第75話 もたらされた情報
生徒会の活動を終えた私とお兄様とアマラは、モンベリアル家の別邸に到着した。
リラスパッツの屋敷に比べると小ぶりだけど、洗練された美しさは別邸でも変わりなかった。
使用人に迎えられ、お姉様の使っている部屋に案内される。
「よく来たな。お待ちかねの情報タイムだぜ!」
部屋に入るなり、お姉様が張り切った様子で声をかけてくる。情報タイム?色々情報を提供してくれるのだろう。
だけどその前に、私は話したいことがあった。お姉様には、直接私の口から伝えたいことが。
「お姉様、先に伝えたいことがあります!知っているとは思いますが……私、フリードリヒと婚約しました!」
「そうだね。当然知ってたけど、マリアの口から聞くと……なんか感慨深いねぇ。妹のようなマリアが婚約か……おめでとう!」
「ありがとうございます!私からは以上です。それでは、情報タイムとは……一体?」
お姉様に祝福されて嬉しい。前世で姉妹はいなかった。今世もお兄様のみ。
だから、本当の姉ではないけど、お姉様から祝ってもらえるのは……本当に嬉しかった。
「そうだな。領都で別れてから今まで、あたしは行商でいろんな所へ行ってた。だから、集まった情報を全員に共有したい」
「アリーセ嬢、私の欲しい情報は二つ。一つ目は、アンスバッハ辺境伯家。二つ目は、シバ国。なにか情報はありませんか?」
辺境伯家の情報は、今度行われる夜会のためにだろう。領地から出ることが少ない辺境伯様。
それなのに、帝都に滞在し、夜会まで開く。真意を事前に把握できれば、立ち回りやすいだろう。
シバ連合王国の情報は……お兄様の報復対象だからだろう……。そっちはまあ、どうでもいいや……。
「あたしを誰だと思ってる?当然、どっちもいいネタ仕入れてるよ!シバに関しては、良い話じゃねぇけどな」
「それでは、辺境伯家の情報からお願いできますか?」
「じゃあ、情報一つにつき、一お姉ちゃんな?」
「そうくると思っていましたよ。お姉ちゃん」
前回と違い、すんなりとお姉ちゃんと呼ぶお兄様。これ、絶対練習してたな……。
お兄様が平然と呼ぶことに若干つまらなそうにしながらも、お姉様が情報を話し始める。
「チッ。とりあえず、辺境伯の目的を掴んだ。というより、本人から協力を頼まれた」
「ということは……辺境伯は動くのですか?」
「ああ。選帝侯に名乗りを上げるようだ。そのための帝都訪問だ。夜会は地盤固めだろうな」
辺境伯様が動く……。それならば、継承戦の盤面も動く。東部は、私たち改革派勢力が強い。
リューネブルク侯爵家は正統派だけど、私たちナッサウ家やお姉様のモンベリアル家が改革派。ということは?
「辺境伯様は、改革派に入ってくれるでしょうか?」
「あたしに協力を求めるくらいだ。改革派に入るつもりだと思うぞ」
「そうですね。この話、フリードリヒに伝えても大丈夫ですか?」
「旦那様のために動くマリア。健気だねぇ。当然、大丈夫だ」
「それでは、お姉ちゃん。シバ国の話をお願いしても?」
お兄様……もうずっとお姉ちゃん呼びでいいのでは?馴染んでるよ?
つまらなそうだったお姉様も、自然なお姉ちゃん呼びに満足し始めていた。
「シバの話は、結構やっかいだ。ルストとの同盟も、この事態を想定しての動きのはずだ。それでも聞くか?」
「ええ。私もマリアも、シバ国とは因縁がありますから。どのような情報でも欲しいです」
お兄様はそうかもしれないけど、私はそこまで……。でも、同盟とも関係がある話なら興味があるかも。
イザベルさんの政略結婚に関わる話なのだから。完全に他人事ではない。
「近々、シバのトップが変わる。今までは比較的穏健派が上級王だったが、次の奴は……かなりの強硬派だ」
シバ連合王国の権力体制。シバ国は、複数の国の連合国家。そのため、それぞれに王がいる。
その王たちの中から、上級王が選出され、連合王国の最高権力を握ることになる。
「お嬢様。もしかすると、この間の誘拐も次期上級王の仕業では?」
「ありえそうね。あまりにも強引な手口だったから……」
「腹黒。たぶん正解だ。シバの内部でも似たような事件が起きてる。穏健派がどんどん消されてるんだよ」
「腹黒言うな!怪力、それは本当ですか?」
「怪力は否定しないけど、名前で呼べや!本当だ。その情報は、近隣国の上層部も掴んでる。だから、防衛同盟だ」
強硬派のシバのトップ……。南下を目指すのは間違いない。下手すると、ルスト王国にすら攻め込みかねない。
だから、同盟か。しかも、秘密裏に進めないとシバの妨害が入るから、徹底的に隠していたのか……。
正直、帝位継承戦なんてやってる場合じゃないんじゃ?上級王が変わった瞬間、戦争を起こしそうだし……。
「お姉様。近々というのは、どれくらいでしょうか?」
「正確な時間はわからねぇ。穏健派もギリギリのところで粘ってるらしい。だけど、国民も強硬派支持が多いそうだ」
「そうなのですか……。なんで、戦争をしそうな人を支持するんですか?民まで、なぜ平和を乱そうとするんですか?」
なんとなく、私にもわかっている。シバが何故戦争をするのかは……。でも、納得はしたくない。
「私もマリアと同意見です。しかし、シバ国は強いリーダーを求めている。凍死しない住処を求めている。そういうことでしょう」
「お兄様……。シバにはシバの正義があるってことですか?」
「そう。シバ国にも譲れない事情がある。当然、私たち帝国にも。だから、北方紛争が起こる」
「リヒ坊もマリアも、難しく考えすぎだ。攻めてくる奴は、なにがあっても攻めてくる。それだけだ」
「そうですね。アリーセ嬢、情報ありがとうございました」
北方紛争を回避するために、陛下もフリードリヒも頑張っている。もう後は、シバ次第なのだろう……。
「他にも情報があるけど、いいのか?」
「あまり遅くなると……フリードリヒが心配するので」
「そうだった。誘拐事件もあったからねぇ。また、なにか知りたくなったら聞きに来いよ」
手を振るお姉様に一礼して、別邸を出る。フリードリヒの手配してくれた馬車と護衛が待っていた。
私とアマラは、言いつけ通り馬車に乗り、皇城に帰った。
「魔法学校も同盟も無駄だったのかな……?」
「無駄ではないと思いますよぉ。お嬢様は、信じた道を進めばいいのです」
そうだよね。なにもやってなかったら、今頃北方紛争が起こってたのかもしれないし。
どうなるかなんてわからない。だから、出来ることをコツコツとやっていくしかないんだ……。




