」
国外?私が皇帝になることと、対外関係になにか関係があるのか……?




