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第81話 東部選帝侯

 辺境伯様への挨拶を終え、私たちは他の参加者の方々にも挨拶に回っていた。

 リューネブルク侯爵様は、いまだに怒気を抑えきれぬようだったので、手短に挨拶を済ませた。

 モンベリアル伯爵様とは、アリーセお姉様についての話で盛り上がった。ちなみに、お姉様は出席していない。

 子爵家や女爵家からは、こちらから出向かずとも挨拶をしにくる方々が集まってきた。

 印象的だったのは、アマラの実家であるドーナ女爵様。露骨な媚売りが……面倒だった。

 なぜ、あの母からアマラが産まれたのか?性格も出来も違いすぎる気がする……。

 私たちが一通り挨拶を終えた頃、辺境伯様も挨拶を終えたようだった。いよいよだろう。


「本日、夜会に参加している皆様に、アンスバッハ家当主の私から発表がある」


 良く通る辺境伯様の声が、会場中に響いた。歓談していた方々も中断し、その声に耳を傾け始めた。


「我がアンスバッハ家は……東部選帝侯に名乗りを上げる!東部貴族たちよ、新しい時代を共に築いていこう!」


 会場中が大きく沸いた。すでに、辺境伯家支持を叫んでいる方すらいる。

 逆に多くの東部貴族は、リューネブルク侯爵家に良い印象を持っていないようだ。侯爵家支持を表明する方はいない。

 熱気渦巻く会場内で、侯爵様周辺だけは冷え切っていた。取り巻きの方々は一言も発さず、侯爵様も会場が落ち着くのを待っているようだ。

 正直、意外だった。侯爵様なら、すぐにでも怒り狂って怒鳴り散らすと思っていたから。


 会場内が落ち着きを取り戻し始めた頃、侯爵様が動いた。辺境伯様のもとに向かって猛進していった。

 そして、辺境伯様と侯爵様が向かい合い、しばしの間、にらみ合いが続いていた。会場中が息をのんで見守る。

 最初に動いたのは侯爵様だった。


「貴女に選帝侯の重責を果たせるかしら?私のリューネブルク家のように、優れた血と伝統の名家こそふさわしいのではなくて?」

「それでは逆にお聞きするが、貴女は東部の民のために何を成した?」

「私という高貴な存在がいることで、東部貴族の光となってきたの。東部貴族の象徴として君臨していますわ!」

「私が聞いているのは、貴族の話ではない!それに光?象徴?それによってなにがもたらされるのだ?」

「私というまばゆい光に導かれ、多くの貴族が私のもとに集っているわ。それに、私の領地には多くの旅人や商人が行き交っていますの」

「貴女のもとに集まる貴族など、選帝侯の肩書に群がっているだけだ。貴女の領地に多くの人が行き交っているのは、モンベリアル領やナッサウ領、そして我が領に向かう人々が素通りしているに過ぎない!」


 辺境伯様の指摘は、すべて正しい。侯爵様の主張は……頭の中がお花畑なのかな?

 リューネブルク領には、他の四名家領のような魅力は無い。選帝侯の肩書が無くなれば、ただ広いだけの徐々に衰退していく土地が残るだけだろう。

 沈みゆくリューネブルク侯爵家と、健全な領政で発展していっているアンスバッハ辺境伯家。東部貴族の中心になるべき貴族はどっちでしょうね?


「ああ言えばこう言う……。まあ、よろしくてよ。私には、エルヴィーラ殿下率いる正統派の助けがあるわ!貴女のように孤立した貴族が何を出来るのかしらね?」

「貴女こそ現実が見えていないのか?東部において、正統派勢力は少数派。第一皇女殿下の助けなど、期待するだけ無駄だぞ?」


 侯爵様は、本当にお馬鹿さんなんだね……。国全体のパワーバランスで言えば、正統派と私たち改革派がほぼ横並び。でも、東部は私たちの圧勝だ。

 正統派勢力は、北部及び西部が中心だ。東部選帝侯争いに、北部も西部も関与できるはずがないでしょう……。


「それでもよ!社交すらまともにしてこなかった貴女に、東部をまとめる程の影響力がありまして?まあ、自ずと結果がついてくるわね。では、私は帰らせていただきますわ」


 そう言って、侯爵様は悠然と会場から退出した。その様子を見て、お兄様が呟いた。


「何故、あれだけの余裕を感じている?この盤面を覆せるほどの策でもあるのか?」


 真面目なお兄様が考え込んでいる。それを見たお母様が、ため息をつきながら指摘する。完全に呆れているようだ。


「ハインリヒ、深く考えるだけ無駄よ。あのお馬鹿さんは、昔からああだったから……。きっと、自分が勝つことを疑ってないのでしょうね」

「確かに、賊に襲撃を依頼したり、社交デビュー前の私たちをパーティーに誘ったり……。後先を全く考えていない節がありますね」


 いまだにお兄様は、帝都へ向かう時の出来事を根に持っているようだ。私の事が絡むと……執念深いな。


「そういうことよ。他の四名家が選帝侯を狙わなかったから、お馬鹿さんが選帝侯でいられただけなのにね」


 お母様の言葉に、三人で苦笑いをする。

 さて、あとは辺境伯様との話し合いを残すのみだけど、夜会の終了時間が迫っていた。侯爵様が騒ぎすぎたせいだろう。

 多くの人に囲まれて賞賛を浴びていた辺境伯様も終わりが近いことを察して、全体に向けて声をあげた。


「本日は、当家の夜会を楽しんでもらえただろうか?この夜会も終わりを迎える時がやってきたようだ。名残惜しいが、夜会をここに閉会する」


 閉会を宣言した辺境伯様が、私たちに向かって歩いてきた。


「マリア様、ハインリヒ様。申し訳ない!ゲオルギーネ様とのやり取りで、時間を使いすぎてしまったようです……」


 頭を下げる辺境伯様。家格が下の私たちに、躊躇無く頭を下げることができるのは凄いことだと思う。


「辺境伯様、頭をお上げください。この後にでも時間を作りましょうか?」

「マリア様、貴女は先日誘拐されたと聞きました。これ以上帰りを遅くするのは、避けるべきでしょう」

「そうですね……。では、後日ということでよろしいですか?」

「はい。急で申し訳ないのですが、明日であれば、選帝侯への意思を皇帝陛下に伝えるために登城します。その時にお時間を頂けませんか?」


 明日は学校も休日。私は問題ないけど、お兄様は?


「お兄様。明日皇城に来られますか?」

「行くことはできるが……。私が出向かずとも、フリードリヒ様とマリアだけで十分だろう。私は、あなた達の決定に従うだけなのだから」

「とのことです。私がフリードリヒに伝えておきますので、陛下との謁見後にフリードリヒの執務室まで来ていただけますか?」

「わかりました。明日はよろしくお願いします」


 再度、頭を下げてきた辺境伯様に、私もお辞儀で返した。そして、私たちは会場を後にし、馬車で皇城を目指した。


 到着した馬車から降り、お母様とお兄様に別れを告げた私は、フリードリヒの部屋を目指して歩いている。

 夜会での出来事の報告と、明日の辺境伯様との話し合いの事を伝えるために。あとは、お兄様のことをどう思っているかも聞かなければいけないな……。

 正直、気が重い……。でも、フリードリヒとお兄様の関係を考えるなら、有耶無耶のままではいけないことだ。

 でも、なんて切り出そう?お兄様が私に恋してるようなの、とか?これ……私が痛い子だよ……。

 重い足取りだったけど、フリードリヒの部屋についてしまった。私は意を決して、ドアをノックするのだった……。

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