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第73話 公爵令嬢の決断

 フリードリヒの後ろにいる私たちを見つけた第一皇女様が、手招きする。

 その誘いに応じ、私たちはフリードリヒの周辺に集まり、それぞれ挨拶を済ませた。


「フリードリヒ、教会を味方に付けるとは、驚いたぞ!お前の才覚には、驚かされてばかりだ」

「ヴィーラ姉様、その功績のほとんどは、マリアのものですよ。聖女様を説き伏せたのですから」

「そうだったか。持つべきものは、良い伴侶か?私もいい加減、いい男を見つけないといけないな」

「そうですね。ですが、いい男すぎるのは勘弁してください。私たち改革派が、困ってしまいます」

「私の結婚程度で、追い込まれるようなお前ではあるまい」


 その後も、対立している候補者同士とは思えない程、和やかな雰囲気で会話は進んだ。

 フリードリヒも第一皇女様も、お互いを認めているからこそだろう。純粋に良い姉弟だと思った。

 そんな私たちのもとに、第二皇女様が近付いてきた。


「お姉様もフリードリヒも、私をのけ者にしてお話ですか?」

「フリーデ、その物言いは品位に欠けるな。それに、まずは挨拶をするべきだろう」


 そう言われた第二皇女様が挨拶をし、私たちも挨拶を返す。


「これでよろしくて?それにしても、対立陣営同志、仲がよろしいようですわね」

「フリーデ姉様、継承戦を戦っているとはいえ、私たちは姉弟なのですよ?」

「そうだ。それに、継承戦が終われば、共に国を支えると誓っただろう?いがみ合ってばかりではいけないだろう」

「本当、余裕のある人たちが羨ましいですわ。私たちなど、眼中にないのでしょうね」


 第二皇女様、今日は妙に毒を吐くな……。それだけ追い詰められているのかな?

 その後も、嫌味を言い続け、満足したのか去っていった。なんて迷惑な……。


「なんというか、白けてしまったな……」

「そうですね。フリーデ姉様も大変なのでしょう。私たちも、そろそろお暇させていただきます」

「ああ。お互い悔いが残らぬよう、戦い抜こう」


 軽く頭を下げ、第一皇女様のもとを去る。その頃には、公爵一家を囲む人だかりも、落ち着いてきていた。


「そろそろ良さそうだな。マリア、公爵に挨拶しに行くぞ」


 フリードリヒはそう言って、公爵様のもとへ進んでいった。

 第一皇女様の時と同様、フリードリヒの接近に気付いた貴族たちが、見事なまでに道をあける。

 

「コンスタンツェ、久々にお目にかかる。イザベル嬢の婚約、おめでとう」


 フリードリヒに続いて、私たちも挨拶をする。私とお兄様は初対面のため、自己紹介も行った。


「殿下もサンドラもお久しぶりね。マリアとハインリヒの事は、娘からも聞いているわ。特にマリアは、仲良くしてくれているとか?」


 その話を聞いていたイザベルさんが、必死の形相で否定を開始する。


「お母様!わたくしは、マリアさんのライバルです!競い合う仲です。決して仲が良いわけでは……」


 最初は勢いが良かったイザベルさんだったが、最後の方は小声になっていた。

 そんなイザベルさんを見て、私は咄嗟に口を開いていた。そんな貴女の姿は見ていられないから……。


「イザベルさん。少しお話しませんか?」

「イザベル、中庭で話してらっしゃい」


 その申し出に答えたのは、公爵様だった。表情にこそ出してはいないけど、娘の事を心配していたのだろう。

 イザベルさんは、私と公爵様に対して頷き、こっちよと言って私を中庭に案内した。


 夜会の喧騒が嘘のように、静かな空間だった。明かりも窓から漏れ出る光と、月明かりだけ。

 設置されている椅子に、二人で隣り合って座る。


「イザベルさん。今なら悩みを聞かせてもらえますか?」

「ええ……。悩みというべきなのかは、わかりませんが。まず最初に、貴女の考えを聞いておきたいわ。今回の婚約をどのように感じました?」


 どうのように?アンリ殿下との婚約だけを考えるならば、おめでとうだろう。イザベルさんの意思を考慮しないのであれば。


「とてもめでたい事だと思いました。アンリ殿下は隣国の王族。それも同盟国の、です」

「そうね。それはわたくしも理解しているわ。貴族として、たとえ他国だとしても王族に嫁ぐのであれば名誉なことだと」

「では……イザベルさんとしては?」

「悔しいわ。わたくしは、この国のために努力してきた。この国に尽くすために、頑張ってきたの……。その道が途絶えてしまったように思えたわ」


 本当にイザベルさんらしい。どこまでも貴族であろうとしている。そして、もう答えは出ているようだ。


「踏ん切りがつきましたか?」

「ええ。わたくしが、両国をつなぐ架け橋になりますわ。ルストの王族であり、カージフの貴族として」

「それは、イザベルさんにしか出来ないことですね。さすが、私のライバルです!」

「ライバル……。そうよ!ルストに行く前に、貴女には勝ってみせるわ!」


 いつものイザベルさんに戻っていた。本当に強い人だ。結局、私は話を聞いてあげただけ。

 その後、軽く話した後、会場に戻った。主役をいつまでも独占してはいけないからね。

 イザベルさんと別れた私を、公爵様が呼び止めた。


「マリア。娘の事、ありがとう。あの子には、悪いことをしたと思っているわ……」

「私は何もしていませんよ。イザベルさんは、すでに心を決めていました。私のライバルは、とても立派な人ですね」

「娘は、いいライバルを持ったものね。本当はお礼に、あなた達の陣営に入りたいところだけど、中立派の盟主として、それは出来ないの。ごめんなさいね……」

「大丈夫です。公爵様に選んでもらえるような勢力を、私たちは作り上げますから。その時は、よろしくお願いします」

「貴女が言うと、本当にそうなりそうだわ。そうね……なにか困ったことがあったら、私を頼りなさい。継承戦以外の事なら協力するわ」


 そう言って、公爵様は去っていった。私も、フリードリヒたちと合流する。


「イザベル嬢の問題は片付いたようだな」

「はい。といっても、イザベルさんは大丈夫だったと思いますが」

「そんなことは無い。君がいたから立ち直れたんだと思う。今の私と同じように……」


 いつの間にか、閉会の時間が迫っていた。公爵様が全員に向けて、閉会を宣言した。

 そして、私たちも帰路に就いた。


 皇城に着いた私とフリードリヒ。いたるところで、ルスト王国との同盟の話が聞こえてくる。

 噂の広がる早さに驚きつつ、自室に到着していた。


「お嬢様ぁ、イザベル様とはどうなりました?」

「万事解決よ。それに、公爵様も味方には出来なかったけど、敵にも回らなかったわ」

「よかったですねぇ。そういえば、ルスト王国と同盟を結んだんですか?」


 その後、噂好きの侍女の質問攻めに遭ったのだった……。

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