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閑話 母の目から見た演劇大会

 私、サンドラは魔法学校へ向けて歩いている。息子のハインリヒにすすめられたからだ。

 馬車だと混雑しますから。そう言っていたが、校門に近づくにつれて、納得した。

 馬車渋滞を横目に、校門の守衛所で身分を明かす。先日の娘の一件で、警備が強化されたからだ。

 あの時は……本当に肝を冷やした。安全だと思っていた帝都で、他国の工作員が行動を起こすとは……。

 とまあ、それは置いておいて、今日は我が子たちが企画した学校行事。暗い話は止めておきましょう。


 観客席に到着した。学校の外観から、ある程度は想像していたが……広い!

 ここは普段、魔法の訓練場だと聞いた。だけど、この広さなら軍の訓練にも使えそうだ。

 ステージと観客席も、急ごしらえとは思えない完成度。業者を入れて、作ったのだろうか?

 ひとしきり周囲を観察してみたが、この学校……凄い場所だわ。殿下の本気度が伝わってくる。


 観客席で、周囲の貴族と歓談していた頃、我が子たちが挨拶しにきた。

 娘の側に控えるように、息子が追従している。昔の距離感との違いに驚いた。

 昔は、娘と息子は隣を歩いていたはず……。なのに今は……まるで護衛の騎士のようだ。

 なにかあったのは間違いない。でも、今それを聞くのは失策だろう。周囲の目が多すぎるから。

 それに、我が子たちは賢い。なにか、重大な事情があるのだろう。息子の秘密に関することか?


 しばらくして、ステージ上では魔法学校の成果発表が始まった。

 基礎の魔力感知に始まり、各属性の魔法の活用までが説明されていく。私がお母様から習ったことと違う。

 魔力感知からすでに違っていた。きっと、世界最高の魔法教育なのだろう。

 この観客席やステージも、魔法を駆使して作られたらしい。ここの卒業生たちは、どこの部署も欲しがるだろう……。

 こんな成果を見せつけられたら、魔法を使った劇への期待が高まる一方だ。


 そしていよいよ、我が子たちがステージ上に姿を現した。

 殿下の開幕宣言、そして大会の説明。守衛所で渡された案内の冊子は、投票用紙を兼ねていたのか。

 最初の一ページ、プログラムしか見ていなかった私は、最後のページまで読み進めた。

 最終ページが投票用紙になっており、冊子を全部読ませた後、投票用紙にたどり着く仕組みか。

 よく考えられている……。この学校をもっと知って欲しい、その気持ちが伝わってくる。

 冊子を読み終え、ステージに目を向ける。生徒が走ってきた。準備が完了したようだ。


 娘の開演の掛け声とともに、幕が上がっていく。

 冊子によると、広く知られている童話をもとにした演目のようだ。どのように魔法を絡めてくるのだろう?

 最初の「北風と太陽」は良く知っている。太陽は火魔法を使うのだろうが、北風は?

 そんなことを考えていた私を、強い風が襲う。報告では聞いていたけど……これが風魔法?

 目に見えない力というのは……脅威だ。この魔法を突き詰めれば、軍事に非常に役立つだろう……。

 おっと、いけない。仕事柄、余計なことを考えてしまう。ちゃんと、劇を楽しもう。

 その後、太陽役の子の火魔法の威力に驚き、次の童話「三匹の子豚」でも、強引な狼のやり方に笑った。

 レンガ組みの家ですら、狼の魔法で破壊してしまう……。三匹の子豚は、美味しくいただきましたとさ。

 これ、子供に見せられないじゃない!面白おかしくアレンジされていて、良い出来だったけど……。

 そんなことを考えていたら、劇が終わっていた。面白いけど……対象の客層を意識できていないのは減点だ。


 しばらく休憩の時間を挟み、その間に次の劇の準備が進められているようだ。

 冊子によると、出演者全員が女性と書かれている。男性役が存在しない劇なのだろうか?

