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閑話 元帥を目指す男

 俺は、バーデン辺境伯家の次男として生まれた。上には、兄貴と姉ちゃん。下には、妹がいる。

 バーデン家は北の辺境伯と呼ばれてて、シバ連合王国との国境を任されてる。だから毎日、ピリピリした空気なんだよね。

 

 俺がまだ小さかった頃、両親がずっと家にいないことがあった。いつもなら、数日で帰ってくるのに……。

 不思議に思った俺は、兄貴や姉ちゃんに聞いた。でも、幼い俺にはなにも教えてくれなかった。

 次第に、兄貴や姉ちゃんも家からいなくなった。家には俺と妹、あとは使用人しかいない日々が続いた。


 そんな状態で半年が過ぎた頃、兄貴や姉ちゃんが帰ってきた。久々に見た二人の顔は、なんだか恐かった……。

 外見が変わったわけではない。でも……恐怖を感じてしまった。殺される、なんて思った。

 だけど、その時の俺は寂しかった。だから、恐怖よりも甘えが勝ったんだと思う。


「兄貴、姉ちゃん!どこ行ってたの?俺たち……寂しかったんだよ?」


 兄貴たちに飛びつき、ぎゅっとしがみついた。もう、出て行っちゃわないように……。

 俺や妹を抱きとめた二人は、憑いていたものが落ちたように穏やかな雰囲気に戻っていた。

 恐かった顔も、もとの兄貴と姉ちゃんに戻っていた。よかった……。これで本当に、二人が帰ってきたんだと思えた。


 その後しばらくして、両親も帰ってきた。父ちゃんは、顔に大きな傷痕が。母ちゃんは……左腕が無くなっていた……。

 ボロボロな体の二人だったけど、俺と妹を見つけた瞬間、走って俺たちを抱き上げた。

 俺を抱き上げた父ちゃん。俺の顔と父ちゃんの顔が近付く。俺は、痛々しい顔の傷痕に触れた。


「これ……痛くないの?大丈夫なの?」


 優しくさすりながら、父ちゃんに聞いた。父ちゃんがニカッと笑った。


「痛くないぜ!これは、みんなを護った勲章だからな!」


 意味がわからなかった。でも、痛くないし嬉しそうだったから……それでいっか!

 ちらっと横を見た俺は、片手で器用に妹を抱き上げた母ちゃんの姿が目に入った。

 満面の笑みだった。きっと、母ちゃんに左腕のことを聞いても、父ちゃんと同じ答えが返ってくるんだろうな……。


――――――

 

 数年後、貴族としての教育が始まった。そして、知った……。

 両親や兄貴たちが家にいなかった意味を。両親が傷だらけで帰ってきた意味を……。

 北方紛争が起こっていたんだ。シバ国と一年近く戦っていたんだ。

 結果だけで言えば、帝国の勝利。でも、多くの犠牲者が出てるし、シバ国自体は滅んでいない。

 何度も起こっている北方紛争は、攻め込んでくるシバ国を撃退するだけの戦い。こっちからシバ国に攻め込むことは無い。

 なんで?こっちも攻め込んで、滅ぼしちゃえば……北方紛争は二度と起こらないんじゃ?

 俺は、疑問を先生にぶつけた。返ってきた答えは、とてもドライなものだった。

 シバ国の土地なんて、奪っても旨味が全くないから。北の凍えた地なんて、統治するだけ費用が掛かると……。

 きっと、これが貴族の考え方なんだろう。損得で考え、行動する。政治なんて……考えたくないな……。


――――――

 

 俺は成体を迎え、魔力は侯爵級でも上位。辺境伯家として、上々の魔力量だった。

 また、貴族教育はあらかた終わってて、勉強からも解放されつつあった。戦術以外の成績は……散々だったけど。

 魔法の訓練と並行して、国境警備の仕事にも携わるようになっていた。兄貴たちとも、一緒に働くことができるようになった。

 とはいっても、兄貴は領軍の副団長。近い将来、団長になるはずだ。姉ちゃんは、次期当主としての勉強や経験を積んでいる。

 追いついて、兄弟で並んで歩けると思っていたけど、二人は随分先に進んでしまっていた。

 俺は……どうしたいんだろう?家族や領民を護るために、領軍で戦い続ける?

 それだけではきっと、同じように北方紛争は起こり続ける。駄目だ。俺の頭ではいい案が思いつかない!

 出来ることは、腕を磨いてシバ国と戦い続けることだけだった……。


――――――

 

 俺が成人した頃には、武術の才や兵の運用の巧さが帝国内で知られる程になっていた。

 そして成人祝賀会で俺は、将来の目標を定めるきっかけと出会った。何気ない会話の中で……。

 辺境伯家の祝賀会は、帝都ではなく領地で行われる。領地を空けるのは不味いから。

 だから、出席者も北部貴族が中心。北部はシバ国と隣接してるから、武門の家が多い。

 そうなると当然、貴族同士の会話も軍に関することが多くなる。俺的に、とてもありがたいことだ。


「レオンハルト殿、貴方の事は帝都でも有名ですぞ!国軍に入れば、元帥を目指せる器だと!」


 隣領の家のおっさん。国軍では、そこそこの地位にいるらしい人からの言葉だった。

 国軍または直轄軍とは、皇族直下の軍隊。帝国の軍事を取り仕切る組織。元帥は、そのトップの役職。

 元帥であれば、皇帝陛下に献策をする機会も多いだろう。だったら……北方紛争を止めることができるかも?

 家族も、領地も、領民も……ついでにこの国も護れるよな?これは名案では?


――――――


 一年が過ぎていた。だけど、国軍への入団は叶っていなかった。

 辺境伯家は、中央とのつながりが薄い。それに、領地から離れるのを良しとしない風潮がある。

 なんとか中央とのつながりが作れないものか……。そんな俺のもとに、皇帝陛下からの呼び出しがかかった。

 これ以上ないほどのチャンスだった。陛下からの呼び出しであれば、堂々と帝都に向かえる!

 あまりいい顔をしなかった家族を説得して、俺は急いで帝都に向かった。


 ガッチガチに緊張した陛下との謁見の途中、第一皇子殿下から意外な提案を受けた。


「レオンハルト、私と共に魔法学校を作っていかないか?お前が進むべき道を探す手助けになると思うぞ?」


 俺は即決した。中央との強固なつながりを築けるし、優秀と噂の殿下と共に働くのは……楽しそうだ。


 謁見が終わり、事情を実家に連絡した。魔法学校で生徒会に所属するので、しばらく帰ることが出来ません、と……。

 その時は、甘い考えを抱いていた。暇な時間を使って、国軍の幹部にアプローチでもしようかななんて。

 でも……現実は甘くなかった!なんだよ、この仕事量!暇?そんなのあるわけないじゃん!

 開校の準備、魔法の新理論の習得、腕を鈍らせないための自己鍛錬……。あっという間に、開校を迎えていた。

 でも、充実した時間だった。生徒会の仲間たちと共に頑張り、魔法学校という新しい事を作り上げたのだから。


 俺は今、悩んでいる。魔法学校の基礎学年も折り返してしばらくたった頃、実家からその連絡を受けた。

 シバ国の動きが怪しい、と……。今の俺は、家族だけじゃなく、みんなを護りたいと思っている。

 それなら俺は……動かないといけないな……。

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