第83話 将来の話
東部選帝侯戦が告示された。簡単に言ってしまえば、選帝侯を決める選挙のようなものだ。
投票権を持っているのは、東部貴族の現当主のみ。なので、私は投票できない。
とはいえ、改革派の後ろ盾とアンスバッハ辺境伯家の名声がある。負けることはありえないけど。
また、この秋の社交シーズンもそろそろ後半に差し掛かる。前半と違い、重要な家からの招待は無かったけど。
なので、中立派の取り込みと同時に、第二皇女様との交渉を始めることとなった。新道派を吸収するために。
状況把握や策謀が得意な第二皇女様なら、新道派に未来が無いことは承知しているはずだ。
だったら、第二皇女様が継承戦後の立場を強化するために、早めに敗北を宣言し、勝ち馬に乗った方がいいはずだ。
そして、アリーセお姉様の臨時教師期間が終了した。あっという間だったな……。
「マリア、ハインリヒ、ついでに腹黒。また、いい情報仕入れてくるからな!」
学校の正門前。お姉様の見送りのために、生徒会メンバーを中心に人が集まっていた。
「ローズ、それに商業科の奴ら。あたしなんかよりいい商人になれよ!」
その言葉に、何人かの生徒が涙を流している。師匠行かないでください、なんて言いながら……。
たったの一か月で、生徒の心をつかむなんて。さすがはお姉様。
「じゃあな」
お姉様が、後ろ姿でぶんぶんと手を振りながら遠ざかっていく。私たちも、手を振って送り出す。
とてもお姉様らしい、最低限の言葉と大きな動きでの別れ。さっぱりしてるな。
お姉様の姿が見えなくなった後、私はローズに話しかけた。
「お姉様の授業はどうだった?」
「ホンマ、いい経験になったわ!アリーセは……凄い奴だよ。あいつよりええ商人になれやなんて、えらい難しい宿題残しやがって!」
「難しいって言いながら、ローズ、凄く楽しそうじゃん」
口では文句を言いつつも、内心では絶対に越えてやるって思ってるんだろうな。
ローズの目には、お姉様が去っていった道が映っていた。先を行く背中を忘れないように、ただ前を見つめている様に思えた。
――――――
しばらく平穏な日が続いたある日の事。生徒会活動中にそれは起こった。
「みんなに話しておきたいことがあるんだ。俺、上級学年には進学しない」
レオンが放った衝撃的な言葉。私は、生徒会メンバー全員が進学するものだと思い込んでいたから……。
ローズやテレーザも、驚いているようだった。だけどフリードリヒとお兄様は、特に驚いた様子もないようだった。
そして、お兄様がレオンの意思を確認するために口を開く。
「進学よりも大事なことが出来たんですね?それは……シバ国関係ですか?」
「そうだよ。やっぱ、ハインリヒも知ってたか。俺、国軍に入ることにしたよ」
シバ国関係ということは、好戦的な上級王の即位が近いってやつかな……?
レオンは北の辺境伯家出身。きっと、家からの連絡があったんだろう。シバ国に動きがあるって。
「私から、国軍への推薦状を書いておいた。レオンからは、少し前に相談を受けたからな」
「持つべきものは皇族の友達だよな!あっさり入団が許可されたよ。しかも、幹部候補待遇で!」
おめでとうと言うべきなのだろうけど、素直に祝ってあげられない。だって……軍だもの。
それも、戦いが始まる可能性が高いタイミングで。レオンの強さは知っているけど……心配に決まってる!
「レオン。大丈夫なの?国軍だと……対シバ戦で、最前線に配置されるんだよ?」
「マリアちゃんも知ってるんだ。情報管理ゆるゆるじゃん!でもまあ、俺の場合はどっちにしろね?」
「あっ……バーデン家として戦っても、最前線だね……。ごめん」
「いいよいいよ、俺が望んでることだし。実家には両親も兄貴たちもいる。だったら俺は、別のところでシバ国の連中をぶっとばすことにしたんだ」
「昔言っていた、家族や領民が傷付かないためってこと?」
「よく覚えてたね!そうだよ。国軍で偉くなって、シバ国が攻めてこないように出来ないかなって思ってね」
レオンは、そんな先の事まで考えていたんだ。それに比べて私は?
将来、フリードリヒの妻になる。フリードリヒの夢を叶える。すべてにフリードリヒのって言葉がついている。
あくまで私は、フリードリヒが動くから一緒に動いているだけ。私自身は、動き始めていないじゃないか……。
領地を出て、いろいろな経験を積んだ。いろいろな事を学んだ。でも、考え方は引きこもりだった時のままだ。
私も……先の事をしっかり考えよう。私に出来ることを。私にしか出来ないことを。
「そういうわけだ。今年度いっぱいは生徒会役員としてしっかり働いてもらうぞ、レオン」
「会長、厳しいよ。入団準備とかいろいろあるんですけど……」
「生徒会も、来年度の生徒会メンバーの選定と引継ぎがある。最後まで責任を果たせない奴の推薦状は……取り消しだな」
「そ、それはずるいって!やります、やりますから!」
最初は緊迫した雰囲気だったけど、最終的にはいつもの雰囲気に戻っていた。
みんな、レオンの選択を尊重するようだ。当然、私も。
ただ、軍に入るということは、今までのように会えなくなるということだ。折角仲良くなれたのにな……。
それに、次期生徒会の選定か。そろそろ入学試験が終わり、入学者名簿が出来ているはずだ。
来年の生徒会も大変だとは思うけど、私たちの経験をしっかり引き継いで、学校をもっと良くしていってほしいと思う。
――――――
「アマラ、私ってなにが出来ると思う?」
自室に帰った私は、さっそく将来の事を考え始めた。とはいっても、なかなか思いつかないから侍女に助けを求めた。
「お嬢様は、なんでも出来ると思いますよ?」
「そういう答えは無しで!じゃあ、私って何が得意なんだろ?」
「そんなの簡単ですよぉ!人を魅了することです!」
「アマラ……。ふざけないで頂戴!私は、真面目に考えてるの」
「ふざけてないんですけど……。他は……魔法とか?新魔法のほとんどが、お嬢様の発案でしたよね?」
「ああ、そうね。前世では、研究職志望だったからね。ということは、研究棟の研究員なんて良さそうね!」
魔法の研究をしたり、前世の知識を蘇らせたり……。当然、フリードリヒや聖女様と相談しながら、技術開発はしないといけないけどね。
これなら、フリードリヒのためにもなって、私の得意な事を生かせるかも?問題は……イメージかな。
第一皇子の妻が研究者……。ちょっと、奇抜すぎるかも?フリードリヒとは、要相談だね。
まあ、上級学年卒業まで時間はあることだし、いろいろ考えていこう……。