 ということは、息子は魔法演出専門ということだろう。それはそれで楽しみだけど……演じている姿も見たかった。

 脚本作成者に息子の名前が書いてあるから、演じるのが嫌だったから、女性のみの劇にしたのだろう……。


 いつの間にか、ステージから聞こえてくる音が止んでいた。準備が整ったようだ。

 娘ではなく、小柄な女性が開演を告げた。外見に似合わず、妙に威勢の良い声だった。

 そして、幕が上がった瞬間、客席は驚きに包まれた。男装した女性が、何人も混ざっていたのだ!

 このアイデアはなかった。女性が男性を演じる?先進的過ぎる考えだ……。

 それを息子が考えたのか。恐ろしい才能だ。我が子の非凡さに、ただただ驚いた……。

 劇の中では、男装した女性も含め、歌や踊りで観客を楽しませていた。これは、流行するだろう。

 そして、クライマックスが近付く頃。激しい戦闘が描かれていた。民衆の反乱だそうだ。

 魔法を多用した戦闘シーンは、圧倒的な迫力だ。先ほどまでのきらびやかさとの対比が際立っている。

 最後は、雷魔法で主役級の男性、いや男装した女性が倒れるも、戦闘には勝利しての幕切れだった。

 雷魔法……。これも大きな脅威だ。火魔法と違い、回避する手段がない。放たれた瞬間、命中しているだろう……。

 とりあえずそれは置いておいて、劇の完成度は、前のクラスより上なのは確かだった。

 観客席から、商業公演を求める声が上がってることからも、間違いないだろう。最後の娘の劇は、これを越えられるのだろうか?


 休憩時間中、ステージには息子が帰ってきて、娘が幕の奥に消えていった。

 冊子によると、悲劇の恋愛劇とある。主演と監督、脚本にも娘の名前が書かれている。

 あの子が悲恋の物語を描いたの?まだ十三歳で、領では引きこもってばかりだったあの子が?


 準備が整い、大柄な女性、先ほど男装していた子が、開演の声をあげる。

 いきなり戦闘が始まった。先ほどの劇に比べると、小規模な。貴族同士の対立を描いているのだろう。

 様々な説明の後、娘と殿下が共に姿を現す。二人とも、少し大人びて見える。外見ではなく、雰囲気が。

 いくつかのシーンが過ぎていく。殿下の友情の演技は、とても上手に演じられている。

 そして、仮面舞踏会。デビュタントボールでも披露したダンス。娘が華麗に踊る。

 仮面を外すシーンでは、お互いが恋に落ちたのを、見事に表現している。ここまでの演技が出来るなんて……。

 バルコニーでは、娘の美しさが際立っていた。月明かりを浴びる娘は、妖艶な魅力を感じさせた……。

 ここまで美しかったか?私の娘は。母である私ですら、魅入られそうになる。

 その後も、愛憎劇が繰り広げられ、それぞれの役の心理が深掘りされていく。ドロドロとした人間関係が。

 極めつけは、ラストシーン。娘と殿下のキスシーン。まさか、ふりではなく、本当にキスするとは……。

 演技とは思えない、愛を感じた。娘の認識が変わった。あの子はもう、子供ではないのだと。

 短刀を胸に刺す前のセリフも、実際に体験したのかと思うほどの……迫真の演技だった。

 いつの間にか、劇は終わっていた。娘の成長を痛いほどに感じながら……。


 投票用紙の回収が始まっていた。私は迷っていた。息子のクラスか?娘のクラスか?

 単純に劇としての出来は、娘のクラス。だが、魔法を使った劇というなら、息子のクラス。

 悩んだ挙句、息子のクラスの二組と書いていた。個人コンテストは、迷う余地は無かった。娘と殿下。

 投票用紙を提出し、私は未来を想像していた。

 我が子たちは、今後さらに重要な存在になっていくだろう。国にとっても、殿下にとっても。

 この劇だけ見てもわかる、圧倒的な才能。他の追随を許さないだろう。

 先達として、親として、複雑な気持ちだが……すぐに私を飛び越えていくだろうと……。

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