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第70話 社交シーズンに向けて

 翌日、私はフリードリヒの部屋にいた。招待状に関する話のために。

 フリードリヒは、皇帝陛下からの呼び出しで留守だった。そのため、マクシミリアン様が対応してくれている。

 と言っても、ただの世間話で時間をつぶしているだけなんだけどね。


「殿下とは、上手くやってくれているようですね」

「婚約者ですからね。フリードリヒに、置いていかれないように必死ですけど……」

「あなた達は、本当に似ていますね……」

「……?」


 マクシミリアン様とは、最近よく顔を合わせる。フリードリヒの身辺警護なのだから、ほぼ毎日会っている。

 だけど、基本的に話すことは無い。挨拶のみの間柄だろう。朝、おはようございます。別れ際に、さようなら。

 あとは、この部屋近辺で数回話しただけ。それも一言二言だけのはず。

 なので、フリードリヒと似ていると言われても……私の事を、そこまで知っていると思えない。


「ああ、失礼しました。マリア嬢の話は、殿下から色々聞いているんですよ」

「ええと……例えば?」

「本当に何気ない話ばかりなので、特別に語るようなことはありませんよ。ですが、強いて言えば……のろけ話ですかね?」

「え!?あの人はなにを話してるのよ!ちょっと詳しく話してください――――――」


 詳しく話を聞いてみて分かったことだけど、フリードリヒの愛が……重い!

 私の授業中の横顔が可愛いとか、魔法実習中の姿が凛々しくて美しいとか、そこまではいい。

 ○○家の息子の、私を見る目が気に入らないとか、物を渡す時に、私の手に触れていたとか……。

 そこまで嫉妬深かったの?大事にされていることは、素直に嬉しいけど……。少し不安だ。


「私、そんなに嫉妬する女ではありませんよ?どこら辺が似ているんですか……」

「そうですね。ですが、似ていますよ。例えば、相手の事を過剰に評価するところなんて、そっくりですよ」


 そういえば、フリードリヒも言っていたな……。私に劣等感を抱いているって。

 こっちこそ、必死なんだから。”完璧皇子”に相応しい婚約者になるために……。


「でも実際、フリードリヒは優秀ですし。政務をこなしつつ、学校の成績もトップ。まさに”完璧皇子”じゃないですか」

「貴女の目からは、そう見えているんですね。私の目に映る殿下は、”完璧皇子の皮を被った内気な少年”ですね。殿下には内緒ですよ?」


 どこが内気なの……?みんなの前でも堂々としていて、皇族としての威厳発揮しまくってますけど?


「全くそうは見えないんですけど?」

「だったら、殿下の演技がとてもお上手ってことですね。あの方は今でも、私の手のかかる弟なんですよ。これも内緒でお願いしますね」


 私とアマラのように、フリードリヒもマクシミリアン様にしか見せない一面があるのかな?ちょっと妬けるな……。

 ん?これも嫉妬なのかな?案外、マクシミリアン様の言っていることは外れてないのかも……。

 そんな私の考え事を邪魔するように、部屋のドアが開かれた。


「マクシミリアン。マリアが来ているというのは本当か?」

「ええ。雑談しながら、殿下のお帰りをお待ちしておりました」

「フリードリヒ、お邪魔しています。マクシミリアン様と、楽しくおしゃべりさせていただきました」


 妙に仲良さげな二人を見て、フリードリヒが怪訝そうな顔で尋ねる。


「マクシミリアン……余計なことは喋っていないだろうな?」

「余計なことは喋っていませんよ。大事なことだけお話させていただきました。ねえ、マリア嬢?」

「……はい。大事で興味深い話でした」


 とりあえず納得したフリードリヒが、空いている席に座る。

 私は、持参した招待状を机の上に並べる。特に目立つように、公爵家と辺境伯家のものを中心にして。

 フリードリヒが、それぞれの差出人を確認している。辺境伯家の招待状をじっくり確認している。


「こちらの招待状が届いたのですが、参加すべきか悩んだので相談しに来ました」

「アーティラ公爵の招待状は、私のもとにも来た。他もいくつか被っているものがあるから、それらは共に出席しよう」

「アンスバッハ辺境伯様の招待状は?」

「私には届いていないな。マリア、出席してくれ。ハインリヒも招待されているかもしれないから、その時は二人で出席を頼む」


 その後、全部の招待状の中身を確認し、中立派貴族の夜会を中心に、参加の可否を決めていった。

 この社交シーズン、前半の週末はすべて予定で埋まってしまった……。昨日休んどいてよかった……。


「それにしても、アンスバッハか。君に届いて、私に届いていないことを考えると、東部での地盤固めか?」

「でしたら、お母様にも確認をしておきますね。選帝侯関係のお話なら、ナッサウ家当主こそ呼ばれていると思いますから」

「そうだな。それに、是非我が陣営に入ってもらいたいものだ……」


 アンスバッハ辺境伯家。カージフ帝国とマグノリア民族連合国の国境を預かる、東部貴族の重鎮。

 東部の四名家で、リューネブルク侯爵家に次ぐ序列とされているが、選帝侯位に就いたことは無い。

 他の辺境伯家同様、政治闘争に時間をかけるのを嫌う傾向が強かった。


 辺境伯。帝国内に四家あり、それぞれが東西南北の国境に配置されている。家格としては、侯爵相当。

 レオンの家、北のバーデン辺境伯家以外の国境は安定しており、その在り方が変容しつつある。

 隣国との貿易の玄関口であったり、政界への参入を目論んだり……。


「辺境伯様は、どのような考えなのでしょうね?」

「わからないな。これまでは社交シーズンですら、帝都に来ることは稀だった家だ。情報が少なすぎる」

「そうですね。戦うべき敵がいない国境。武門の家として、今後の選択に迷っているのでしょうか?」

「かもしれないな。だが、どのような思惑があるにしても、味方になれば心強い家なのは間違いない」


 辺境伯様の考え次第では、継承戦の盤面が大きく動く。正統派にとっては、気が気でない問題だろう。

 現東部選帝侯のリューネブルク侯爵様は、正統派の中核メンバーだから。東部の地盤が揺らぐのは確実だ。


「そうですね。公爵様と辺境伯様。どちらも味方にできれば、選帝侯の半数を押さえられますしね」

「辺境伯はよく知らないが、現公爵はかなりのやり手だ。中立を保てるだけの権力もある。すぐに引き込むのは難しいだろうな」

「最悪、敵対することは避けるようにしないといけませんね」


 とりあえず、当面の社交プランは決まった。残っている中立貴族の取り込み。

 できることなら、公爵様と辺境伯様を味方につける。最低でも、中立を維持する確約は取り付けたい。

 いくら陣営に貴族家が多くても、重要なのは選帝侯の数なのだから。他陣営に与しさえしなければ、いずれチャンスがあるはず……。

 なかなかハードな社交シーズンになりそうだな……。

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