第71話 イザベルの心の内は?
テスト休暇が明け、秋の社交シーズンが始まっていた。同時に、学校では新クラスの初日だ。
今日からは、お兄様も一緒のクラス。ちょっと嬉しい。
ちなみに、アンスバッハ辺境伯様からの招待状は、お兄様やお母様にも届いていた。これは、選帝侯を狙いにいくのかも?
そんなことを考えながら、教室に入る私たち。さて、イザベルさんの恒例の挨拶(?)を終わらせるか。
……?あれ?イザベルさんの小言が始まらない。不思議に思い、教室内を見回す。
上の空の顔で、席に着いているイザベルさん。何事かと思い、私から挨拶に向かう。
「おはようございます、イザベルさん。今日は元気が無いのですか?」
「ええ。おはようございます。少し考え事をしておりましたの。体調は悪くありませんわ」
いつも元気(?)なイザベルさんらしくない。きっと、考え事とやらが関係しているのだろう。
「悩み事ですか?私でよければ、相談にのりますよ?」
「遠慮させていただくわ。これは、わたくし自身で考えるべき事ですから」
意思は固そうだ。諦めて私も席に着く。両隣にフリードリヒとお兄様が座る。そして、その外側にマクシミリアン様とアマラ。
お兄様が加わったことで、異様さに拍車がかかった気がする。席に余裕はあるはずなのに、ここだけ妙に密集している。
しかも、両サイドは制服を着ていない。身辺警護であって、学生ではないのだから当然だけど……。
旧一組のみんなは、見慣れた光景に一人増えただけだろう。でも、他クラスだった人たちは、初めての光景にざわついている。
たぶん、一週間もすれば慣れてくれるだろう。たぶん……。
若干のざわめきの中、授業が始まった。コース分け後、初の授業だ。
コース分けによって、一部の変化がある。官吏科はあまり関係が無いけど。
騎士科は、算術の授業が無くなり、戦術の授業が倍になる。商業科は、国史の授業が無くなり、算術の授業が倍になる。
官吏科は、今まで通りだ。そのため、次回のテストからは、各教科の配点が変わるらしい。
クラスメートが変わっただけの私たちは、普段通りの午前の授業を終えた。
そしていつも通り、食堂に生徒会メンバー+α(侍女と従者)が集まる。
「ああ!ここはオアシスだ!女子がいる!」
「ん。きもい。黙れ」
一組(騎士科)は予想通り、男性だらけだった。テレーザの罵倒すらも嬉しそうなレオンに、若干の気持ち悪さを覚える……。
「午後の実技は、全クラス合同のままなんですから、大した差はないでしょう?」
「ハインリヒ……。午前の授業中、どこを見ても男しかいないんだぞ?午後まで耐えるのが、どれだけ苦しいかわかるか!?」
「周りを見る暇があるのなら、教師の話をしっかり聞いて、板書でもとっていなさい」
完全にお兄様が正しい。真面目に授業を受けなさい……。
「そうや。アリーセはまだいないんか?今日の授業では見かけんかったで」
「きっと、商談を先に済ませているんだと思いますよ?お姉さまですし……」
「それもそうやな。はよ授業してほしいわ」
私もお姉さまに会いたいな……。色々報告しなきゃいけないし。婚約者が出来ましたとか。
当然、お姉さまも知っているはずだけど、私の口から伝えたい。祝福してくれるかな?
「そうだった。皆に聞いておきたいことがある。夜会などの招待状、どの家からきた?」
フリードリヒの問いに、各々が答える。だいたいの傾向が掴めた。
北部貴族のレオンは、北部中心。南部貴族のローズは、南部中心。西部貴族のテレーザは西部中心。
それと、レオンは武門の家から。ローズは、商売上の付き合いがある家から。テレーザは……引きこもりだからね……。
しかし、例外があった。
「公爵家からは、全員に届いたのか。上位貴族のほとんど、後は皇族にも届いているかもしれないな」
「もしかしたら……イザベルさんの悩みと関係があるかもしれません」
私は、今朝のイザベルさんの様子を説明した。この状況的に、一つ思い当たることがある。
「イザベルさんの婚約、あるいは結婚の発表ではないでしょうか?」
「ありえるな……。相手によっては、まずいことになるかもしれない」
「結婚か。あたしもそろそろ考えなあかんね」
「俺も俺も!マリアちゃんみたいな美人さんがいいな!」
「レオン、マリアほど美しい女性が、他にいるわけないだろうが!」
「ハインリヒ、シスコンも大概にしてくれよ……。俺、冗談で言っただけだから……」
もし本当にイザベルさんの結婚関係なら、いろいろ問題がある。継承戦上の問題が。
第一皇女様に近い人物との結婚となると、正統派勢力が私たちを再逆転する。
第二皇女様に近い人物だと、新道派との勢力差が減り、私たちとの合流工作に支障が出てくる。
中立派貴族だと、中立派の結束が高まり、中立貴族の取り込みがしづらくなる。
公爵家の婚姻は、それだけ影響力のある話題だ。それだけに、皇帝陛下なら事情は把握しているはず……。
イザベルさん本人が喋る気がないようなので、陛下に探りを入れるべきかな?
「フリードリヒ、陛下ならご存じでは?」
「知っているだろうな。婚姻であれば。だが、絶対に喋らないだろう」
「なぜですか?」
「継承戦が始まっているからだ。いずれかの陣営に肩入れする気がないと言っていた。禍根を残すことだからと」
確かに。現皇帝が誰かを贔屓すれば、公平な継承争いとは言えないだろう。きっと、後々火種になる。
「打てる手はなさそうですね……。私たちに、影響が少ないことを祈るしかないですね」
「そうだな。いちおう公爵家に探りは入れてみるが、無駄だろうな」
その後、午後の実技を終えた。イザベルさんは相変わらず、元気が無さそうだった。
ダメ元で再度声をかけてみたが、朝と同じ答えが返ってくるだけだった……。そこまで隠さないといけない事なのか?
他陣営からの横槍を恐れている?公爵家の縁談を妨害出来るような圧倒的権力は、陛下ぐらいしかいないだろう。
それに、貴族の鑑であるイザベルさんが、ここまで落ち込むだろうか?政略結婚上等とか言いそうだ……。
そもそも、婚姻発表の夜会なら、招待状にその旨を書くだろう。普通なら……。
答えの出ない思索を続けているうちに、生徒会活動も終わり、自室に帰ってきていた。
「アマラ、イザベルさんはなんで悩んでるんだろ?」
「お嬢様は何故だと思うのですか?」
「結婚相手が嫌とか?でも、あのイザベルさんがそんなことで悩むかな……?」
「では、相手が特殊なのではないですか?隠しているぐらいですし」
「特殊ねえ?いまいちピンとこないな。はあ……。友達なのに、頼ってくれないのはつらいな……」
「友達だから、かもしれませんねぇ……」
友達だから頼れない?それだけ大事ってこと?それとも、危険だってこと……?
だったら、尚更頼って欲しかったな。それが、友達だと思うのだけど……。
――――――
その後も、なんの進展もないままに、数日が過ぎた。クラス分け後、最初の休日。公爵家の夜会当日だ……。




