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第82話 辺境伯の願い

「マリアか?入ってくれ」


 部屋の中から、フリードリヒの声が聞こえた。よかった。マクシミリアン様はいないようだ。

 私は入室し、フリードリヒが座っているソファーへ向かい、対面するように座った。


「辺境伯は、どのように動いた?予定通り、選帝侯に名乗りを上げたか?」


 私はフリードリヒの言葉に対して頷き、夜会での出来事と明日の話し合いの事を伝えた。


「わかった。予定を空けておく。私が直接やり取りできるのは、嬉しい誤算だったな」


 フリードリヒは、今後の事を考えているようだ。私はそんな彼の顔を見つめながら、お兄様の件をどう切り出そうか悩んでいた。

 その視線を感じたのか、フリードリヒが声をかけてくる。


「マリア?他にもなにかあるのか?」

「ええとですね……何と言いますか……」


 困った!どう伝えるべきか、まったく良い案が浮かんでこない……。もう、洗いざらい話すしかないだろう……。

 私は、馬車の中でお兄様から告白されたことを伝えた。その上で、フリードリヒに問いかけた。


「お兄様の事は……どうすればいいでしょうか?」

「ん?どうするもなにも、あいつが普段通りを望んでいるのだろう?だったら、普段通り接してやればいいだけだ」

「では、フリードリヒはお兄様を罰したりする気はないのですか?」

「無いな。別に、あいつが君の事を好きだとしても、婚約者は私だ。君に襲い掛かったりするとは思えないし、あいつが私たちの邪魔をするわけが無いからな」

「お兄様を……信頼しているのですね。ありがとうございます」


 よかった……。大好きな二人がいがみ合う姿なんて見たくなかったからね。


「だが!必要以上にべたべたくっつくようなら……罰を考える。マリア、君に触れていいのは私だけだ」


 ん?嫉妬心は全開なんだ……。でも、とりあえずは大丈夫だろう。お兄様は分別のある人だから。

 その後、明日の事を軽く打ち合わせして、私は自室に帰った。お兄様のことは、侍女には絶対に話さないほうがいいだろう……。


――――――

 

 翌日、私はフリードリヒの執務室で、辺境伯様の到着を待っていた。

 フリードリヒは机で書類の山と格闘しており、山が切り崩されてはマクシミリアン様が追加の山を運んできている……。

 帳票類の整理であれば私でも出来そうなため、フリードリヒに仕事を回してもらい、時間をつぶした。


 ある程度書類の山が片付いた頃、辺境伯様がやってきた。

 フリードリヒは仕事を中断し、私と共にソファーへ座る。辺境伯様も、向き合うように腰を下ろす。


「お忙しい中、時間を作っていただきありがとうございます。カミラ・フォン・アンスバッハです」

「フリードリヒ・イストリアス・カージフだ。辺境伯の手腕は聞き及んでいる。私も会えてうれしく思う」


 私は軽く頭だけ下げておく。フリードリヒがいる以上、今日の私はほとんど出番がないはずだ。


「余計な話は時間の無駄だと思いますので、単刀直入に言わせていただきます。アンスバッハ家を改革派の一員に迎えて頂きたい」

「私たち改革派としては、願ってもない申し出だ。だが、理由を聞いてもいいか?」


 可能性は低いけど、辺境伯様がよからぬことを考えている可能性がある。そのため、理由はしっかり聞いておかなければならない。

 正統派と結びついている可能性はほぼないけど、新道派が関与している可能性は捨てきれないからだ。


「とても単純ですが、私もこの国を変えていきたいと思ったからです」

「では何故、今まで中立を保ってきたのだ?最初から私たちに合流することも出来ただろう?」

「機を見ていたのと、改革派の力を見極めていました。申し訳ありません」


 改革派の見極めはわかる。力が伴わない理想には意味がない。志が同じでも、それを実現できるかを見定めていたのだろう。

 では……機を見ていたとは?


「私たちの勢力が、辺境伯のお眼鏡にかなったのはありがたいな。だが……なんの機を見ていたのだ?」

「全体の流れです。私は武門の人間。戦が本業です。そして、戦というのはお互いがぶつかり合い、流れをつかんだ方が勝ちます。なので、私は継承戦の流れを見て、今動きました」

「辺境伯は、今が頃合いだと踏んだのか?なぜ?」

「殿下が教会を味方につけたからです。選帝侯の数で言えば、改革派が一気にトップに立ちました。そこに、東部選帝侯へ名乗りを上げた私が加われば、改革派の流れは盤石になります」


 現在の選帝侯は、正統派が東西北を押さえていて三席。新道派が南のみで一席。私たちは教会勢力の四席。宰相、元帥、公爵家が中立を維持している。

 中立の三席は、強固な地盤をそれぞれが持っているため、最後まで中立を保つだろう。なので、私たちが東部選帝侯を押さえれば……ほぼ勝ちが決まるということかな?


「では、辺境伯が一番高く売り込めるタイミングで、私たちに接近した意図を聞こうか」

「話が早くて助かります。これはお願いなのですが、マグノリア国との強固な同盟を結んでいただきたいと思っています」


 東の隣国との同盟?辺境伯様の辺境伯である意味が薄れてしまわないだろうか?

 ルスト国との同盟が結ばれたことにより、西の辺境伯家には領兵の削減の指示が出たところだ。


「現状の通商協定では駄目なのか?もし、同盟が成れば、辺境伯家の軍事特権がはく奪されるかもしれないのだぞ?」

「それが目的なのです。私は幼いころより、辺境伯家の子として厳しく鍛えられてきました。東の国境を守護するために、と……。ですが、マグノリア国とは数百年もの間、良き隣人としてこの国と共に歩んできました。国境はあっても、敵はいない。私の武は何のためにあるのでしょうか?」

「そうだな。不要な武力だろうな。だが今更、辺境伯家の処遇が変わったところで、辺境伯の幼少期が戻ってくるわけではないだろう」

「はい。ですが、私には幼い二人の娘がいます。あの子たちには、私と同じ道を歩ませたくないのです。他の貴族のように、将来を選ばせてあげたいのです」


 フリードリヒは考え込んでいた。外交や国防に関する話のため、簡単に約束はできないのだろう。

 でも私としては、聞き入れてあげたいと思う。辺境伯様のお子さんのためになり、味方の国も増える。いいことしかないじゃん?

 まあ、ルストと違って、マグノリアはシバという共通の敵がいない。同盟を打診しても、受けてもらえるかはわからないのだけどね。


「わかった。出来る限りの協力をすると誓う。だが、マグノリアと関係が深い辺境伯にも、しっかり働いてもらうぞ?」

「承りました。でしたらまずは、東部選帝侯を手中に収め、殿下の立太子を後押しさせていただきます」


 その後、東部選帝侯戦の話や改革派の現状を共有し、辺境伯様との話し合いは終わった。

 これで、フリードリヒの継承戦の勝利がさらに近付いたはず……。

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